第10話 七瀬彩葉④
あたしはさ、元々自分の容姿が人より優れていた事を自覚してたし中学に入ってすぐに今所属しているモデルの事務所から声がかかってモデルとして活動する事になったんだよね。
だから天狗になっていたのかもしれない。
あたしは人とは違う、人より優れているってね。
確かあれは中学2年生の夏頃だったかな?
あたしのマネージャーがあたしはモデルだけで活躍するなんて勿体無い、女優としても活躍するべきって言ってくれてさ、それであたしは演技にも力を入れるようになったんだ。
思ったより演じる事自体は嫌いじゃなくてさ、どっちかというと好きに近かったかも。
それでこっからが重要なんだけど、あたしは自分で言うのもなんだけど結構順調にモデル兼女優として活躍し始めてたと思う。
だけどあたしは中2の文化祭の時に演技をもうしない事を誓ったんだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
あたし達の中学校では、11月の最初に3日間連続で文化祭が開催される。
あたし達学生にとっての一大イベントだ。
準備は1ヶ月前から行い、10月1日の今日は何の出し物をするかあたし達のクラスでは話し合いを行われていた。
クラスの男子はメイド喫茶やコスプレ喫茶などと言っており、欲望が丸見えであたし達女子は皆少し引いている。
「うわ、メイド喫茶とかマジないわぁ。彩葉もそう思うっしょ?」
あたしの隣の席で男子に軽蔑的な視線を送ってるのが幼馴染兼親友の赤羽友里だ。
彼女は女子としては少し身長が高くてスタイルも良いので女の子で憧れを抱いている子も何人かいるくらいだ。
「あーあたしもメイド服着たりするの嫌かも。だってあれめっちゃ露出してない?」
あたしは友里に向かって至極真面目な顔で話す。
「えーでも、彩葉のメイド服とかウチめっちゃ見たいんだけど!ウチもメイド喫茶に票入れようかな!」
あたしの後ろの席から急に会話に参戦してきたのは、もう1人の幼馴染兼親友の如月陽毬だ。小柄で愛嬌もあり小動物感があって男女問わずに人気がある。
「コラコラ陽毬、やめい」
あたしは陽毬の頭に軽いチョップをかましてから前を振り向く。
こういう場では基本的に男ばかりが意見を言う為基本的に出店の意見ばっかりが出るが今ある中にあまりやりたいと思えるものは何もない。
ここら辺であたしも何か意見言っといた方がいいかなーなんて思ってると隣からいきなり声が上がった。
「はーい、あたしは演劇がいいと思いまーす」
その声の主である友里は一瞬こっちを向いてパチンとウインクをしてからこの場を仕切っている学級委員の2人の方を向く。
「せっかくこのクラスには彩葉がいるのにさ、演劇やらない方が勿体なくない?それに彩葉以外にもあたしとか陽毬もいるし」
友里のその声に対して男子達は「いや確かに美人だけど、自分で言うなよ(笑)」などと突っ込んでいる。
でもこう言うのを見るとあたしの幼馴染はやっぱり凄いと思う。
だって一瞬でクラスの雰囲気を支配してまとめちゃうんだから。
「えっと、確かに赤羽さんの演劇という意見もいいですね。皆さんはどう思いますか?」
学級委員として前に立っている大谷くんがクラス全体を見回しながら全員に問う。
その問いに対してクラスメイト達は各々顔を見合わせて口々に言う。
「てか確かにうちのクラスにはこの学校の3大美少女がいるわけだし、反対するわけなくね?」
「にしても演劇って実質コスプレだよな?」
「いやーあの3人のコスプレ見れるとか本番楽しみで仕方ないわ」
「うわー男子キモ!でも彩葉ちゃん達がいるのに演劇しないのって確かに勿体無いね」
「それなー宝の持ち腐れみたいなものだよね。3人ともうちのクラスが誇る宝物だし」
「3人が衣装着てくれるとかまだ演劇内容決まってないけど何着ても可愛いに決まってるよね!」
クラスメイトの反応を見る限りは、皆演劇をする事には賛成のようだ。
その様子を確認してから大谷くんはコホンと1回咳払いしてから皆の注目を集める。
「えーじゃあ出し物は演劇で決定でいいですね?それでは次は内容と配役を決めていきたいと思います。何か意見はありますか?」
まぁ流石にオリジナルをやるには脚本から書かなければいけないしあと1ヶ月しかない今からやるには現実的ではないから、既に世間にある映画とか昔話とかを元にした演目になりそうだ。
あたしはうーんと頭を悩ましていると今度は後ろから声が上がった。
「はいはい!うちはシンデレラやりたいかも!」
天真爛漫な顔で陽毬が意見を言うと皆ほっこりとした顔をして「確かにシンデレラいいかもね」「結構やりやすそうだしね」などと特に反対の人はいなさそうだったので演目の方はすぐに決まった。
それで次は配役決めだが、女の学級委員である真田さんがスマホで配役を調べて黒板に書き記していく。
主な登場人物はシンデレラ、王子、魔法使い、継母、義姉、義妹のようだ。またその他にも舞踏会や街中で登場する脇役もいるがこれは配役から漏れた人から適当に選ぶみたいで、先にメイン人物の配役決めを行うようだ。
大谷くんがクラスを見回しながら言葉を発する。
「それで配役を決めたいのですが、自薦他薦どちらでも構わないので、何かある人いませんか?」
大谷くんの言葉にクラスメイトは皆顔を見合わせる。
「そんなのねぇ」
「もう決まってるようなもんだよな」
あたしは頭に疑問符を浮かべながら、隣人の友里に話しかける。
「え、どゆこと?なんか皆もう話し合うまでもないって雰囲気なんだけど」
あたしがそう友里に聞くと友里ははぁ、とため息をついてから言う。
「まぁ彩葉っぽいって言えば彩葉っぽいんだけど。みんなシンデレラはあんたにやってもらいたいんっしょ。だから演劇頑張んなね」
友里のその声にクラスメイト達は皆うんうんと頷いて賛同を示している。
その様子を見た真田さんがシンデレラの文字の下に七瀬と苗字だけスラスラ書いていく。
……もう決定事項なんだ。
あたしはなんだか納得いかないような感じがしながらもシンデレラを演じることを決意する。
最近は仕事でも演技に力入れているし、演技する事自体には結構自信がある。
主役を任されたからには勿論本気でやるつもりだ。
その後王子役に友里、魔法使い役に陽毬が選ばれ、他の脇役はクラスの女の子達が演じる事になって無事話し合いは終わった。
あたしはこの時はまだ文化祭が成功すると信じきっていた。
当日になってまさかあんな事になるとは露知らずに。




