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第101話 球技大会閉幕

 彩葉の説教タイムが終わって始まった第4試合。


 つまり決勝戦である。


 というか俺は今までさっきの試合が準決勝だったなんて知らなくて先ほど海斗から教えてもらったばかりだ。


 既にサッカーの3位決定戦や他のスポーツの全試合も終わっているらしくほとんどの生徒がこの試合の観戦に来ている。


 決勝戦の相手は3年生である。


 毎年のサッカー決勝戦はほとんど3年生VS3年生になる事が多いらしく、今回は1年生であるこのクラスが快進撃を続けているため上級生の先輩方も目を見開いて驚いていた。


 全ては海斗と佐藤のおかげである。


 俺はハーフライン付近で向かい合って整列している皆の1番左に並び、審判の指示に従って挨拶をし、目の前の人と握手を交わすと迷いなく足をベンチに向けた。


 遠くの方から彩葉たちの呆れた視線が突き刺さるが、俺は気にせずにベンチの場所に行き腰をかける。


 海斗も苦笑しながらこちらを見てくるが、佐藤は何か気に入らないのかめちゃくちゃこっちを睨みつけてきている。


 そしてそれからあまり時間が経つ事なく試合がスタートした。


 どうやら最初はは3年生ボールのようだ。


 流石決勝戦に上がっているチームなだけあってお互いのコンビネーションや1人1人の動き方が今までの対戦相手とは違う。


 俺のクラスのディフェンダーがスライディングをして相手からボールを奪い取って前に送るが、すぐにそのボールを相手に奪われて攻撃をされてしまう。


 中々皆、思うようにプレイできていない感じだ。


 そしてそれからすぐの出来事だった。


 完璧にディフェンスラインを崩された俺のクラスは開始10分過ぎたあたりで相手に1点を献上してしまう。


 そしてその勢いに乗った先輩方は前半終了間際にも容赦なく1点を奪っていった。


 ハーフタイムに入り水分補給と作戦会議のために俺の座っているベンチ付近に寄ってくるとすぐに佐藤が口を開いた。


「星宮、お前後半から入れ」


 その言葉に俺は「え?」っと思わずマヌケ声が出てその言葉の主である佐藤の方を見る。


「今のままでは勝つ事はほぼ無理だ。だからお前を入れて流れを変えるぞ」


 佐藤の言葉に海斗も頷きながら自分も賛成だという意思を伝える。


 周りを見渡すとチームのメンバー全員が俺の一挙一動に注目しており、俺ははぁとため息をつくと掌を上向きにして差し出し、言葉を発した。


「……それじゃあビブスくれ」


 その言葉に佐藤は笑顔を向けて前の試合で怪我して俺と交代した生徒にもう一度ビブスを差し出すよう促してから背中を向けてフィールドへと戻っていく。


 俺も静かにビブスを受け取るとそれを体操服の上から着て、フィールドへと入る。


 今までは感じなかったが決勝戦は思ったより注目の的らしい。


 俺はふぅと一息つくと意識を目の前の試合に集中する。


 いつもは基本だらけているのでたまには全力を出してもいいんじゃないだろうか。


 俺は自分のポジションの場所へと歩いていき、審判の試合開始の合図を待つ。


 それからはすぐに後半戦は開始された。


 今度はこちらのボールからだ。


 海斗がいつもと同じように佐藤にパス……はせずに、いきなり俺にボールを渡してくる。


 俺は自分の奇跡を信じて今までの試合で見てきた上手い人たちのプレイを思い出す。


 確かこんな感じだったか?


 俺の目の前に大型な先輩が足を開いて俺を止めようとしてくるが、俺はボールを後ろに下げて右足で地面へと叩きつけそれを踵で頭の上へと飛ばして弧を描く。


 人はこれをヒールリフトと呼ぶ。


 周りの観客からはざわめきが起きる。これも久しぶりの感覚だ。


 俺はヒールリフトを繰り出して楽に1人突破すると、すぐに2人が詰め寄ってくるがそれを俺と並走して走っていた海斗に一旦ボールを預けると同時に俺は抜け出して再度ボールを受け取る。


 綺麗なワンツーが決まり、左サイドでだいぶ敵陣に切り込む事ができたが、ゴールまではまだ遠い。


 俺はそれを前の試合で見せたクロスで上に上げるとそこに走り込んでいた佐藤がヘディングで決めようとするがそれは相手のディフェンダーも高くジャンプをしておりボールは弾かれてしまう。


 しかしちょうどその場にボールが来ると予想していた俺はもちろん走り込んでおりこぼれ落ちたボールを思いっきり目の前に蹴飛ばしてゴールネットを揺らす事になった。


 俺は今起きた事が現実だと受け止めきれずポカンとゴールに入ったままコロコロと転がるボールに目をやる。


「やったね!み……星宮!」


「ナイスだ!星宮!」


 海斗と佐藤が両脇から俺の肩に腕を伸ばして喜びを共有してくる。1年C組の他の面々も俺の周りを取り囲み皆で喜び合う。


 しかしまだ1点だ。


 ここからあと2点決めなければ勝つ事はできない。


 そう思っていたのだが、俺の1点により完全に流れが変化し、リスタート後すぐに海斗が相手からボールを奪いそのまま1人でドリブルし1点を手に入れ、後半最後に佐藤が決勝弾をゴールに突き刺して2-3で1年C組が勝利を収める事になったのだった。


 球技大会において1年生の優勝は異例な事なのか、観客席にいた先輩方は皆驚いた様子でこちらに視線を向けていた。


 俺のクラスの生徒たちは生き生きとした表情で最後相手と向き合って並び挨拶を終える。


 そしてそれからすぐに授賞式へと移る。


 授賞式では他のスポーツでは3年生のクラスの名前が呼ばれる中、サッカーで1年C組の名前が呼ばれ、代表として海斗が前に賞状を受け取りに行った。


 その後は筒がなく閉会式も進行し、無事球技大会も終了する事となった。


 そして自分たちの教室に戻ると皆各々に今日の出来事について盛り上がっていて、この後皆で打ち上げ行こうととかいう話が出ていたが俺はそれに気づかないフリをして1人先に家へと帰宅した。


 帰宅途中で彩葉から『打ち上げいかないの?』というレインが送られてきたが、俺はそれに参加しない旨を伝えると彩葉が謎に起こったクマさんスタンプを押してきた。


 別に俺1人くらい参加しなくてもいいだろ、とは思うが多分そういう問題ではないのだと思う。


 俺はは彩葉の送ってきたスタンプを見てふっと笑みを浮かべてからもう太陽が沈み始め茜色に染まっている空を見上げて今日のことを振り返る。


 久しぶりに演技をしている時と同じ視線を感じる事ができた。


 あの視線を開けるとやはり気持ちいいものだ。


 そして俺は根っからの役者なのだろう。


 自分では目立ちたくないと思いつつも少し目立っていた事に喜びを感じている自分がいる。


 俺は真面目に行事に参加してみるのもたまにはいいな、と思いながら静かな帰宅路を帰っていくのだった。

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