2-6.脱出
ほーほー、と梟の鳴き声がする。森が近いのだろうが居場所は全く特定できなかった。
人質に与えられた部屋はみっつ。二人一部屋と言われたがユーリに一部屋与え、マリアとイオリの強い意見によりマリアとキリ、ザッカとイオリが同室になった。
いくら成人前といえど、成人間近の男女が一部屋などと言うが二人は決して引かなかった。
一度部屋を確認後、ユーリの部屋に集合して今後の事を話し合うことにした。
「ひとまず従順に。いいですね?」
「はい」
ユーリは真面目で優しい大人の女性で、クレイからの信頼も厚い、昔からの知り合いらしい。と聞いた時、キリは、嫌だなと思ってしまった。
そんな自分の汚い心を見たくないと痛む胸を無視した。
部屋から外が見える、結界は屋敷を守るように張られていた。
やはり穴だらけ、そう思うが、ある程度なら大丈夫なようでひとまずは安心だとキリはそれらを眺めた。
デビュタントのドレスはクレイが用意してくれた。
緊張はしていたし着飾るのは苦手だけど、それでも、あのドレスは少し楽しみだった。
「間に合うと良いな……」
ぽつりと呟いた。近くになんの建物もないこの場所の静けさがキリの呟きすら吸い込みそうだなと思った。
食事も取れるし屋敷内での行動制限はあまりない。
二階部分は自由に行動しろと言われた。
一階には少人数が見張っていた。20ほど居た筈だが、今はそこまでの気配は感じなかった。
キリはそのうちのひと部屋である書斎に入り浸った。
大きな窓から空が良く見えたから。
三日、それだけたつと恐怖心が麻痺してきた。
窓の外だけ見ていると閉じ込められているというより休暇のようだと思ってしまう。
だけども、ここに、クレイがいない。
それが寂しいと思ってしまった。
窓に触れるとビィィンと音がする。結界に触れてしまったようだ。
彼らの目的が分からない分温存して、いざと言う時に動けるようにしておくべきなのは分かる。
けれど、駆け出したい。と、思ってしまう。
「キリ、食事の時間よ」
開いていた扉を二回叩きユーリが声をかけてきた。
慌てて窓辺から離れる。
「あ、分かりました。」
そう言いながら部屋を出ようとしたらユーリから声をかけられた。
「……助けてくれるって信じているの?」
言われた意味が分からずユーリを見る。相変わらず真面目な表情で何も読み取れなかった。
「えっと?」
「貴方はいつも外を見ているでしょう?助けを待っているのかと思ったのよ。先輩……クレイ先生が助けに来ると信じてるのかしら、と思ってね」
問われて改めて考える。
考えて、思い浮かんだ答えは……
「違います。せんせーは、助けに来るんじゃなくて」
続きは言えなかった。ユーリが顔を歪めたからだ。
「……ユーリ先生は、何を我慢してるんですか」
答えの代わりにした質問には答えて貰えなかった。
夜会まであと二日、ここが何処なのか分からないし、間に合わないかな。なんて呑気に考えていた。
「ちんちくりん、お前危機感がねぇな」
そう言われてへにょりと笑った。
「そりゃね。あいつら殺そうとしてないじゃん。殺気がまるでない。それに……」
それに、ここの結界は逃がさないためではなく寧ろ、と続けようとした言葉はユーリに遮られた。
「殺されないからと言って安全ではありませんよ」
「……それでも、怖がって何も出来ない日々は心がすり減るだけだって、おれは知ってるから」
「そう。だけど、警戒はしておいてください」
しんとしてしまった食堂でかちゃかちゃと食事の音だけが響いていた。
その日の明け方、爆音で目が覚めた。
寝が浅いのはこの状況なので当然として、そうでなくとも起き上がるほどの音に飛び起きた。
「な、なにが」
慌てるマリアを落ち着かせ廊下に出ると皆も同じように出ていた。
「結界がゆるんでる、攻撃受けてるのかな。けど、これは……」
廊下の奥の小さな窓を触れる。結界に綻びを見つけ小さく呟いた。
外から見つからないようにこっそりと伺いみる。
「誰かいる。下のやつらも動きそう。」
武器を取り上げられているキリ達は無防備で様子を伺うしか出来ない。
ザッカとユーリも魔力抑制の魔道具をつけられ魔術が使えない。
逃げ出すにも自分達を守る術がない。
外の人物が味方とも限らない。
そっと見るが爆発の影響で砂埃がすごく、人物の特定には至らない。
次の瞬間また結界が揺らぐほどの爆発が起き爆音に耳を塞いだ。
「逃げるなら今がチャンスでしょうね」
冷静なユーリの声にキリは首を横に振った。
「それは違うと思います。ここが何処なのか、武器はどうするのか、魔道具の解除法は、色々解決してないのに……」
「貴方の言い分も分かります。しかし、このままという訳にはいかないでしょう?」
その言葉への反論は出来なかった。小さく頷くと結界の綻びがあった屋敷から出た。




