代償
──暗闇の中で、私は目を開けた。
痛みはない。なにがあったの?ここはどこ...?
視界がぼんやりとしている。どこか、知らない場所にいる気がした。
美しい女性が、私の前にゆらりと現れた。
「お前はどこまでも我慢をして、その上理不尽な死でその生を終えた。
だからそんな人生の帳尻を合わせてやる。」
神は冷たく笑った。
「転生をさせてやる。だが空いている世界は魔法とモンスターがひしめく異世界。お前にはつらいことの方が多いだろう。ふん、別にやめたっていいが、これはお前のくだらない人生の最後のチャンスだぞ?」
転生?魔法?モンスター?....いや。最後のチャンス?
「この世界では皆一つだけ魔法を持つ。ありきたりな火の魔法から、火も氷も使える魔法、ドラゴンを召喚したり、猫になったり様々だ。」
転生もモンスターもどうでもいい。彼女は私に一つの魔法をくれると言ったんだ。
「好きなものを選ぶがいい」
私は探した。女になる魔法を。
「ふん。女になりたいのか。だがお前のすべては魂に刻まれている。そして強固に結ばれている。
自業自得だがな」
神は冷ややかに告げる。
「女体化や姿を変える魔法はいくらでもある。しかしお前の意思はいまだに自ら男であろうとしている。性別くらい好きに選んでしまえばよかったのに、お前は自らの魂に深く性別を刻んでしまった。
そんなお前が女になるにはこれしかない。」
「代償魔法。代償を払えばなんだってできる魔法」
「この魔法で幸せになった者など一人もいないがな。好きに使え」
神の声は冷たい。
魂に刻まれた18年の重み。
18年の代償。
「お前が女になるには相応の代償が必要だ。そうだな……耳、声、あとは妊娠だな」
神はにやりと笑った。
私は一度深く考えた。
声が無ければ私は高い声で笑えない。
耳が無ければ愛した人の声を聴けない。
妊娠できないと、私は未来に何も残せない。
それがなんだ?
私にはもともと高い声なんてなかった。
愛したい人も愛せなかった。
妊娠なんてできなかった。
なんだ
何も変わらない。
変わるのは性別だけだ。
だったら私は.....
「女の子になりたい」
そう言うと、私は光に包まれる。
喉、耳、下腹部が激しく痛む。
痛くても声が出せない、神の声も聞こえない。
だが私は地面に反射した自分をみて、笑みを浮かべた。
そして、気を失った。
「女になることを選んだか。面白いことになりそうだな。
あの世界はまったくもってダメだ。
ここ数年、大きな戦争もない。
人は強くモンスターは大した脅威じゃない。
おかげで対したことが起きなくて退屈していたんだ。
しばらくあの魔法の使い手は作らなかったからな。
最初は誰が動き出すかな.... 」
「ずっと見ててやる。マコト、楽しませてくれよ?」