絶望。初めまして。
マコトは静かな森の中を歩いていた。
本当に人なんているのだろうか?
人里なんて、本当に?
声は出ない。耳も聞こえない。
不安が心の奥からじわじわと広がる。
けれど他にすべきこともない。とにかく歩くしかなかった。
──数分後。
異変を感じたのは、ほんの一瞬だった。
熱、空気、影。背後に確かに「何か」がいた。
マコトははっとして振り返る。
「───っ!!」
音のない悲鳴が漏れた。
そこにいたのは、巨大な熊だった。
地元の人間には脅威でもなんでもない、ただのモンスター。
“キラーベアー”と呼ばれている。
しかしマコトにとっては、死そのものであった。
「───っ……!!」
助けて、誰か助けて!!
声は出ない。だから願いも、祈りも、誰にも届かない。
次の瞬間。
キラーベアーが爪を振る。
マコトの足が、切断された。
「───!!!!!」
マコトの膝から下がなくなり、ドサッと地面に落ちる。
痛い。痛い。痛い。痛い。
痛みが思考を濁す。視界が赤く染まる。
痛い
声が出せないのが、余計に恐怖を増幅させた。
私は……何もしていない。まだ何も、していないんだよ。
女の子になったばかりなのに。なにも楽しんでないのに。
いたい、いたい、いたい──。
熊がゆっくりと距離を詰めてくる。
次は、命を奪うつもりだ。
「────!! ────!!」
どうしよう。どうすればいいの。
痛い 痛い
魔法? でもどうやって使うの? 痛い。
代償? 何を払えば?
こんな時、私は、また……死ぬの?
考えがまとまらない。
足の痛みで思考が千切れていく。
そして、キラーベアーの爪がふたたび振り下ろされた──
でも
爪は、マコトには届かなかった。
「大丈夫か!もう安心しろ!!」
音は聞こえない。
それでも、守ってくれたと理解できた。
突風とともに現れた彼は剣を構え、キラーベアーの攻撃を受け止めていた。
それをみて私は
ほんの少しだけ、痛みを忘れた。