9.出会い※クレイ目線
夜会の日、クレイは一人残した愛し子を思い浮かべていた。
初めの出会いはスラムの井戸の前だった。
孤児院の子かと思っていた幼児は綺麗なエメラルドグリーンの瞳でクレイを見つめた。
その日クレイは死を覚悟していた。
毒を盛られ少しでも流そうと水を求めたが井戸までたどり着いたものの力尽きそうになっていた。
ただでさえスラムという治安の悪い場所で、そこに死体がひとつころがっていても誰も不審に思わないだろう。
「はは、オレの努力も、無駄だった、そういう事か」
腕には小さな傷があった。その傷自体は小さなものだったが毒が塗られていたらしい。しかも大量に。
井戸のそばでがくりと足の力が入らなくなる。
目が霞む。
「もう、むり」
目を閉じれば楽になるのだろうか、そう思った瞬間だった。
「にーたん、どうちたの?」
小柄な子供が立っていた。
2歳か3歳くらいだろうか?スラムでは栄養が足りず小柄になりがちだから4歳くらいかもしれない。
子供の前で死ぬのか、誰かは知らないが人の死にゆく姿を見せるのは悪いなと思った。
が、その瞬間
「いたいの?だいじょーぶだよ、いたいのとんでけー」
淡い光が見えた。
幻覚かと、そう思った瞬間毒が抜けていくのが分かった。
「だいじょうぶだから、こわくないから」
その言葉を聞くとともに不覚にも気を失った。
あの日の天使は14で死ぬはずだったクレイを救った。
あれから10年か、そう呟いて空を見る。
少し離れた場所で少女たちの歓談声が聞こえる。
夜会というにはこじんまりした集まりだがこれからデビュタントを迎える練習にはなるのだろう。
「平和、だねぇ」
あの頃とは違って、とは声に出さず夜会を終えた。
短めですが読んで下さりありがとうございました