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2-1.国

クレイの元に例の女の資料が届けられた。

興味は無いが仕方ないと読む。


「アルガルト?……あれが関わってたのか。」


キリ達のいる国、エアルドレッド王国はみっつの国に囲まれている。

ひとつはサイオン国。国力は低いし侵略の意図はない。男尊女卑以外は比較的平和な国だ。

イオリの出身国でもある。

2つ目がダリス帝国。一年前まで諍いのあった国である。ダリスとエアルドレッドの境目には大きな森林がある。

そこには凶暴な魔獣がいた。

そんな魔獣を利用してエアルドレッドの国力を奪い隙を見て国に攻めいろうとしてたダリスだったがクレイが魔獣を一掃し、さらに攻めてきた帝国兵の前で山積みにした魔獣の死骸を見せつけるように並べていた。

戦意喪失しかけた帝国に代表戦を申し込み見事に勝利したのもクレイだった。

しかも相手を殺すこともなかったためその後の関係は緩やかだが回復傾向にある。

そしてみっつめ……アルガルト公国。

アルガルトの奥にある大きな国とのみ積極的に交流をしエアルドレッドやその他の国を下に見る傾向があった。

魔術大国とも呼ばれ魔術師ばかりを集めている。


そのアルガルトと例の女が繋がっていた。


それが報告書に記載されていた。


キリを襲った劇場での一幕も腑に落ちていなかったがアルガルトが後ろにいたのなら納得はできる。

魔道具も人員も用意されたのだろう。

ただ、目的がいまいちはっきりしない。

劇場が襲われた理由もまだ調査途中だ。

アルガルトが動いたならそれなりに目的があるはずだ。



魔道具は特別な石に魔術師が魔術を付与することで出来る。

そしてその石はアルガルトで多く採れる。

あの国が大きな国力を有しているのはそれもひとつの理由だ。

余りある金で各国から魔術師を引き抜いているのも有名な話である。


当然というようにクレイにも声はかかった。もちろんキリのいない場所など論外なのでお断り一択であったが……



「国絡みか……あの件もあるのに」


もう1件の報告書を見ると目頭を押え息を吐く。

その報告書には真新しい記載は無かった。



キリの生みの親を調べる調査報告書である。

クレイにとってその辺の貴族はある程度御せる立場にある。

ただし……王家は別だ。


キリの年齢とあの緑の瞳。嫌な予感がする。

内乱による戦争孤児であると思い込んでいたからその可能性を捨てていた。

王家も手を尽くし行方知れずの王の第一子を探していた。

性別すら不明ではあるがその捜索は今も続いている。


王には他に子がいない。

故に王位継承権は王族以外のものに与えられていた。

王には溺愛する皇妃がいた。そして同じ年齢の側妃も。

ただし側妃の愛するものは王ではない。王の気持ちも皇妃にしかない。それは皇妃の死後も変わらなかった。

王と側妃は白い結婚だった。

その理由を知っているクレイはこの先も王に子が生まれないと思っている。


とんとんと机を人差し指で叩く。

頭の痛い問題だと思っても今は逃げ出すべきではない。理解はしている。


だがキリがその行方不明の姫ならば……

キリに王太子の振る舞いや帝王学は無理ではないかと考える。

杞憂ならいい。

けれどあの日姓を持つと知らされてからその考えが正しいと思ってしまうのだ。


ベリードの存在にしてもそうだった。

ベリード・マクセル……マクセル元子爵は、内乱が起こるまで皇妃の護衛をしていた。

結界魔術のエキスパート。そして……クレイの先輩とも言える。元英雄。

そんな人物が隠すように育てたのがキリである。


とんとんとん、人差し指で机を叩く。


「……仕方がない。念の為だ」


キリの為なら、なりたくもない王にもなるしかない。

そんな思いでひとつの宝石を取り出す。

王位継承権を持つものに与えられる王家の秘宝はみっつある。

継承権の上位3名に与えられているがクレイの持つそれは最上位のものだった。


クレイ・ウィリアムズ……その名を捨てたとして生れまでは捨てられない。

王弟のウィリアムズ公爵と古参の侯爵家で影響力のある家柄に産まれた公女を両親に持つクレイは当然のように王位継承権を与えられた。

伯爵として独立後もその立場は揺らがない。

正式発表をしてはいないが時期国王としての教育は受けている。

公爵の後継としての指名を遅らせる事が出来たのも立太子するかもしれないからだった。

王太子にしても国一番の公爵家後継にしてもその影響力は大きい。

本音で言えばどちらも興味は無い。

しかし周りはそう見てはくれない。

時期国王として有力視されていては婚約も由緒ある貴族令嬢を何度も勧められた。

国の為にと言われて見合いに行ったこともあるが、婚約の意志などまるでなかった。

しかし国とすればクレイを手放す訳にはいかない。家柄的にも戦力的にも……

英雄として規格外の力を持つクレイには英雄という鎖以外にも国に繋ぎとめる何かを作って欲しかった。

家族が出来れば、という思惑があった。

故に政略結婚を求められたが断固として拒否。

英雄の力を見せつけたのはダリス相手ではない。王国にだった。

それは静かな警告。

無理強いすればこの力を国に向けるという……

結局国が折れた形でクレイの婚約話は流れた。

平民でも貴族でも……どの立場でも……婚姻を認めるとさせた。

無理に政略結婚させるより望む女性との婚姻の方がより強固な鎖になるとの判断の結果である。

平民であったとしても貴族の養女に迎えれば問題は無い。

クレイが居なくなる方が損失だと国も認めた。





「……どうしたものかね」


宝石を興味無さげに転がす。実際興味は無い。

キリがそばにいないなら権力など無意味だし、キリさえ居てくれるならどんなことも耐える自信がある。


「ベリード殿の真意は聞けない。キリの両親、か」


ベリード自身も何も残せなかったのは本人も予想外だっただろう。

唯一の手掛かりが真実の紙。

一度見せてもらったそれを封印している箱は見事な結界に守られていた。

強固にして繊細。それを破るのは一筋縄ではいかない。何よりキリがベリードから貰ったそれを大事にしているのだから壊す訳にもいかない。


執務室を出ると庭に向かう。

今日は学園の休み。

魔術の訓練が一段落して休憩していたキリがメイドと会話していた。

キリがいる邸は明るい気がする。


「ひとまずは、今日もキリを充電させてもらおうかな」


嫌な事を忘れるべく歩みを進める。

あの子の笑顔があればなんでも頑張れる。

クレイを見て無邪気な笑顔を向けるキリに笑みを返した。


読んで下さりありがとうございました

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