2-3.夜空の下
護衛任務とは言え夜会会場の中に入る訳ではなく、着飾った少女達の送り迎えが主だった仕事だった。
キラキラした夜会を庭から伺うように見ている。
5日後にはキリも社交界デビューと考えると今まで興味が無かったのに気になって仕方なかった。
「ちんちくりん、何見てんだよ」
相変わらず男としては背の低いキリだったが150センチを超え女性なら許容範囲となった。
しかしそんな事を知る由もないザッカはいつものようにちんちくりんと呼ぶ。
キリも慣れたものでザッカを見て返事をした。
「んー、夜会ってたのしーのかなって」
「人によるだろ、俺は面倒くさいと思うぞ」
「ザッカは夜会に出たことあんの?」
「正式にはない。けど、非公式に呼ばれて顔を出した事ならある。俺は……貴族の令息ではなく、貴族の当主だから」
普通に言われたがそれは重大な事では?と思うが貴族の常識をキリには理解できない。
だからふぅんと聞き流すことにした。
「……お前は今度の夜会行かないんだろ?」
王家主催の夜会は学園の生徒ならば出席できる。
しかし、キリはリナとして出席するのだからキリは出席出来ない。同時に存在はできないのだから当然である。
「うん、行けないんだよ」
「それなのに夜会の事が気になるのか?」
答えに詰まるとザッカは顔を覗き込んできた。
「何か隠してるだろ、ちんちくりん」
「……隠してるのは認める……けど、言えねぇから聞かれたら困る」
「ふぅん……なんで言えねぇの?」
「たぶん、ザッカは嫌がる。それにこれは言っちゃダメって……。でも、お前が信じらんねぇとかじゃなくて、逆。お前がおれを信じらんねぇって思うんじゃないかって。色々理由はあんだけど、ザッカに嫌われたくねぇってのも理由」
今日のささやかな夜会では男子が極端に少ないからダンスしている様子は見れなかった。皆お喋りに耽っていた。その様子を見ながらキリは答えた。
「けど、知ってるやつはいんだろ?」
ザッカは会話を続けたいらしいと視線を彼に向けた。
「いる。でも……おれから言ったことはねぇよ。ただ、信じてるって意味ならそうだとも言える。おれの秘密はたぶん……受け入れられにくいから」
最後は視線を合わせられなくなった。
「……ずっと黙ってんのか?」
「ううん、それはないと思う。悩んでるけどね。これまでと違う世界になりそうで」
「ふぅん……」
ザッカは息をひとつ吐き出すとぽんぽんと頭を軽く叩いた。
「どうせ空っぽの頭なんだ、助けてやらんでもねぇしなんかあれば聞くくらいする。隠し事されてんのはムカつくけど」
「ごめん。でも、おれ……まだ言えねぇ。」
キリは夜空を見上げた。
クレイに言えばザッカにも告げて良いだろうか?
そんな疑問が頭を掠める。
ただ不安もある。ザッカはワイアットと距離を取っていた。マリアやミヤに対しても同様である
なんだかんだで長い付き合いになったから分かったけれど、ザッカは女性が苦手というか信じられないようだった。
ならば言えない、『今は』。と思った。
夜風が気持ちいいなと思うと夏が終わっていると実感した。
「けどさ、『完全に秘密が公になる前には』お前に言いたいって思う。ううん、モカイ達にも。ミヤ嬢も。でもやっぱりお前が先か……だって仲間だもんな!」
ザッカは微かに口角を上げて、そうかよ、とだけ返した。
夜会は王宮から少し離れた学園の所有している会場で行われていた。
クレイは王宮で用事を済ませ夜空を見た。
「あの子はどうしてるかなぁ……」
憂いた表情にシーザルがため息ひとつ落とす。
「先輩、色気ダダ漏れさせんの辞めてくださいよ」
「そんなもの放ってないけどー?」
「無意識に淑女を堕落させんのこえぇっすよ」
通りかかった王宮のメイドが、ほぅっとクレイに見惚れる。シーザルもモテる自負はあるがクレイの隣だと霞んでしまう。
それでも『敬愛する先輩』の側を離れるわけにはいかない。
「今日はリグリー侯爵が来ると思ってたんすけど、先輩が代わりに来たんすか?」
「んー?ちょっとね、本気で後継者としての未来を考える状態になった、と言えばお前はわかるだろ?」
つまり、王位継承権第二位のリグリー侯爵の『王族としての教育』は不必要。クレイは遠回しにそう告げた。
「まぁ陛下が『事実』を知って『あの子』に役割を求めても、簡単にはいかなくなるようにね……正直オレは王位に興味はない、国にも貢献したい意欲もない。知ってるだろ?」
シーザルは顔を歪ませる。
「……俺はそれを信じてねぇっす。先輩は国を守ってるっすよね?」
「ああ、そこからか……、まぁ誤解される行動だったかな。オレが欲しかったのは国の安定と自分の自由だよ。」
「どういうことっすか?」
「……国が乱れれば一番しわ寄せが来るのは平民だ。平民の中でも立場の弱い孤児やスラムの住人はその影響が強い。国を守るという事以上に、その結果が大事だったってわけ。オレが自由になる前にあの子が消えたら意味が無い。だが、オレはあの子の側にいる事ができなかった。英雄と呼ばれようが『オレの弱点』を重点的に狙われれば防げないからね。迎えに行くには『国内からの暗殺』位は片付けないと無理だったから。」
「あー、あの女狐……っと、公爵夫人っすか……」
「いつまでも『兄』に甘いあの人はオレが邪魔だったんだろ……オレが家から出た日はあの人たちは一番高価なワインを飲んでたくらいだし。まぁオレも『公爵家』という牢からやっと解放されて『あの子』との再開ができると思えばお祝いしたい気分だったんだからお互い様かな。」
「……ひとつ聞いていいっすか」
「なぁに?」
決して笑っていない瞳でシーザルを見る。
仄かに暗い瞳は当時を思い出しているのかもしれない。
「あの子というのが、国を否定したら、どうするんすか……?」
一瞬虚をつかれたように屡叩くとうっとりとするように笑う。
「そんなのあの子が望むなら国ぐらい壊してあげるに決まってるでしょ?」
ゾッとするほど美しい笑みがシーザルは怖いと思った。
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