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第112話 彩葉と愛花

 昼休みに突入し、星宮グループの5人は全員食堂へと移動する事になった。


 教室を出て行く時にふと視線を感じたので振り返ってみると彩葉が少し頬を膨らませながらこちらを見ており、海斗や風間も何か不満そうな顔で俺の事を見つめていた。


 これはおそらく俺が目立ちたくないと言った手前、愛花や千影達と仲良くしているのが納得できなかったのだろう。


 俺が新たに友人になった4人も見た目は容姿端麗で正直この4人と仲良くすれば普通であれば俺も少なからず目立つ事になっただろう。


 しかしそれは普通であれば、の話だ。


 というのも俺のクラスでは既に海斗や彩葉たちがいるおかげか、その他の生徒はその陰に隠れているあまり目立つ事がないのだ。


 実際、朝も俺の席の周りに4人とも集まっていたが、愛花と千影が言い合いしてる時以外に視線を感じる事はなかった。


 俺は今まで千影のグループをクラスのNo.2のグループだと表現していたが、あのクラスには海斗と彩葉が率いる圧倒的なトップグループがいてそれ以外は誤差なのかもしれない。


 海斗と彩葉の視線を背中にひしひしと感じたが、俺は全くそれを気にする素振りを見せずにそのまま4人の後に続いて教室を出て行く。


 食堂に到着すると結構席が埋まっている印象だったが、なんとか空いている4人席を見つけ、千影が近くから椅子を拝借してそれを席の横にくっつけて5人座れるようにする。


 千影以外は弁当を持ってきており、千影のみ食券を買いに券売機の方へと歩いて行った。


 席に着いて落ち着いた俺たち4人は先に食べ始めていようという事で早速弁当を開ける。


 俺の弁当はいつも母さんが作ってくれる物で今日は唐揚げやら卵焼きやら弁当の中身としては王道のものが入っている。


 4人で手を合わせて「いただきます」と口を揃えて言ってから昼食を始める。


「あ、湊くんの弁当すっごく美味しそう!お母さんが作ってるの?」


「え?あぁ、そうだな。いつも母さんに作ってもらっている」


 俺が自分の弁当に箸を伸ばそうとしたら隣に座った愛花が俺の弁当の中をキラキラとした目で見てくる。


「……何か交換するか?友人同士って弁当の交換みたいなのをやったりもするんだろ?」


「え、いいの!?じゃあ唐揚げ欲しいかも!私のはミートボールあげるね」


 そうやって交渉が成立する。


 俺は唐揚げを1つ箸で掴みとり、愛花の弁当に移そうと思ったが、何やら愛花が口を開けた状態で待っているのでその口の中に唐揚げを放り込んでやる。


 愛花は少し頬を紅潮させながらも手を頬につけて「美味しい」とだけ呟く。


 この俺たちのやり取りを見て目の前に座っている葵と小豆の2人はお互い手を合わせてきゃーっと声をあげている。


 何に対してそんな興奮してるのか最初は甚だ疑問だったが、よく考えてみると今の俺がした行為は恋人同士がするあーんと同じ事をしたのである。


 俺は先程の行為を思い返してから少し恥ずかしくなり顔を誰もいない方向へと背ける。


 しかし愛花はそんな風に俺の事を逃がしてくれるわけでもなく「じゃあ次は私の番だね?」と笑顔を浮かべている。


 俺は覚悟を決めて目を瞑り、口を開ける。


 すると少ししてからそこに丸い球体のものが転がり込んでくる。


 愛花のミートボールを口で受け取ってから咀嚼するが、愛花の箸で渡されたものだと思うと全く味が分からなくてなる。


 俺はあまり先程の行為に意識を向けないように昼食を再開しようと思ったが、ゴオォォォォという冷気が後ろから感じでぎこちなく振り返るとそこには背後に般若を宿した状態の彩葉が腕を組んだ状態で仁王立ちしていた。


 口元は笑っているが目は全く笑っていない。


 端的に言うと凄く怖い。


「な、何か俺に用ですか?七瀬さん?」


「んー別にぃ?ただ星宮くんが楽しそうな事をしているなぁって思って。人前で恋人のようにあーんってやるのって楽しい?楽しいならあたしも体験してみたいんだけど?」


 それは勘弁してくれ、と思うが今の彩葉には何か逆らったらまずい気がして言葉が口から出ない。


 てか彩葉にはこの前やっただろ、とも思ったがそんな事を今言えば火に油を注ぐだけなので絶対に口に出してはならない。


 彩葉の後ろには早乙女さんや神楽さんもいたが、早乙女さんはあらぬ方向を見ているし、神楽さんは手を合わせてこちらに謝罪をしているが今の彩葉を止める事はできないと知っているからか全く止めようとはしてこない。


 そのさらに後ろにいる海斗たち男子三人衆は自分たちはまるで無関係だと言わんばかりにこっちに見向きもしない。


 いや、誰か彩葉を止めてくれよ。


 そんな俺の思いも虚しく、彩葉を止めれる者はこの場にはいなかった。


 彩葉は少しの間俺を睨みつけていたが、周りの視線が少しずつ多くなってきたのを感じて俺に一言耳打ちをしてくる。


「放課後、色々聞くつもりだから。覚悟しといてね」


 今日は俺の命日なのかもしれない。


 彩葉はそれだけ告げてからくるりと方向転換して早乙女さんと神楽さんと共に海斗たちが確保した席へと座った。


「何あれ、七瀬さんってあんな性格悪そうだなんて知らなかった。湊くんに対して八つ当たりもいいところじゃん。どうせ彼氏もいるんだろうし自分の彼氏にしてもらえばいいのに!」


 思った通りというかなんというか間近で彩葉を見た愛花はぷんぷんと可愛らしく怒っていた。


 俺はそんな愛花の頭に手を置いてその手を撫でるように動かす。


 愛花は最初こそ驚いていたが、すぐに気持ちよさそうに俺の手を感じていた。


 そしてしばらくしてから俺が手を離すとその手を愛花は名残惜しそうに見つめる。


 これでよかったのだろう。


 俺にとって愛花は友人で、彩葉は部活の仲間だ。


 だからこそ愛花にも彩葉の事を悪く思って欲しくない。俺にとって少なからず大切な2人だからこそ俺が原因でお互いを嫌いになって欲しくないのだ。


 愛花も俺が頭を撫でた事によりすっかり怒りも消し去ったのか美味しそうに昼食を再開している。


 それから少ししてラーメンをお盆に乗せて戻ってきた千影が「わりぃ、遅くなった」と告げてから手を合わせて食事を始める。


 そうして全員が揃った事で先程の一件は忘れて、雑談に花を咲かせるのだった。

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