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2-4.餌

シーザルは全力で走った。

クレイに気が付かれる前に阻止せねば国が滅びかねない。そんな焦りが魔力を乱れさせる。

身体強化をしていてもシーザルは魔術師で肉体労働はしたことが無く体力も低い、特別足が早い訳でもない。

それでも走った方が早い。馬を用意する手間も惜しんだ。


「ったく、めんどくせぇ事になった」


悪態をつき汗を流す。まだ少し暑い夏の終わりは動くと汗が滴る。

それでも拭う時間すら惜しいと足を動かす。


たどり着いた場所を見て舌打ちをした。


「ちっ、ほんっとにめんどくせぇ!!」


間に合わなかったと『夜会の会場』を見た。










夜会の会場の照明が揺らいだ。

その瞬間に人の気配が増えた。キリが立ち上がるとザッカも周りを警戒し始める。

それは別の班もそうだったようで教諭達が会場の警備をしているものの生徒達もエリートと呼ばれるに相応しい実力があったため迅速に会場の警備に加わった。


マントを頭から被り、顔は確認できない。男だろうか?背は170いかないほどだった。

手をかざすと中性的な声がした。


「ここは我らが支配させてもらう。なに心配はいらない。貴様らは『餌』だからな」


会場にどうやって入ったのかと問う前にそいつは口を開いた。


「我らの魔道具があれば貴様らに勝機はない。そして、我らの目的は『クレイ・ウィリアムズ』ただ一人。貴様らが助かりたいのならば静かにしていればいい。なぁそうであろう?『共犯者殿』?」


静かに扉が開く。やや疲れた顔をして『シーザル』が現れた。


「はぁ、まだ時期尚早って言ったんだけどなぁ。『上』は何焦ってんだか……まぁいい。そういう訳だから大人しくしてよ、『半人前』諸君」


その言葉にテッドが飛びかかる。相変わらず煽り耐性がない……

しかしその手がシーザルに届くことはない。結界に阻まれた。


騎士は魔術が使えない場合の保険と言われている。それ故、魔術師は騎士より優遇されていた。

普通に戦えば魔術師に騎士は勝てない。それが常識だった。



そのはずだった。



テッドが弾かれた瞬間、キリが死角から飛び込む。結界が発動しているはずなのにキリを結界が認識しない。

その剣先がシーザルの腕を掠める。


「っ!?」


驚いてシーザルはキリを見るが、キリは既に体制を整えていた。


「お前は……?」


返事をする前にキリは周りを見た。

シーザルはキリのその様子を見て『甘い』と瞬時に思った。


キリの近くに倒れたテッドに炎を向ける。

キリが庇うように立ちはだかったのを見てシーザルは笑みを浮かべた。


「お友達が大事なら大人しくしようか?ん?」


その言葉と共に今度はドレスアップしている少女に手を向ける。


「ぐっ」


顔を歪ませたキリは剣を下げた。


「……なんでだよ、にいちゃんはせんせーの友達じゃねぇのかよ。にいちゃんはあの日せんせーを送ってたくせに」


呟かれた言葉にシーザルは答えなかった。否、答えれなかった。

目の前の小柄な少年に見覚えがなかったから。


会場にマントを被った集団が姿を表す。

その数は20ほど。

全てが魔術師のようだった。


抵抗らしい抵抗もできず占拠されたが生徒も教諭も抵抗を諦めた訳ではない。

隙を伺っていただけ。そのひとりが声を出した。

それは反撃でも味方への声掛けでもない。

諦めに似た声だった。



「……やっぱり、そうなのね」


意味が分からず声の主をみる。職務に忠実で真面目。だけど優しいのを魔術師の卵たちは知っている。キリもそうだし、イオリやモカイもそうだった。だって彼女は、イオリ達の担当教諭で、キリも何度かお世話になった。ユーリだったから。



ボスらしき人物がシーザルの頬を撫でた。

煩わしそうにシーザルは手を避けた。


「やめろ。俺が求めるのは『ただ一人』だ。」


フードをとると赤い髪が現れる。長い髪で顔がよく見えない。男とも女とも見える。


「だが、これが成功すれば貴様は『我が国』に来るだろう?伴侶を優秀なものにした方が良いのではないか?我ならば……」

「それは『契約外』だろう?男娼が欲しいなら他をあたれ」

「つれぬことよ。我が皇族であると知っているだろうに」

「……今は作戦中だ」

「ほんにつれぬ男よ」


会話が聞こえる。隠す気もないのだろう。

マリアとミヤを守るようにキリは立っていた。ザッカは少し離れた場所で魔力を安定させていた。





上から見下ろしていたシーザルが階段を半分ほど降りた所で声を出した。


「おい、聞きてぇんだが、『リナ』ってガキはどこにいる」


シーザルの言葉にキリがビクリと肩を震わせた。ざわりとする会場で「だれのこと?」と聞こえる。

イオリとマリアがキリを見る。そして首を横に振った。名乗るなと。


「……おかしいな、ここに居るはずなんだが。先輩は『あの子が夜会にいる』から心配と言っていた」


イオリとマリアは顔を見合せた。

知っているんだな、ええ、なら共闘しよう

そんなやり取りを目線だけで終わらせる。


「勘違いとちゃいますか?リナ嬢『は』学園にいまへん。」

「淑女学園にも在籍してませんわ。リナ様『は』夜会にも出席なさってません」


イオリとマリアの声に周りも『リナ』を知らない。と声が上がっていく。


「……どういうことだ?先輩は確かに『あの子』とやらを心配し、その存在が『リナ』という名の少女だと確認は終わっている。それなのに、いない?」


キリは恐怖と混乱をしていた。

なぜ、『おれを探している』のか、自分はここで隠れて……『他の人を巻き込んだ』のか、『クレイの大事なあの子』とは本当に自分の事なのか、と。


「……にいちゃんは、リナに何しようと思ってんの?」


声が震えていたかもしれない。こわい。と思った。


「その質問に答える必要を感じねぇな」


シーザルは淡々と答えた。


「貴方は、そこまでして、手に入れたいの?」


ユーリの言葉にシーザルがぴくりと反応する。


「それは勘違いだと……いや、今はそんな場合じゃねぇな。大人しくしてろ」


会場のダンスホールに纏められた人質を囲むように結界がはられた。

キリは戸惑いながらその場に留まった。

『この程度』の結界なら、キリが『今の魔術を使うのを辞めれば』簡単に破れる。

こんな『穴だらけ』の結界になんの意味があるのか、戸惑いながら見上げる。


「いいか、何もせずに大人しくしていれば『結界がお前らを守る』。分かったな?」


言い方に違和感を覚えてシーザルを見るがその表情からは何も分からなかった。

読んでくださりありがとうございました

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