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第98話 Another Side

「んー惜しかったね、あたし達」


「今回は相手が強かったし仕方なくね?」


「私がもう少し上手く立ち回れば……」


「もう、恵は真面目なんだから」


 そんな風にあたし達は軽口を叩きながら水筒に入っているお茶を飲みながら体育館からグラウンドに向けて歩き始めた。


 あたし達1年C組の女子ドッジボールチームは残念な事に2回戦で3年生と当たり負けてしまった。


 相手のクラスは運動部に所属している先輩が多かったらしく、あたし達はなす術もなく完敗した。


 もうこれ以上体育館に留まっていてもやる事がないのであたし達は男子のサッカーの試合を見に行こうって話になり今目的の場所へと向かっているところだ。


 あたし達はもう終わった事を気にしても仕方がないと割り切って楽しく談笑しながら歩いていると後方から突然声をかけられた。


「あれ、彩葉じゃん」


「やほやほ、彩葉」


 その聞き覚えのある声にあたし達は立ち止まり、後ろを振り返る。


 あたしはほぼ毎日のように顔を合わせているその2人の姿を認識してから言葉を発した。


「……友里に陽毬じゃん。どうしたん?」


 そのあたしの問いかけに2人は何やらニヤリと意味深な表情を浮かべてからこう答える。


「実は今湊達の試合やってるらしいよ、彩葉」


「どうする?彩葉。湊っちの試合行く?行っちゃう?」


 2人が凄くニヤニヤとした表情でこちらを見てきてあたしは2人の言葉に頷くのは少し癪だったが、湊の試合はこの目で見たいという気持ちもあり渋々と言った感じで頷く。


「……行く」


 あたしの反応に2人はいっそうニヤけた表情をしてから友里が「じゃあ早く行こ!」という言葉と同時にあたしの手を掴んで走り出した。


 あたしの隣に並んでいた莉桜と恵は最初ポカンとした表情でそれを見ていたが、すぐに陽毬と共に小走りであたしの後ろをついて来た。


 ほんの少しの間駆けていたが、湊たちが試合をしている場所に辿り着くと友里も急にストップした。


「あ、秀!それに健人!今どうなってる?」


 どうやら湊達の試合を見に来たのは秀に健人も同じだったようで、2人はあたし達の存在に気づくと手を振りながら近づいて来た。


 そして秀は周りをキョロキョロと見回してあまり人がいない事を確認してからこの場にいる人間だけに聞こえるよう小声で呟いた。


「今星宮は1人でベンチにいるわけなんだけど……」


 そこであたし達女子が全員そちらを向くと気怠そうにしている湊の姿が確認できる。


 湊は相変わらずだなぁ、と思って少し笑みが漏れる。


「いっその事全員でアイツに向かって手を振ってみない?幸いな事にこの試合には海斗、そしてついでだけど佐藤もいるわけだし、彩葉たちが手を振ったところで湊に手を振ってるって事はあまりバレないんじゃないかなって思って」


「秀、それ賛成!」


 秀がこっそりと提案した案に真っ先に友里が乗っかる。


 そして莉桜と恵、それに陽毬と健人も面白そうと言いながら賛成を示す。


 あと残ってるのはあたしだけなので皆があたしに視線を向けてくる。


「……うん、あたしも賛成。もしかしたら湊がフィールドに立ってくれるかもしれないし!」


 あたしも賛成を示した事で早速友里と秀が率先するように豪快に湊に向かって手を振り出す。


 それに続くようにあたし達5人も湊に向かって手を振ると湊はこちらの存在に気づくが気づいていないフリをしてそっぽを向いてしまう。


 その様子にあたし達は思わず笑みが漏れてしまうが、そんな時だった。


 どうやら1年C組の1人が怪我をしてしまったらしく、湊がビブスを受け取ったのだ。


「ねね、湊試合に出るんだけど!ヤバない!?めっちゃ応援しよ!」


 思わずと言った形で少し興奮したあたしはそんな風に周りに向かって叫んでしまう。


「わ、分かったから……湊が試合に出て嬉しいのは分かるけど一旦落ち着こっか」


「……うん」


 我に返って自分が何恥ずかしい事を口走ってたんだろうと思うとほんのりと頬が染まっていくのが自分でも分かる。


「彩葉ってこんな顔もするんだ」


「……確かに意外ですね」


 あたしのクラスでの様子しか知らない莉桜と恵は少し取り乱した様子のあたしを見て目を丸くしている。


「まぁ彩葉って基本的に男子から呼び出される時とか話しかけられるのは嫌うけど湊っちが関わると別だからね。なんていうか本気で恋する乙女の顔になるんだよね、彩葉」


 陽毬がそんな風に補足してくれているが、いざそれを自分の耳で聞くと恥ずかしく思えてくる。


「べ、別にそこまで恋する乙女の顔はしてないし……」


 あたしは無駄と思いながらも少しだけ抵抗したく思い、言葉を発したが映研に所属しているメンバー全員に否定された。


「いや、してるじゃん」


「してるね」


「してるよね」


「してるな」


 順に友里、陽毬、秀、健人である。


 客観的に見たあたしはどうやら結構恋する乙女らしい。


「まぁあたしらには丸わかりだけど当の本人が結構鈍感なんだよね」


 友里はそう今ビブスを着てフィールドに入って行った湊の方を見ながら呟いたが、それに対して陽毬は異なる意見を持つようでこう言葉を発した。


「うーん、本当に鈍感なんかな?ウチは半分の確率で彩葉の気持ちに気づいていると思うけど」


「……え?」


 陽毬の唐突な言葉にこの場にいる全員が陽毬の方を凝視する事になった。


「そ、それってどういう……」


 あたしは陽毬の言葉が気になりすぎてそこについて質問しようかと思ったら陽毬は手をパンパンと叩いて「もう試合始まるよ!」と試合の方を指差して言った。


 結局陽毬の言葉の意味について詳しく聞く事はできなかったが、それはまたの機会にでも聞けばいい。


 今は湊のプレイを集中して見る事にしよう、とそう思うのだった。

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