22.こわいもの
休みになるまでの間にわかったことのひとつはユーリはしっかりした先生ということだった。
魔術の先生だから剣術の指導は出来ないが、それでも良い先生と言うのはよく分かった。
そして合同班の練習はザッカを除いて連携プレーもできるようになった。
そう、キリもできるようになった。
ウキウキとした気分で休みを迎え、気がついたら豪邸の前に立っていた。
「⋯⋯え、ここにおれが入るの?」
クレイに教わった住所に着いたらまるでお城でした。
一緒に行こうかと言われ、大丈夫だと答え、たどり着いたのは良かったが、大丈夫じゃなかった。
「いや、無理、むりだよ、せんせー」
門番がチラチラとこちらを見ている。
不審者だと言われたらどうしよう。
ウロウロとして、立ち止まって屋敷を見上げて、やっぱり無理だと呟いて視線を落とす。
「入ってもらわないとオレも困るなー」
パチリと目が合う。
しゃがんだ状態でクレイがキリを見上げていた。
「うわ!な、何してるんだよ、せんせー」
「待ってたのに入ってこないから迎えに来ちゃった」
来ちゃったって、かわいこぶってもいい大人の男がしても可愛くない。
「⋯⋯せんせー、寒い」
「風邪か?騎士学園の生徒が自己管理も出来ないのは問題だぞ?」
「ちげーよ!」
「はは、いつものキリに戻ったね、じゃあ入ろうか」
クレイに押され屋敷に入ると家令とメイド2人の3人が迎えてくれた。
頭を下げられあたふたしているとクレイが手を引いてくれた。
「おいで、キリ」
「えっと、うん」
メイドが後に続こうとしているのを見てクレイが手で制する。
「客間の一室を使う、ついてこなくていい」
「かしこまりました」
応接室ではなく客間
違和感のある会話だがメイドたちは動揺を態度には出さなかった。
キリは気がついていなかった。
クレイに言われローブを着て来たのはいいが、小柄なキリが大きめのローブを着ていたら外見はほぼ分からない。
屋敷の前でチラチラ見られていたのもローブのせいかもしれない。
「ローブは脱いでいいよ、術の解除もね」
クレイは部屋に鍵をかけるとそう告げた。
男の姿から女の姿に戻る。
「これでいいの?」
長い髪が床につきそうになる。
クレイが手を伸ばしひと房をすくい上げる。
「勿体ないけど、少し切った方がいいね。出歩くには不向きだから」
「であるく⋯⋯?おれ外に術無しで行くの?」
「そういう話になってる、いやか?」
「ううん、嫌って言うか、その、こわい」
スラムでは女は生きていけない、人さらいにもよく狙われる。
酷い時は犯され殺される。男よりも危険度は跳ね上がる。
「ここは、違うって知ってるけど、でも、おれは孤児だし、居なくなっても誰にも気が付かれない⋯⋯狙われない方がいいけど、でも、狙われた時気が付かれなくて、居なくなっても、おれなら悲しむ人もいない。それって、すごくこわい」
「そうか、なら、心配するな。お前が万が一狙われたらオレが助ける、怖いと言うならずっと手を繋いでてもいい、それに、お前が居なくなれば少なくともオレは悲しいよ」
そっと髪に口付けられてビクリと肩を揺らした。
照れ隠しに視線を逸らし口を開いた。
「せんせーは、なんでおれにやさしいの?」
「んー、ないしょ」
やっぱり大人ってずるいよね
読んで下さりありがとうございました