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15.庭花の種類

 オペラ鑑賞の後、ソリスは次の約束を取り付けた。


 彼が言うには、


「話をする時間が必要です。」


、と。


 翌日には、王城に円滑に入れるようにと、招待状付きの手紙がヒエム家に届けられた。


 もう時間が無い。無実の証明程難しい事は無い。


 ルエナはカルチェ暗殺の首謀者と思われている。断罪の時が近い。


 しかし、ルエナには解決策が分からない。


 毒について調べてみたが、それらしい文献が見つからない。暗殺に使用した『それ』が何かも分からぬのに、冤罪から逃れる糸口など見つかるはずもない。


(このままでは家に迷惑がかかってしまう。)


 ヒエム家の為に、ヒエム家の役に立ちたくて、これまで努力を重ねてきた。ソリスとの婚約で、それが漸く実るはずだった。


 状況は一変して、今ルエナがヒエム家を危機に陥れている。


 ルエナが断罪されれば、ヒエム家は王太子の婚約者殺しの家族になってしまう。


 大した案を思いつけぬまま、王城に入った。


 応接室ではなく、上階にある小広間に通された。わざわざ城の奥まった所に案内したのは、逃亡を防ぐ為だろう。


「王子殿下がいらっしゃるまでお待ちください。」


 ルエナは執事が引いた椅子に座り、部屋の中を見回した。


 十人程が座れるテーブルや芸術品は、よく磨かれており、光沢がある。バルコニー付きの大きな窓を見れば、景観の良い部屋なのだろうと分かった。


「窓をお開けしましょうか?」


 ルエナを案内し、お茶を用意していた執事が声をかけた。ルエナが窓を見ているのに気づいたのだ。


 確かに新鮮な空気を吸った方が気分が落ち着くだろう。


「お願いします。」


 窓が開け放たれる。


 風に運ばれた緑の香りがルエナの鼻をくすぐる。庭の植物の匂いだ。城の足元で植物達が花を咲かせている事だろう。


 ほんの少しだけだが、リラックス出来た。


 ソリスはそう長く待たせなかった。


 ルエナは緊張で渇く喉を湿らす為に普段よりも早いペースで紅茶を飲んでいた。いよいよカップが空になるというところで、彼は入室した。


「何の為に来ていただいたか、説明するまでもないでしょう。」


 ルエナの対面に座り、ソリスはそう言った。


(来てしまったわ、断罪の時が……!)


 ルエナは途轍もない吐き気に襲われた。今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいたかった。


「ドアの外には人を待たせています。必要になればすぐに呼ぶ事が出来ます。」


 ソリスに言われ、ルエナは部屋の入口に目を向けた。


(いつでも捕まえる事が出来るとおっしゃりたいのね。)


 机の下で握りしめた手の中で汗が滲むのが分かる。ルエナに逃げ場は無い。


「かしこまりました。」


 ルエナの声は僅かに震えていた。


「さて、本題ですが……、貴女は王太子妃になる事に異存無いですよね?」


 ソリスは、ルエナが王太子妃の座を狙ってカルチェを害したと確信しているのだろう。


 動機が捏造されている。


「はい。ですが、──」

「証人も用意出来ています。即座に場を設けられます。」


 ルエナの罪を告発する証人がいると言う。存在するはずのない証人が。


「ご家族の同意は頂ける状況でしょうか?」


 家族。その言葉を聞いた瞬間、ルエナは頭に針を刺されたような感覚になった。


「兄は……兄は関係がありません!」


 ルエナは椅子から立ち上がり、必死に訴えた。


 ソリスは一瞬驚いた顔をしたが、間もなく冷静な表情に戻った。


「そういう訳にもいかないでしょう。」


 駄目だ。


 ルエナはふらりと椅子の横に移動し、ゆっくりと後ずさりした。


「ルエナ・ヒエム嬢?」


 俯き、表情を見せず、ゆらゆらと揺れているルエナに、ソリスが心配そうに呼びかけた。


 直後、ルエナは青ざめた顔を上げた。そして、震える唇から決死の言葉を告げた。


「わたしが独断で彼女を手に掛けました! 兄達は一切の事実を知りません!」


 ルエナはソリスに背を向け、窓に走った。


「ルエナ・ヒエム嬢! 何を⁉」


 ソリスの制止など意に介さず、ルエナはバルコニーに飛び出た。その勢いのまま、バルコニーの手すりに手をかけ、上半身を持ち上げ、足を載せ──


「ごきげんよう。」


 ルエナは最後に、机に躓いて転んでいるソリスに挨拶を述べた。振り向いた頬には絶望の涙が伝っていた。


 ごくり。


 ルエナの喉が鳴る。


(痛いだろうな。一瞬だと良いな。愛されたかったな。)


 ルエナの頭に瞬間的に様々な思いが巡る。


 バルコニーの下には色とりどりの花達が風に揺れている。遠くて何の花かは判別できないが、……これから分かる事だ。


 ルエナは息を吸いながら、虚空に一歩踏み出した。


 ずんっと体が沈み、世界が傾く。


「ルエナー!」


 誰かの叫び声。

ルエナ・ヒエム(19歳)

 メイフォンス侯アヴィス・ヒエムの妹。

 初登場  :1.籠城の花嫁

 前回登場話:14.悲劇の前奏曲


ソリス・ヴィリディステラ(19歳)

 ヴィリディステラ王国第一王子。

 初登場  :6.壁の美しき花

 前回登場話:14.悲劇の前奏曲


カルチェ・フーパ(享年17歳)

 スキエンティ公爵の長女。王太子の元婚約者。

 初登場  :2.王家の使者

 前回登場話:14.悲劇の前奏曲

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