第125話 結婚?
俺と彩葉がEMを始めてから1時間くらい経った頃だろうか?
『やっとランク20に上がったぁぁぁぁぁ。めっちゃ時間かかったんだけど』
ようやく彩葉がランクを20に上げる事ができてマルチ機能が解禁したのだ。
彩葉は普段ソシャゲをやらないからか最初の方は操作に手こずっていて、中々思うように進まなかったのだ。
だけど俺が何回かアドバイスをしてやるとそれをすぐに飲み込み途中からは楽に敵を倒せるようになっていた。
……ちなみに1番最初の彩葉は最初に出てくるチュートリアルのレベル1スライム相手に数回死んでいたのには笑えた。
そのおかげなのかチュートリアルの敵に殺される事があるのだと俺は今日初めて知った。
ていうかチュートリアルのレベル1スライムは主人公が攻撃を2回当てれば死ぬし、普通ならどうやっても負けようがないのだがソシャゲをほぼ初めてやるギャルにとってはチュートリアルの敵でさえ強敵だったらしい。
彩葉は飲み込みが早い方ですぐに操作方法のコツを掴んでまともにキャラを動かせるようになって少しだけ感動した。
俺は彩葉の本当に疲れたような声を聞き彩葉の事を思って言葉を投げかける。
「今日はもうここらでやめとくか?慣れないソシャゲをやるのは疲れるだろ?また今度にでもマルチはすればいいしな」
そう彩葉の事を案じたつもりだったのだが、スマホの向こうの彩葉からは少し不満そうな声が聞こえてくる。
『えぇ〜、確かに疲れたけどさ、マルチしようよー。てかどうせ湊結婚機能使わないならさ、あたしと結婚しよ?その方が特別な報酬受け取れたりもするっしょ?』
「……まぁ確かに報酬に魅力感じる事はあるけど」
『はい、じゃあ決まり!結婚しよ!』
「結婚、か。ちなみに一度結婚したらしばらく別れられないから慎重に相手は決めた方がいいぞ」
『もー何言ってんの。別にいーよ。てかあたしはこんな事湊以外に言わないから、湊と結婚できないなら普通にこの機能使わないかも』
「……そうか。まぁ彩葉がいいなら俺たち結婚するか」
『うん!』
側から見れば軽いノリで結婚しようとしているヤバい奴らと思われるかもしれないが、幸いここは俺の自室で誰にも話を聞かれていな…………。
そこで俺はふと扉の方に目を向けると我が家の美少女様と目が合ってしまった。
「……お兄ちゃん?」
妹のルナは少し引き攣った表情を浮かべながら俺の方を見てくる。
「ど、どうしたんだ、ルナ。ノックもしないで」
「……いやノックはしたけど、お兄ちゃん聞こえてなかったの?」
「あ、ああ、そうだったのか。それはすまん。それで一体何の用だ?」
「……お兄ちゃんの部屋にある漫画でも借りようかな、と思ったんだけど」
「そ、そうか。好きなの持っていけばいいぞ」
「……それよりお兄ちゃん」
「あー何の漫画読む?ルナ」
「……お兄ちゃん」
「えーとルナさん?」
「お兄ちゃん!!」
ずっと俺が話を逸らそうとし続けていたからか遂にルナに怒鳴られてしまった。
『……どうした?湊。もしかして何かヤバい感じ?』
電話の向こうからは俺を心配する彩葉の声が聞こえるが今は彩葉に反応している場合ではない。
何故か目の前でキレてる様子の妹を宥める方が先だ。
「ど、どうしたんだルナ。そんなに怒鳴って」
「お兄ちゃんまだ高校生でしょ!そんな簡単に結婚しない方がいいって!てか相手は誰!?七瀬さん!?それとも麗華ちゃん!?もしかしてデキ婚なの!?」
俺はそのルナの気迫に圧倒される。
てか今電話で繋がってる彩葉はまだしも何でそこで麗華が出てくる?
麗華の名前が出た途端、彩葉も何やらムクれたのか口を開かなくなったし。
「お、落ち着けルナ。結婚っていうのはゲームの中での話だから、な?」
俺はベッドから起き上がりルナの両肩を抑えながら何とか説明する。
「……ゲームの中で?」
「あぁ、そうだ。ゲームでの結婚の話だから安心しろ。流石に高校生で結婚するほど親不孝者になるつもりはない」
俺が何とかルナに向かって説明をし終えるとルナも落ち着いたのかほっと一息吐いて「……よかった」と安堵の表情を浮かべた。
ルナの乱入によって俺は今日これ以上EMをやる気が起きなくなり、彩葉に今日終わっていいか聞くと彩葉も苦笑しながら『じゃーね』と言ってから電話を切った。
……彩葉には今度謝っておかないとな。
その後ルナは「邪魔してごめん」と謝ってきたが俺は気にしていない旨を伝えるとそれからは二人で久々にテレビゲームをする事になった。
ちなみにルナは何故かゲームをあまりやらないくせにゲームがめっぽう上手く今日一緒にやったレースゲームも俺の全敗だった。
……やっぱり俺にはEMしかないのかもしれない。




