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21.ずるい

その日は自己紹介で訓練時間を終えた。

幸いだれもキリをハズレと呼ばなかった。

ほっとするが申し訳なさが溢れ出る。


これはザッカから聞いたがモカイは騎士学園の第3位だったらしい。


つまりテッドを除く上位3位がみんな揃っている班ということだ。

そこに入ってる異物、ぶっちぎりの最下位、それがキリということになる。


今日の授業は午前のみで、この昼食が終われば合同班での訓練になる。


「キリ、どうした?」


昼食後にタイミングを見計らったようにクレイが現れる。

あまりに突然現れるので初日は声にならない悲鳴が出た。

声にならないで助かりはしたが⋯⋯


「なにが?」

「んー、そんな落ち込んでる顔しといて何がもないでしょ?」

「⋯⋯、べつに」

「むくれてないで、ほらデザート。今日はいちごタルト」


いちごタルトとクレイを見比べて、ポツリと弱音を吐く。


「おれハズレだもん、みんなみたいに強くねーもん」

「ああ、その事か、ちょっと今は言えないけど、それは近いうちに解消されると思うけどねー」


軽口で返されてムッとする。


「せんせーにはわかんない」

「今日は本当にご機嫌ナナメだね、甘いもの足りてないんだから食べて、ほら、あーん」


口元に運ばれて甘そうな匂いに負けて口を開ける。

もぐっと口に入れるといちごの甘酸っぱのとクリームの甘さが口に拡がって、サクッとしたタルト生地の食感がなんとも言えなかった。


「どう?うまいか?」

「おいしー、けど、元気でない」


食堂のテーブルに突っ伏せていると、ポンポンと頭を撫でられる。

これは好きだと思う、だけど癖になるからやめて欲しい。

クレイが居ない時が少し寂しいと思ってしまうのは、自分の心の甘さだろう。


「よしよし、だいじょーぶ、ほら残りも食べような?」

「せんせーはおれを甘やかしすぎ」


突っ伏せたままつぶやくとふっと笑う声が聞こえた。

小さいって言われたけど、幼児扱いじゃないだろうな?とジト目で見るがクレイは楽しそうにタルトを食べさせてくれた。



クレイの奇行は有名になっているらしい。

本人は気にしていない、注意をした他の教師にも担当の生徒を構うのが悪いのかと開き直っていたらしい。

ザッカは?と思わないではないが、彼はあんな性格だ、なかなかに難しい班である。


「よし、がんばる、おれまだ頑張れる」

「⋯⋯キリらしいけど、オレのそのうち解消するって言葉は信じてないね」

「だって、理由も教えてくんねーし、根拠は?」

「んー、ないしょー」

「せんせー、きらい」


ぷいと顔を背けるとガタと音がする。

顔を戻すと少し顔色の悪いクレイがいた。


「せんせー、体調わるいの?」

「⋯⋯、心が痛い」

「なにいってるの?」

「キリ、オレのこと、きらいって、言った」

「は?」


明らかにテンションの低いクレイは初めて見る。

慌てて首を振る。


「あれはただ教えてくれないのが悔しい感じで、きらいというか、ムッとしたっていうか」

「⋯⋯あはは、かわいーな、そんな焦って言わなくても分かってるって」

「からかったのか?!せんせー性格わりぃ」

「ごめん、ごめん」


大人ってずるい。

でもきらいっていうのは良くなかった、あれは言っちゃいけない言葉だ。

自分が言われたら嫌だもんな。

うんうん、と自分に言い聞かせると悩んでいたのが嘘のように気が楽になっていた。


これが目的なんだとすれば、やっぱり大人ってほんとうにずるい

読んで下さりありがとうございました

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