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2-5.餌2

ボスらしき人物は嬉しそうに魔道具を発動させていた。シーザルがいるのも構わず通信の魔道具で現状を報告している。


シーザルは会場を眺める。

あちらに声が届いていないだろうが不用心だな、と、ボスを心の中で貶める。


「そろそろ移動の時間よな。より良い餌はどれだ?」


問われて息を吐く。


「担当してるガキでいいんじゃないのか?」

「ひとりでは何かあれば困るから、かと言って大人数も無理だからな……5人前後というところだな。」

「そうだな、行ってくる」


階段を降りつつシーザルはため息を吐く。こんな大事にしやがって、と毒づきたいが言えるはずもない。


「先輩……クレイ・ウィリアムズが担当していたガキはどいつだ?」


キリが手をあげようとしたのをマリアがその手を握り阻止する。


「……だんまりか。お前らが全員無事に帰す必要はねぇんだ。何人が傷つけばおしゃべりになってくれるのかね?調べてみようか?」


手をかざす先にはドレス姿の少女達がいた。

ここでもキリは大きな違和感を覚えた。

結界の外から結界で守られている少女に魔術を放つ。しかもその結界はシーザルが施した。

とんでもない違和感に混乱する。


「わ、私が、傷ついても、も、もう、逃げません。」


少女達を庇うようにミヤが一歩踏み出した。

マリアがキリに首を横に振りその場を離れ声を出す。


「ええ、私も同意しますわ。たった一人を犠牲に生き残るなど淑女の矜恃が傷つきますわ。」


言葉とは裏腹にミヤもマリアも微かに震えていた。

見るとザッカも押さえられていた。

今は出るな。と……


けれど、キリはこの大きな違和感を無視出来なかった。結界ギリギリまで歩みを進める。

止めようとした友人を振り払って。


「おれだよ。平民だし、特別に強くもねぇ。それでも人質になれるんならおれが行く。ここに居る中でおれが一番『無価値』だから」


そっと結界から出ようとすると、シーザルは眉をひそめた。


「とまれ、そこにいろ。餌は5人程考えている。そのうちひとりはお前でいい。あとはそっちで決めろ」


制止されある種の確信が芽生える。


「分かった。でもお願いあるんだ。犠牲が必要になったら、おれにしてくれ」


振り向くことなくシーザルは言葉を投げ捨てた。


「お前が決めることじゃない」



かつかつと階段を上がるシーザルを横目にキリは安堵の息を吐く。

振り向いて友人たちの元に歩みを進めた。

自分の確信に近い違和感を伝える為に。




キリ、ザッカ、イオリが行くと手を上げた。

ザッカはキリと同じ立場だったという理由から、イオリはキリを放っておけないと言い出してだった。

残り2人についてどうするかと言えばイオリの班の全員が手を上げた。そして、マリアも……


「全員が武力を持っていては油断も誘えませんわ。私なら少々の魔術の心得があります。ですけれど、それは公表されておりませんし、何より私は淑女として学園に通っております。それに……私も平民ですから」


その言葉にモカイが声をあげた。


「それなら僕だって平民だよ。キリやマリア嬢が行くなら僕も」

「いや、モカイとワイアットとマシューは辞退してくれへんか?クレイ先生に全部伝えて欲しいんや」


モカイの言葉を遮ったのはイオリだった。

キリの持つ違和感を伝えたのはマリアとミヤを含めた合同班の人間だけだった。


「わ、私も」


ミヤも声をあげるがマリアが首を横に振る。


「いいえ、いざと言う時に動けないならば、それは死を意味します。私のような平民ならともかく公爵令嬢が命をかける場面ではない、という事は理解してください。ミヤ様にはミヤ様にしかできない事を頼みたいのです」


会場を見渡すとマリアは言葉を続けた。


「ここでの出来事を他言せぬように根回しして頂きたいのです。私たちの武器は社交です。ミヤ様が苦手としているのは存じてますが、出来ない訳ではございませんでしょう?共に戦うと言うならばそれぞれが必要な戦場に向かうべきなのですわ」


顔面蒼白な少女達は騒ぎはしないものの限界は近そうだった。助けられたら緊張の糸が解け、それがどのように作用するかは未知数だった。


「いくら学園の生徒でも平民では手が届きませんの。ミヤ様に頼る他ございません。ですけれどね、ミヤ様が高位貴族だからという理由だけではございませんわ。確かにそれもミヤ様の武器ですけれど、ミヤ様の一番の武器は優しさですもの。貴女ならば、出来る。そう思っております」


強い瞳に射抜かれミヤは戸惑いながら言葉を紡ぐ。


「わ、私は、そんなこと……」


出来ないと言えば楽なのにそれは言葉に出来ない。

かと言って出来ると言うには自信がない。

彷徨わせた視線がキリを捉えた。


「おれは、社交ってわかんねぇ。大変だろうなって思う。出来ねぇってなっても仕方ねぇとも思う。だからミヤ嬢がどんな選択してもおれはミヤ嬢を支持するよ。ミヤ嬢が決めることに意味があるんだから」


マリアの信頼もキリの優しさもミヤは嬉しかった。

勇気を、出そう。そう思えた。


「や、やって、みます」


声が震えていたし、目をつぶっていたし、足は震えていた。格好つかないと思っていたのに、かけられた声はそれを否定した。


「大変なこと頼むんだから断ってもいいのに、ミヤ嬢はかっこいいな!」


そんなキリの声にじわりと涙が溢れそうになる。

泣くわけにはいかないと何とか笑みを浮かべた。







結局キリ、ザッカ、イオリ、マリアが行くことに決まり、1番近くにいた教諭……ユーリに伝えた。


「分かりました。ならば最後のひとりは私が行きましょう。平民を主に集めたのならば教諭の代表は私が適任でしょう。私も平民ですから」


抑揚のない声はユーリの心情を何も見せてくれなかった。




決まったと伝えれば、階段をあがってこい。と言われた。結界を出る時に数人が警戒したのが分かった。

犯人グループが1箇所に纏まると丸められた一枚の紙を一番手前にいたミヤに渡した。


「クレイ・ウィリアムズに確実に渡すことよ。さもなくば餌……人質がどうなるか、わかるよな?」


結界の中でミヤが手を伸ばそうとする。


「こやつらは我らが丁重に預かる。それが意味すること分からぬ訳ではなかろう?妙な動きをすればそなたらを滅しても構わぬ。伝言はどのように伝えようと意味は変わらぬし、さて、どうする?」


伸ばしかけた手を引っ込めミヤは頷いた。


「それが利口というもの。それでは我らはこの辺で。」


その言葉と共に大きな魔道具が発動する。20いた全ての魔術師が魔力を込めているのをみるとこの魔道具はとんでもなく発動困難だとわかる。

こんな手の込んだ事をする意味がわからない。


強い光に目を閉じた。直後、目を開けると先程の会場とは違う屋敷にいた。疲労困憊な魔術師達とボスとシーザルがこの屋敷を見て「成功か」と言ったことで、この現象が犯人の思惑通りだと知った。




窓から見える景色は見覚えのないものだった。


読んでくださりありがとうございました

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