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32.予兆 ※後半※とある使用人視点

後半、クレイの家の使用人視点になります

学園に戻ることなく夏休みに入ったので、ザッカやイオリ達に手紙を書いた。


少し回復に時間かかってるけど無事だ、迷惑かけてごめん。と


ミヤとイオリとモカイから長い返事が届いた、マシューとワイアットから療養するようにと届いた。


ザッカからは何も届かなかった。

マリアはと言うと、


「そうなんですのね、それはあの方の性格上有り得る話ではございません?」


屋敷に来ていた。

淑女の礼儀をクレイが頼んだらしい。


「でも、おれ心配で」

「『おれ』じゃなく、『わたし』もしくは『わたくし』ですわよ」

「ぐっ、わ、わたくし」

「よく出来ました。少し顔色もよろしいですが、まだ痩せすぎですわ。私はリナ様の方が心配ですのよ」

「そのわりには鬼コーチ⋯⋯」

「何か仰りまして?」




今いないクレイは仕事をしているらしい。

クレイは伯爵の仕事があると聞かされた。


(せんせー、伯爵だったんだ)


と、よく分からない感想しか出てこなかった。

忙しいみたいなのに、夕刻に週の半分以上出かけるので、少しもやっとする。


(せんせーは大人なんだから普通だよな、なのになんか嫌だ)


暗い表情が見えたのかマリアが心配そうに顔を覗き込んだ。


「どうなさいました?」

「⋯⋯ただ、ちょっと、ここがもやもやして」


胸を抑えるとマリアが少し驚いた顔をした。


「あら、そういうことは疎いと思ってましたが、まさかですの?」

「え?」

「いいえ、何でもありませんわ。それは解決したいですわね、お聞かせくださいませ」

「せんせー、どこいってるんだろって、そんなのおれには関係ねぇのに、なんか寂しくて」

「なるほど、なるほど。ふむ、そうですわね、まだ自覚するまでは気持ちが育ってないのですのね、だけどそういう気持ちはあると。それはそうと『おれ』はお辞め下さい」


1人で納得するマリアにキリは不安そうに見る。


「わがままだよな」


しゅんとするキリにマリアが微笑む。


「リナ様はもっと我儘になって構いませんわ。相手はクレイ先生ですし、あの方はむしろ喜びそうですし。この間もリナ様がむくれる相手は自分だけだと自慢されましたわ。今まで何度脛を蹴られたと言われた時はすこし引きましたが」

「え?」


言われて思い出す。

遠い昔にベリード相手に我儘言う時、脛を蹴っていた。

ベリードは結界魔術の達人だったのでダメージを与えれたことは無い。

それはベリードへの甘えている気持ちがさせていたのだが。

つまり無意識にクレイに甘えていたと自覚して血の気が引いた。


「せ、せんせーに嫌われる」

「どうしてそうなりましたの?!」


美味しいお菓子と優しく撫でてくれる手に、甘えてしまった。


「だって、ただの生徒に甘えられるの、嫌じゃないかな」

「⋯⋯ただの生徒を家に住まわせる訳はございませんけどね」

「きをつけないと」



そう呟いたキリにマリアはやれやれと天井を見上げた






※とある使用人視点


クレイ・ミリートン、凄腕の魔術師で、魔術に携わる人間でその名を知らぬ者はいない。


そんな旦那様はとんでもなく落ち込まれている。

どうやら客人のリナ様にデザートを食べさせるのを拒否された、とのこと。


「リナが自分で食べるって言って、良いからって言ったのに頑なで、昨日までは普通だったのに、何故だ」


世間では、いい加減と言われているが、旦那様はそう見せ掛けているだけで、その実、真面目な方だ。

その旦那様が仕事が手につかなくなるほど落ち込まれている。


「それに今日は頭も撫でさせてくれない、子供じゃないので、とか言うんだ」


成人間近のご令嬢なら普通では?とは言えない。

いつものおふたりは仲睦まじく、撫でるという行動もリナ様は容認なされていた、というか、喜ばれていた。

いずれ奥様と呼ぶことになるかもしれないと皆で噂をしていたほどだ。


「まさか、好きな人でもできた、とか?」


顔色がとてつもなく悪く、最悪の想像をなさっているらしい。

だが、有り得ない。リナ様は毎日御屋敷に居るからだ。


「旦那様、リナ様はお出かけなさっておりませんし、誰かを招かれてもおりません。出会いがございません」


幾分か顔色が戻るが、また真っ青になる。


「それもそう、いや、まて、それならオレが嫌われた。ということか?」

「マリア様が昼にいらしてましたから、お聞きするのはいかがでしょう?」

「⋯⋯そう、だな。だが、リナがオレに言わないことを聞いて、あとで知られたら嫌われないか?」

「⋯⋯⋯おそらくは」



使用人たち一同は思った。

旦那様、少し面倒くさいです。と


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