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8.不承の夜会

 王城で行われた舞踏会は実に華やかだった。


 シャンデリアに照らされた大広間は装飾品で溢れ、そこに集まる人々もまた、美しい宝石やドレスを身に着け、輝いている。


 社交場、特に舞踏会にはよく参加しているが、王家の催しに勝るものは無い。


 四月二十日。


 フロンス・ナツラは、次期プクラトディニス公爵として王城の舞踏会に正式に招待された。父のフルークと共に参加し、要人達への挨拶を主に行っていた。


(最後はルエンと踊らせて貰おうかな。)


 ルエナは貴族達の注目を浴びながら、ウェントスと談笑している。


 二人は互いの体がくっつく程近くに立ち、時折肩や髪を触り合っている。仲が良いのは素敵な事だが、人前で晒して良い距離感では無い事に気づくべきだ。


(アビーも忙しそうだしな。)


 口出ししそうな兄はひっきりなしに現れる貴人達の対応に追われている。アヴィスもまた、社交界の柵に囚われる者だ。


 社交場は好きだが、挨拶回りは苦手だ。父に連れ回され、繰り返し同じ言葉を発する事にうんざりしていた。


 早くダンスがしたい。今日はデビュタントボール以降、初めてルエナが舞踏会に来ている。彼女と楽しい時間を共有したい。


 などと、吞気に構えていたら、ルエナはソリス王子にダンスの申し込みをされた。しかもよりによって、ラストダンスだ。


「ルエナ・ヒエム嬢、私と踊ってください。」

「謹んでお受け致します。」


 ルエナとソリスの手が重なり合う。悔しいけれど絵になる二人だ。


(伯母上の差し金か。)


 王妃ヘルバは策士だ。この展開も全て彼女が意図したものに違いない。それに素直に従う従兄弟も、フロンスには理解出来ない。


 見とれているうちに音楽が始まりそうだ。


「父上、私も踊って来ます。」

「相手は選べよ。」

「心得ています。」


 フルークに一言断りを入れ、フロンス自身も踊り場に移った。


 ラストダンスと言えば本命と踊るのが通例だ。しかし、社交界の首領、貴婦人の恋人と揶揄されるフロンスにおいては、その限りでは無い。


 数多くの舞踏会に参加し、その度に様々な相手とダンスを踊った。ファーストダンスもラストダンスも含め。


 今回もラストダンスに選ぶ相手に深い意味は無い。


 フロンスはメル王女と共に音楽に体を揺らした。


 姫の小さな肩の向こうで、ルエナがソリスと息の合った踊りを披露しているのが目に入った。つい先日教えたばかりの流行のステップだ。


 ルエナは技を完璧にマスターしているだけでなく、パートナーの考えもよく読み取れているようだ。ソリスがあれ程面白そうに踊るのは初めて見る。


「フロンス?」


 ルエナの事を見過ぎた。メルが不安そうな、怒ったような声で呼ぶ。


(アビー、これは失敗だな。地味な色は逆効果だったらしい。)


 フロンスはアヴィスが、ルエナが目立たぬようにと、地味な紫色のドレスを用意したのを知っている。


 赤色のドレスを着る者が多い今回は、紫色がむしろ目立つ結果となった。フロンスも無意識に目で追ってしまうくらいに。


 当のアヴィスは、ルエナが予想以上の実力を発揮し、爪痕を残すのを見守る事しか出来ないようだ。


 ちらりと様子を伺うと、「何故踊れるんだ。」とでも言いたげな、不機嫌そうな顔をしているのが分かった。


 アヴィスは、ルエナのデビュタントが無事終了するなり、妹のダンス講師を解雇した。社交場に出す気が無いから、ダンスのレッスンも不要と考えたのだ。


 にも拘らず、ルエナが今尚軽やかに踊れるのは、フロンスが秘密の授業をしているからに他ならない。


 あの日、ルエナから悩みを聞いた時、すぐに閃いた。


 自分が講師になれば、妹のように可愛がっているルエナと関わる機会を増やす事が出来る。公爵令息という立場を利用すれば、必ず止めるであろうアヴィスにも内緒で進める事が出来る。


 ルエナは、アヴィスの計らいでフロンスの授業を受けられるのだと信じて疑いもしなかったが、その裏ではフロンスがアヴィスを謀っていた。


 そのせいで、最も避けたい事──ルエナの婚約が大きく迫っている。


(この事がバレたら、アビーは怒るよな。)


 フロンスは人生で初めてダンスを楽しめない舞踏会を過ごした。

ルエナ・ヒエム(19歳)

 メイフォンス侯アヴィス・ヒエムの妹。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:7.秘中の手土産


アヴィス・ヒエム(24歳)

 メイフォンス侯爵。ルエナの兄。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:7.秘中の手土産


ウェントス・ヒエム(19歳)

 メイフォンス侯アヴィス・ヒエムの弟。ルエナの双子の兄。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:7.秘中の手土産


フロンス・ナツラ(24歳)

 プクラトディニス公爵の長男。アヴィスの乳兄弟。

 初登場  :4.舞踏の授業

 前回登場話:5.天王山の支度


ソリス・ヴィリディステラ(19歳)

 ヴィリディステラ王国第一王子。

 初登場  :6.壁の美しき花

 前回登場話:7.秘中の手土産


メル・クリス・ヴィリディステラ(16歳)

 ヴィリディステラ王国第一王女。ソリスの妹。

 初登場  :6.壁の美しき花

 前回登場話:6.壁の美しき花


フルーク・ナツラ(47歳)

 プクラトディニス公爵。

 初登場  :2.王家の使者

 前回登場話:7.秘中の手土産


ヘルバ・ヴィリディステラ(38歳)

 ヴィリディステラ王国の王妃。

 初登場  :3.王妃の試練

 前回登場話:5.天王山の支度

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