召喚編――俺は光合成できる能力が欲しかった。
一人暮らし始めてこのデカいフライパンあれば皿も鍋も要らなくねって思ってたとき――
ピカピカフローリングが光り出した!
(お、なんだっ!?)
「……っ」
(って、声に出せよ俺、これがアニメなら映えねえってもんじゃねぇよっ)
――なんて思いつつコンロのツマミをぎゅぎゅっと〈止〉に。
「さすが冷静沈着冷製パスタな俺ぇ、って光強くなって、おわ、おわわわ、おわぁぁぁあぁあぁあぁあぁ、なんてセルフエコー付けちゃったりして、さすが冷静沈着冷製パ」
―――――――――――――――
(真っ暗じゃねぇか。いや、まさか……)
「目が、目がぁぁぁぁぁ付いてるぅぅぅ。目ぇ閉じてただけでしたぁぁぁ!」
「――うっさいバカ」
段々焦点が合ってきたお目目の先にはなんと絶世の美女!!
「――ではなくそれなりの美女!!」
ゆるっとした長めの茶髪。
スラッとしたプロポーションっ。
たまらんっ!
「藤山、相変わらず過ぎ、静かにして」
「元2軍女子の三島さんが現れた!!脳裏に冷たいツッコミが蘇るぅぅぅぅ」
「ほんと勘弁して」
「えぇぇ?まぁしゃーなしだぞぅ?この俺が本気を出せば丸一日は――」
「――あ、あのっ!藤山くんっ、周り見てっ?」
「ピキュイーン!!この声っ、元8軍女子の川本さんだぁぁぁぁ!!」
俺は残像が出るほどの速度で頭を回転っ!
目のピントギューっ。
「ふっ、やはりな。元8軍女子!!」
肩までのサラッサラな黒髪。
小柄ながらも均整のとれたプロポーションっ。
たまらんっ!
「ごめんね?いま余裕ないからちゃんと不快だよ?」
「これは失礼つかまつったんこぶ」
「……ほんとに相変わらずだね」
「――オホンッ……もうよいか?」
正面、王冠のおっさん。
「よいぞ」
「ちょちょちょっ!藤山くんっ!?いや、あの、ほんとにごめんなさいっ」
「……いや、構わん。彼にも儀式を始めてよいかな?」
(……広い部屋、周りには鎧着たやつ15、変な杖持ったやつ8)
「いいぜ、まとめてかかって来いよおっさん。俺が妄想で会得した拳法、今こそ見せてやるっ。ひゅおおおぉぉ――ぉぉ――ッ――」
(――なんだっ!?俺の美声が尻すぼみにッ!?)
「藤山、今のアンタじゃ魔力も見えない。ほんとに大人しくしてて」
(それでもっ、俺はッ!)
「――ッッ――ッ――ッッ」
「なに?またつまんないこと言ったらもう知らないからね」
(……喉のググッて感じが消えたっ!)
「――おしっこ行きたいッッ!!」
実はずっと我慢していたのだ。
「……さいっあく」
―――――――――――――――
「ではすっきりしたところで、話を先に進めて頂きましょうか」
「あの、この人の言うこともう無視してもらっていいので……。本当にすみません……」
「そんなっ!川本さんが謝ることなんて、8軍だったことぐらいだよっ!」
「…………」
「ふむ……こちらの身勝手に巻き込んでおるのだ、説明もせず儀式へ進もうとしたのはこちらであり、彼に非はないだろう。すまんな」
「人間として非は大ありだと思いますけど」
「――あっれぇ?いま俺でも何にも言ってなかったよねぇ?余計な口挟んだの誰だろなぁー。ピキュイーンッ!そうだっ。元2軍女子の三島さんだっ」
「……あのね、藤山。いま全方位へ無駄に敵作ってるの分かってる……?」
「ふっ、さすがに分かってるさ。俺、就職組だろ?社会人だっつの、2週間前までは」
「は?なに、アンタ仕事辞めたの?」
「おうよっ、俺は今自分にぴいぃったりな仕事が舞い降りるのを待ってんだよっ」
「……ニート」
「おっとぉ、喧嘩かぁ?俺は男女平等主義だぞぉ?」
――藤山流ファイティングポーズッ!!
「きも」
「……説明を始めてよろしいか?」
俺はポーズを解き、姿勢を正し、口を開く。
「――え?ずっと待ってたんですけども、早くどうぞ?」
「ぅあ、ちょっ、あの、ほんとにこの人、誰にでもこんな感じでっ――」
「いやいやいや、相手選ぶに決まってんじゃん」
「もうやめてぇ!?それなら選び間違いだよっ!」
「ふむふむ……」
俺は腕を組み、おっさんを見る。
「――構わん」
「ほらね?」
「なんでぇ!?」
「ま、自称天使の川本さんには現世のことなんて分からんか」
「ぅ、久しぶりに言われたぁ……。自称じゃないからねぇ……?」
「――ではまず王国の現状から話すとしよう」
「ぁ、王様も変人ってことか。ぅわわわ、な、なんでも――」
「川本さんっ、ビンゴッ!!」
「嬉しくないからっ!」
――――――――――――――
「――と、いうわけだ」
なるほど。
「要するに俺の右乳首になぜ1本だけ毛が生えているのか、という話ですね?」
「アンタひとつも聞いてなかったでしょ」
「三島さんっ、ぶっぶー。ほんとはちゃんと聞いてましたぁーっ、ばっかだなぁ」
「……その1本だけ生えてるやつ抜いてあげる、服脱いで」
「ヤダヤダヤダ、大事なお毛毛なのぉ〜」
ここぞとばかりに体をクネクネっ!!
「キモすぎ……。人間大のゴキブリ見てるみたい」
「……あの、さすがに俺にも心は存在するのよ……?せめてイモムシとか……」
「上目遣い……きも」
「くぅぅぅ、相変わらず容赦のない三島さんっ、たまんねぇなぁっ!!」
「……なんでよりにもよってコイツが来たんだか、はぁ」
「――それはお主らが望んだからだな」
「え……?」
珍しい三島さんの動揺っ!
「うそっ……」
川本さんの失礼なリアクションっ!!
「なんだってぇぇぇッ!!どっちが俺のこと好きなのぉぉぉぉぉッ!?」
――俺の喜声ッ!!!!
「うるさいって、ほんと……」
「もし好きでも今ので嫌いになるよ……」
「やだ川本さんっ、そんなこと言っても誤魔化されないんだからっ」
「好きでも嫌いでもない、無関心かな」
「うおうっ!リアルな答え飛び出したぁっ」
効っくぅぅぅぅぅっ!!
「一応言っておくけど、アタシも違うから」
「ちょいちょい、それは無理あるてー」
ここぞとばかりにやり返すぜぇっ!
「召喚されたのアタシたちだけじゃないから」
無理でしたぁっ!
「その通りだ。全員の総合的な望みにより、お主が呼び出された」
「総合的ぃ!?俺ってば人気すぎるよぉ〜ぅ」
「キモいのもういいから、てかほんとに話聞いてたんなら分かってたでしょ」
「へぇ、まだ俺が話聞いてたか疑ってんの。浅はかだぜぇ、それはよぉ」
「なら簡潔に要約して」
「――俺たちの目標は占領された島を経由しつつ海を渡り、魔王を倒すこと。報酬は元の世界への帰還と実現可能な願いふたつ。死んでも元の世界に戻るだけ。そして俺は別の場所に召喚されたやつらの補填要員。そいつらには能力付与済みであり、そう心配は要らない」
「……相変わらずキモいよね、アンタのそういうとこ」
「ぷぷぷ、負け惜しみしちゃってぇ、かっわいいんだからぁ、三島ちゃーん、みっしまっちゃーっん」
「……うわ、ほんとに腹立つ。ボコボコにしていい?」
「へぇ、俺とやる気かい?高校でも負けなしの、このっ、俺とっ!」
「1回も喧嘩してないからでしょ」
「冴えたツッコミっ!三島さん、高校卒業からもう2年近く、実は俺が恋しくて仕方なかったんじゃないの〜?」
「全然」
「ひょえ〜っ」
「仲いいね、2人とも……」
「川本さんと三島さんはあんま仲良くなさそうだね」
「うわ、アンタそういうこと言うのマジでやめときなよ」
「そお〜?俺が来るまでの空気知りたいなぁー」
「べ、別に仲悪いとかじゃないもんっ。普通に話してたよね?三島さんっ」
「いやきついでしょー、自称天使の人と2人きりはきついよー、ね、三島さん」
「いやふつーにアンタのほうがきついから。そもそも自称天使って――」
「いやいやいやっ、気にしなくていいよっ?あのっ、王様っ、儀式っ、儀式しちゃいましょっ?」
「うむ、藤山殿、魔力と天職を与える儀式を行う。よいかな?」
「よいぞ」
「ちょっ、いや、別にもういいのかな……」
――――――――――――――
俺から2人が離れ――
そして俺に8つの杖が掲げられ――
儀式が始まるっ――
「怖いぃぃぃぃぃ、こわいよぉぉぉ、三島ちゃぁぁぁぁん」
「こういう場面ぐらい静かにしてなさいよ」
「三島ちゅわぁぁぁぁぁん!!」
「うっさい」
――杖から白い光がっ!
「どぅわぁぁぁぁぁっ!!」
「うるさいってば。てかアンタ、魔力が見えてなかっただけでちょっと前からもう真っ白だったよ」
「あ、そうなの」
――――――――――――――
「――ステータス」
目の前に半透明ディスプレイ出現ッ!!
「見せて」
「え、ヤダ」
「は?」
「どうぞ」
「わたしもわたしもっ」
「え、ヤダ」
「ま、真似しろってこと?……オホンっ……は?」
「え、ヤダ」
「なんでぇ!?」
「我にも結果を教えてくれるか」
「え、ヤダ」
「ちょっ、やっぱり王様にふざけるのはナシのほうが――」
「もうっ、藤山殿が意地悪するなら我すねちゃうんだからねっ?」
「合格ぅぅぅぅぅっ!!」
「うわ、王様もやっぱり変な人だ……」
「では三島さん、俺のステータスを要約したまえ」
「ゴミ」
「端的だなぁ……。でも魔力とかすんごいよ?」
「それ以外カスだからゴミ」
「でも俺神官らしいよ?2人のことバンバン回復しちゃうよ?」
「アタシたち後衛だから。魔弓使いと魔法使い。だからゴミ」
「ひょえ〜っ」