第115話 道
俺たちは近くにいた店員さんに7人もの知り合いが今から合流する旨を伝えると、店員さんは「7人!?」と驚きながらも4名席を2つ使用していいと言ってくれた。
そして現在、俺の前には縮こまった様子の友里と陽毬が座っている。
二宮先生、聖先輩、海斗、風間、荒井の5人は俺から見て背中側の席に座ってもらった。
「…………」
俺の隣に座っている彩葉がずっと無言な圧を発していて怖い、怖すぎる。
「え、えーと、彩葉?その……ごめん、ね?」
陽毬が何とか謝罪の言葉を絞り出して伝えるも彩葉は全く表情を変える事なく「……何が?」と聞き返している。
「それは……その……尾行しててごめん」
今度は友里が頭を下げる。
いつも部室では仲良しのこの3人だが、まさか彩葉の怒りの矛先が友里と陽毬に向く事もあるんだな、と俺は3人の様子を見ていた。
俺の背後にいる面々は素知らぬ顔で飲み物やスイーツを頼んでおり、友里や陽毬と同罪のはずなのにこの2人の事は完全に見捨てたようだ。
こんなにシュンとした様子の2人は初めて見て、流石に可哀想だと思い俺は彩葉を止める事にする。
「なぁ、彩葉。もうそろそろいいんじゃないか?この2人も反省しているようだしな」
「え?でも……」
「もうこの話は終わりにしよう。俺はさっきまでの彩葉との時間も楽しかったが、皆と団欒する時間も気に入ってるからな」
「……分かった。湊がそう言うなら終わりにする」
彩葉は聞き分けも良くあっさりとこれ以上2人に厳しい視線を向ける事をやめてくれた。
「これは……」
「……天然タラシの素質持ってるね、湊っちは」
……やっぱり止めない方が良かったかもしれない。
助け舟を出してあげた俺に対してこれは酷い言い様である。
そこからは映画研究部の皆を交えてのお茶会へと変化していった。
楽しい時間はあっという間に過ぎる、とはよく言ったもので俺たちは18時を過ぎたあたりでお開きとなり、各々自分の分のお金を支払ってから解散する流れとなった。
お店の外に出て空を見上げるがまだ太陽が沈んでおらず、あたりはまだ明るい。
もう既に夏に入ったのだと実感する。
あと少しで夏休みだ。
今まではそんなに楽しい思い出がなかった夏休みだが、今年は色々と起こりそうな予感をしている。
「湊〜?早く行こ〜!」
俺がこれから未来に胸を躍らせながら空を見上げてたら既にだいぶ先の方まで歩いていた彩葉が振り返って呼びかけてくる。
どうやら俺が気づかぬ間に皆どんどん先に歩いていっていたようだ。
俺は彩葉に対して「ああ」と返事を返してから小走りで近くに駆け寄る。
「悪い、ボーッとしてた」
俺の事を待っていてくれた皆に軽く謝罪を済ませてから俺は彩葉と並んで歩き出す。
「全く……湊って結構抜けてるとこあるよね?」
彩葉はそうクスッと笑みをこぼす。
それに対して俺は否定する事なく「そうかもな」と頷いてから前を見据える。
改めて言うが映研は今の俺にとって1番大切な居場所だ。
まだ3ヶ月しか経ってないのが嘘のように感じる。
俺たちはいつまでこの変わらない関係でいられるのかは分からないが、願うならいつまでもこの関係を続けられたらと思っている。
そう頭の中で整理すると俺は皆の後に続いて家への帰り道を、いや未来へと繋がる道に向けてまた1歩踏み出したのだった。




