魔法の使い方
その男は──私を守ってくれた。
風を操り、熊を殺してくれた。
その瞬間だけは、痛みを忘れていた。
涙を我慢しながら、私は口を動かす。
「ありがとう」
声は出なかった。でも、伝わった気がした。
彼の申し訳なさそうな顔が、ぼやけていくのを横目に──私は気を失った。
*
目を覚ますと、彼が私を見つめていた。
心配そうな顔。
少しだけ視線を下げると……膝から下が、なかった。
ぞわっとして、冷や汗が流れる。
痛みが、じわじわと戻ってきた。
けれど、さっきほどではない。この布のおかげ...?
意識がはっきりするにつれて、思い出す。
あの人は──魔法を使っていた。何かを、唱えて。
「お、おい。大丈夫か? 今日はこの辺りで野営しようと思ってたが……
無理にでも、村に戻りたいか?」
彼が声をかけてくる。表情には、はっきりと心配が浮かんでいた。
でも……それより、気になるのは彼の魔法だ。
そう、言葉とともに強い風を起こしていた。
──あれが、魔法の使い方?
私の「代償魔法」は、代償を払えば“なんでも”できるはず。
なら……脚を治せるかもしれない。
脚を治すための代償は……髪、とかでいいのかな。
とりあえず、試すしかない。
この痛み、早く、終わらせたい。
「 」
代償魔法──脚よ、治れ。
代償に、髪を捧げよう。
「な、なんだ? 何か伝えたいのか?」
私の下半身が、光に包まれる。
腰まであった長い髪が、ゆっくりと消え──肩まで短くなった。
そして──光がやむと、そこには元通りの、綺麗な脚があった。
「な……!?
王都の治療院でも、こんな綺麗に再生できるやつは数えるほどしか……
しかも髪が……短くなってる?
もしかして、代償魔法か? だから、こんな森の奥に?」
男は混乱しながらも、思考を巡らせていた。
脚が……治った。
髪は少し短くなったけれど──これも悪くない。
とにかく、彼について行けばきっと人里にたどり着ける。
全身、血と涙と……汚物でぐちゃぐちゃ。
早く、村でも町でも──どこでもいいから、人のいる場所に行きたい……。