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第14話 天才の実力

 場所を移動して俺たちはグラウンドに来ていた。


 サッカー部や陸上部など運動部がまだ活動している放課後のグラウンドでの場違い感が凄い。


 なんなら映研の部室にあったそれっぽい衣装に着替えているので運動部の人たちの変な集団を見るような視線が痛い。


 適当にあった衣装を見繕っただけなのに海斗と彩葉は着こなしていてどんな服でも似合う奴って本当にいるものなんだな。


 それに対して俺は最初は継母っぽい衣装に着替えている。


 と言ってもダボダボなヨーロッパの方の平民っぽい服を着て、頭にウィッグを付けた簡易的なものだ。


 今回の目的は演劇の良し悪しではなく映研が部活として継続する為に学校に認められればいいだけなので、衣装にそんなこだわる必要はない。


 先輩は出演する予定もないので何の衣装にも着替えず制服のままだが、今はそれが羨ましすぎる。


 先輩にもこの突き刺さるような周りの視線を感じて欲しい。死にたくなるほど恥ずかしい。


 俺は先輩にジト目を向けてみるが、先輩は気づいてないのかスルーしてカメラの用意をしている。


 そうしてカメラの設置が終わると先輩の声がかかる。


「はーいカメラの設置終わったから早速撮影始めてくよー!最初は3人の森に出かけるシーンからだね!位置について!」


 俺たち3人は先輩に言われた通りシナリオに書かれていたような指定の位置に着く。


「それじゃ、スタート!」


 先輩の合図が入り、ヘンデルとグレーテルの撮影が始まる。


 確か最初は俺の台詞から始まる。


 童話には木こりという継母にとって旦那に当たる人物がいるが、その役をやる人が足りなかったので木こりの存在は消して先輩が物語を改変してシナリオを作ってくれたのだ。


 そして俺は自分の世界へと没入する。


 ここには他には何もない俺だけの真っ白な世界。


 真っ白という事は何色にでも染める事ができる。


 俺は継母、俺は継母、俺は継母、俺は継母……。


 ……来た。


 俺はすーっと目を開いてから決められた独り言を呟く。


「ああ、うちはとても貧しい。遠くに仕事に行った夫は帰って来ないし、家には2人もの子供がいる。毎日を生きる事でさえとても大変なのに子供の面倒なんて見れるわけがない。……そうだわ!明日の朝早く、子供たちを森の一番奥へ連れて行き、そこでたき火をたいて、私はそのまま仕事に向かう。こうすれば子供達も帰り道分からなくて帰って来れなくなるわ!」


 俺は表情を崩して思わずふふっとあたかも自然な笑いを溢す。


 次はグレーテルの台詞だったはずだ。


 いつまで経っても続く台詞が来ないので俺は彩葉に目線を向けようとすると、そこで先輩の声が割って入る。


「はいカット!カット!」


 俺はまるで憑き物が落ちたかのように元の自然体へと戻る。


 思わず役を本気で演じてしまったみたいだ。


 周りを見渡してみると先輩も海斗も彩葉もみんな声が出ずに固まっているようだった。


「えっと、俺なんかやっちゃいました?」


「うーん、やっちゃったっていうか湊くん凄すぎ」


「これには僕も驚いたな。結構演技には自信あるんだけど湊の前だと自信喪失しちゃうよ……」


「湊が演技凄いってのは分かってたけどここまでだったとは思わなかったかも……」


 どうやら3人とも俺の演技に驚いてくれていたようだ。


 演者としては嬉しい限りだが、同じ舞台に立つ2人の邪魔になっていたらそれはそれで本末転倒だ。


 脇役はあくまで脇役。


 主役を食っては意味がない。


 主役より目立つ脇役など演劇の世界においては大根役者もいいところだ。


「先輩、今の演技はどうでした?」


「今のは文句がつけようがないほど完璧だったよ!でも湊くんの演技が凄すぎて2人とも入るタイミング見失ってたからもう一回撮り直そっか」


 俺の演技はどうやら先輩に合格をもらえたようだが、2人が入ってこれなかったようなので仕切り直しとなる。


「それじゃもっかい行くよ!仕切り直して撮影スタート!」


 そうして先輩の合図と共に再度同じ場面の撮影が始まったのだった。

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