2.入学
ストックあるうちはサクサク投稿したいです
入学式会場には8人集まっていた。9人目がキリである。
「おーおー、遅れてくるとかいい身分⋯⋯っていう風には見えないな。貴族じゃなさそうだな?」
キリにそう声をかけたのはキリより一回り大きい赤毛の少年だった。
一回り大きいと言っても彼が大きいというわけではない。
孤児出身のキリは栄養は足りず小さいので彼は普通であった。
「え?おれ遅れたの?!」
少年の言葉にキリが青ざめる。
「いや、おくれてへんで」
そう言って首を横に振ったのは赤毛の少年の後ろに立っていた金髪で狐目の少年だ。
背丈は赤毛の子より高いが痩せていてアンバランスな感じであった。
「あ、俺はイオリ、よろしゅう」
イオリと名乗った狐目の少年に言葉にほっとしたキリは自己紹介をする。
「おれはキリだ、えっと、みんなもだと思うけど13歳だよ」
「だー!俺を挟んで話すんじゃねーよ!」
赤毛の少年が両手をあげ大声でそう言うと、イオリがやれやれと言うように背を向けた。
「俺はテッド、テッド・リュリューだ。リュリュー家の次男なんだぜ」
えへんと胸を張る赤毛のテッドにキリは首を傾げる。
「リュリュー家?」
その言葉にテッドが大袈裟に振り向く。
「は?騎士学園に入ってリュリュー家知らねーとかもぐりか?」
「あ、俺はその」
孤児だから、と小さく言うとみんなの目が変わるのがわかった。見下され、馬鹿にされ、酷い時には八つ当たりの暴力も当然、ろくな職にも付けず、スラムで死にゆく。それが孤児の行く末だ。
平民どころか孤児っていった?
なんでここに孤児が?
そんな声と白い目がキリに集まる。キリは奥歯を噛む、
(孤児だけど、じっちゃんのおかげでおれは⋯⋯)
俯くキリに声をかける子は誰もいない。そんな雰囲気になった瞬間扉が開く。
「やっべー僕最後?」
茶色い髪が濡れて、キラキラと光っていた。飛び込んできた少年はキョロキョロと周りを見て1番扉に近かったキリに声をかけた。
「なぁなぁ僕遅刻じゃねーよな?」
キリは声を出そうとして俯く。
(おれが何言っても、最終的に孤児だからって見下すんだ)
「遅刻とちゃうで、まだ始まってへん。俺はイオリ言うんや、こいつはキリ、よろしゅう」
そんなキリの頭に手を乗せて自己紹介したのはイオリだった。ビクリと肩を震わすキリに聞こえるようにイオリは言葉を紡ぐ。
「出自は関係あらへんから名前だけ言うわ」
まぁ俺は王都出身ちゃうねんけどな。
そう言うとニィッと笑う、笑うと狐目がさらに細くなった。
「へぇ、そうなんだ!僕はモカイ!よろしく」
社交界デビューは15歳なので13歳の彼らの名前は知られてないことが多い。
王族や貴族もその例外ではない。イオリの言う通り学園は実力主義である。平民でも英雄になると貴族以上の地位が与えられる。ただし、あくまでも英雄になるとである。
英雄とは学園の卒業試験でとある試練をクリア出来たもののみが手に入れれる称号らしいが詳しくは伏せられていた。
この制度が始まって英雄は2人しか出ていない。
1人目は60年前、2人目は5年前。
二人共魔道学園卒業者であるゆえ騎士学園ではその制度は忘れられがちであった。
「イオリ、あの⋯⋯」
おれを庇ってくれたのか?
その言葉は音になる前にかき消された。
「おー、集まってるねー」
そんな声と共に現れた眼帯をした紺色の髪の青年が声を上げたからである。
「よっ、っと」
紺色の髪の青年は2階の高さはある窓から入ってきてスタッと着地した。
「んー、みんないるね、良いね。オレは教師のクレイ。クレイ先生と呼ぶように」
ざわざわとしているのを無視してクレイは話を続ける。
「まぁなんだ、入学おめでとうー!ぱちぱちぱち!」
胡散臭と思う気持ちが膨れてか、ざわつきは小さくなってもクレイを見る目に不信感が多く見えた。
「あ、そうだ。オレはまだ23だからおっさんとか言ったら殴るから注意しとけよ?」
ちなみに独身でっす!と言うが誰も反応しない。
「んー⋯⋯ノリわるいね、まぁいいか。これからの予定は入学直後試験しますー」
ざわりと声がするがクレイはパンパンと手を叩く。
「お前らはひよこだから試験もぬるいよー、だいじょーぶい!」
そのおちゃらけた態度にテッドが食ってかかった。
「はっ!?俺がひよこ?俺は選ばれた人間なんだ!」
その言葉にクレイは笑う。
「あはは、選ばれたって誰に?」
まだ実力もないのに、選ぶなんて浅はかな人に選ばれたねー
その声にテッドは顔を赤くして声を荒らげる。
「ふっざけんな!勝負しろ!!」
「勝負ねぇ⋯⋯、死んでもいいならしてあげるけど」
そう言うと一瞬でテッドの背後をとる。テッドとクレイは3メートルは離れた場所にいたのに誰も目で追えなかった。
「でもまぁ、オレは教師ですから、できませんね」
あははと笑うクレイは殺気も何もない。それが怖くて誰も声を出せずにいた。
「試験は個人戦、組み合わせは⋯⋯」
静かになったところでクレイは話を進めた。3日に分けて9戦するのだという。
この日3戦したキリの勝ちはゼロであった
3日合わせた勝ち星はテッドとイオリが8勝1分けと抜きん出ていた(2人はお互いの勝負で引き分けた以外全勝である)
一勝も出来なかったキリはその日からエリート学園のハズレと呼ばれるようになる。
騎士学園でハズレと呼ばれるようになってからキリは1度も訓練を休まなかった。泣きながら木刀を振る日もあった。
小さな体に鞭打つ姿を見ても孤児と知る同級生達には同情さえもして貰えなかった。あえて言うならイオリと孤児と知らないモカイが時折差し入れを持ってくるくらいだった。
そうして1年が過ぎた頃⋯⋯クレイからグラウンドに呼び出された生徒たちは不満げな顔をしていた。
クレイとの関係は相変わらずである。教師と言っても各教育別に別の教師が着いておりクレイとは会話する機会も少なく時折現れてはおちょくるような発言をするのだから仲が深まるわけがなかった。
「みんないるねー、入学から1年お疲れ様ー!やっと多少は力がついてきただろうと言うことで魔道学園の生徒と合同で班をつくってもらいまーす、ひとつの班は2人から4人ね」
「は?なんで」
テッドの声にクレイはやれやれと手を上げる。
「説明の途中で声を出すとかお里が知れるってもんだよ、テッド。まぁいいけど。ちなみに班は基本4年変わらないよー」
テッドが食ってかからないかと思うがクレイに何度も食ってかかっては軽くあしらわれ続けたからか今回は大人しく聞いていた。
「で、班の条件は1個だけ、魔道学園から1人以上、騎士学園から1人以上。これだけー、一応これが魔道学園の成績優秀者のリストねー」
3人の名前が書かれた紙が配られる。そこには『ザッカ、マシュー、ワイアット』と書かれていた。
きっとあちらにも優秀者の名前が教えられているのだろう。
そこにはテッド、イオリの名前があるのだろう。3位は僅差だから誰だろうな。
そんな自分にはありえないことを思い浮かべては落ち込むキリをみている影があることにまだキリは気がついていない。
キリは小柄です、まだ13歳なので成長の余地はあるはず。