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元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい  作者: 86
第2章

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第102話 "新"3人娘

 球技大会も無事終了して6月最後の休日に入った。


 あたしは外に出掛ける支度をしながら球技大会の事を振り返る。


 湊ってば、他の女の子にデレデレするとか本当有り得ないんだけど!


 結局最後の試合でも活躍してだいぶ目立ってたし、目立ちたくないとか言ってたのはなんだったわけ!?


 ……いや多分湊の事だからあれくらいで目立つのは予想外だったんだろうな。


 湊はおそらく常人よりも身体能力が高いんだと思う。


 だから湊にとって手を抜いているつもりでも普通の人からしたら湊は凄いように見えるんだと思う。


 まぁ湊に悪い虫がつくと困るからあたしも他の女子を牽制しといた方がいいのかもしれない。


 これでもあたしは自分の立場がクラスの中で最上位に位置している事は理解している。


 だからこそあたしが湊に近づけば他の女子は迂闊に湊と関わろうと思わないだろう。


 でも問題なのは湊が教室ではあたし達と関わろうとしない事だ。


 もういっその事割り切ればいいのに、と思うけどそう単純な事じゃないのだろう。


 あたしの恋心はいつか実る日が来るのだろうか、と少し憂鬱な気分でため息を吐いてから着替えを済ませる。


 湊の事はあとで考えればいい。


 今は支度を済ませる事を優先するとしよう。


 なんせ今日はドラマ『それでも君に恋をする』の大事な顔合わせと1話撮影があるのだ。


 決して遅れるわけにはいかない。


 あたしは時計に目をやってまだ時間に余裕がある事を確認すると鞄に台本等の必要なものを詰め込んで家を出る。


 そして家の最寄駅から電車を使って20分ほど揺られていると目的の場所へと到着する。


 今日の撮影スタジオは駅から歩いて5分ほどのところで比較的時間に余裕を持って到着することが出来た。


 撮影スタジオに早速入るともうすでに何人ものテレビで見たことあるようなモデルや俳優、女優などがいて正直自分が場違いのように感じてきた。


 そんな風に緊張をしていると見知った顔が近づいてきて、声をかけてくる。


「あ、七瀬さんこの前ぶりです。まさか七瀬さんとこんなところで会うとは思っていませんでした。今日、というかこれからよろしくお願いしますね」


 声の主は湊の妹のLunaちゃんだった。


 Lunaちゃんはあたしより全然幼いのに丁寧な言葉遣いを操り年下だけど尊敬するに値する人物だと思う。


「Lunaちゃんは何の役やるの?」


「私は、ヒロインの妹役ですね。七瀬さんは何役ですか?」


「あたし?あたしはヒロインの友人役だね」


「なるほど、それなら共に演技する事もあるだろうしその時はよろしくお願いします」


「ふふ、こっちこそよろしくね」


 おそらくLunaちゃんはただ知り合いというだけであたしに声をかけて来たのだろう。


 しかしあたしがそれを利用しない手はない。


 流石に仕事始まれば仕事に集中するが今はまだ監督も来ていない状態で役者の人たちは皆各々知り合いを見かけては雑談したりしている。


 なのであたしもここはLunaちゃんと言葉を交わして友情を育もうと思う。


 というのも湊を落とすためにまず妹であるLunaちゃんが懐いてくれるように誘導しよう。


 将を射んとする者はまず馬を射よ、という言葉があるようにまずは湊の外堀から攻めさせてもらう。


「ねぇねぇLunaちゃん。Lunaちゃんってさ、好きなお菓子あったりする?今度の撮影日にあたしが持って来てあげるよ」


 女子中学生という生き物はお菓子に弱い。


 なのでまずはお菓子で釣ろうと思う。


 そんな事を思っての提案だったのだが、あたしが思ってた反応とは違いLunaちゃんは目を細めるようにして静かに言葉を発する。


「……七瀬さん。お兄ちゃんが好きだからと言って無理に私に賄賂送ろうとしなくてもいいですよ。相談さえしてくれれば私は全然協力しますし」


 ……。


 一瞬でバレてしまった。


 あたしは何も言えなくなり苦笑いを浮かべるくらいしかできない。


 そして2人の間に少しの間気まずい沈黙の時間が流れていると遠くからあたしを呼ぶ声が聞こえた。


「あ!彩葉ちゃーん!!」


 あたしとLunaちゃんはその声に反応して声が聞こえて来た場所を見る。


 するとそこには手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる様子の桐谷莉乃ちゃんがいた。


「あれ、莉乃ちゃん?莉乃ちゃんもオーディション受かったんだ!」


 あたしは莉乃ちゃんもオーディションが受かったと思い、一瞬顔を明るくさせて喜んだのだがよく考えればあたしと彼女が応募したのは同じ役。


 そしてその1つしかない役に合格したのはあたしだ。


 つまり彼女は1番希望していた役にはなれなかったのだ。


 あたしはそれが気まずくて莉乃ちゃんから目を逸らしてしまうが莉乃ちゃんはあはは、と笑いながらまるで気にしてないよ、とでもいうように手を横に振る。


「大丈夫だよ、彩葉ちゃん。その様子だとあの役は彩葉ちゃんになったみたいだね!おめでとう!芸能界なんて実力至上主義。正直落ちたからって受かった人を恨むのはお門違いもいいところだからね。それに面接官の人からモブ役だけど一応配役は貰えたし!」


 彼女は相当性格もいいのだろう。


 あたしは彼女の神対応に「そうだね。ありがとう」と礼を言ってからLunaちゃんの事を紹介する。


「こっちはLunaちゃん。と言っても知ってるよね?最近有名なモデルさんだし」


「もちろん知ってる……ていうか彩葉ちゃん、そんな凄いモデルさんと知り合いだったの!?」


「いやあたし……というか友人の紹介、みたいな?」


「へぇ、彩葉ちゃんは人脈も凄いんだね」


「あはははは…………」


 まぁその人がLunaちゃんの兄でありあの星宮湊だという事は黙っておこう。


 湊もLunaちゃんもそれは望んでいないわけだし。


 莉乃ちゃんは改めてLunaの全体を見てから手を差し出した。


「私は明星プロ所属の桐谷莉乃。これから何度も顔合わせるだろうしよろしくね」


「ご丁寧にどうも。私は今はまだ無所属のモデル兼インフルエンサーとして活躍しているLunaです。よろしくお願いします」


 Lunaちゃんって無所属だったんだ……。


 それであの知名度は流石星宮千秋と星宮湊の血を引いているとしか思えない人気ぶりだ。


 まぁでもこれを言ったらLunaちゃんはいい気しないだろうから絶対に口には出さない。


 それから5分ほど3人で色々は事について雑談していたら、とある3人がこの場所に足を踏み入れ、その瞬間空気が凍った気がした。


 この場にいる全員がそちらに視線を向けてその3人を視界に収める。


 中心にいるのは今回のドラマの監督であり、監督の右後方にいるのが若林凪。今回のドラマの主役を演じる俳優だ。


 そして左後方に立っているのが白石麗華。


 今回のドラマのヒロイン役であり、おそらくこの場にいる誰よりも演技が上手い女優である。


 あたしはその存在感にやられて体が硬直していくのを感じる。


 正直存在感だけであれほどとは思っていなかった。


 果たしてあたしは無事に今日、演じ切ることができるのだろうか?


 それだけが不安材料であり、あたしは3人から視線を外す事はなかった。

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