16.仲良くなりたい
朝から少し悩む。
(せんせーと2人の時は女の格好でって言われたし、相談内容もそれだし、なら初めから女の姿でいればわかりやすい?)
うーんと考える、睡眠時も魔術の行使が解けたことはない。
1度だけ無意識に戻ったのは気絶した時だけだ。
だから魔術を止めるのは久しぶりになる。
カーテンを閉めてランプにあかりと灯す。女に戻ると鏡を見る。
切ったことの無い銀髪は床まで届きそうだった。
少し手ぐしで髪を整えるといつもの服の上からマントを被る
誰かに見られたらことだ。
鍵はかけているが用心は必要だ
そうこうしていると控えめなノック音が聞こえた。
開けようとして自分の姿を思い出す。
魔術を行使しようかと思っていると声がした。
「俺だけど、キリ居るか?」
クレイの声にゆっくりと鍵を開けて半分だけ扉を開ける。
そっと外を見るとクレイだけだったから入るようにと手招きをする。
声も魔術で変えていたので聞かれてもまずいと思ったからだ。
クレイが入ったのを確認すると扉に鍵をかける。
「せんせー、お茶と茶請けあるよ、こっちで話そー」
「え、あ、ああ、そう、だな?」
クレイの様子が少しおかしい。
首を傾げるとクレイも首を傾げる。
テーブルには簡素なお茶セットがある。そこに案内するとクレイは素直に座った。
「それで、えっと、話?聞いていいか?」
「ああ、あのね、ふたつ話あるんだ」
キリは少し悩んだ。
どちらから話すべきだ?そもそもクレイの様子がおかしいのに相談などしていいのか。
「いくつでも聞くけど、ちょっとだけ待ってくれ」
そういうと魔道具をテーブルに置いた。
不思議そうに見るとクレイは、ああ、と声を出した。
「遮音結界の魔道具だよ、聞き耳たてるようなことがあるとは思えないけど、用心だね」
たしかにと思うが、馬車や部屋などに取り付け式の魔道具ならわかる、だが目の前の魔道具は軽く小さい。遮音結界の魔道具は重く大きいから持ち運びに不向きのはずだった。
「これ、ちいせーけど、こんなのあるんだ」
「まぁ特注だし、王宮魔術師のエリートが簡略化してやっと出来上がるもんだから、流通はしてないかな」
「へ⋯⋯、それすげーんじゃ⋯⋯?」
「まぁ使わない道具はただの荷物だからな、使うためにあるんだよ」
クレイはキリの思っていたより、とんでもなくすごい人かもしれないと思っていると、クレイが首を傾げる。
「ところで話ってなんだ?」
「ああ、うん、とりあえず1個目ね、俺さ、仲間だからせんせーともザッカとも仲良くなりたい。でもザッカは協調性ないし、どうすればいいんだろって。せんせーならいい案があるかなと思ってさ」
「んー、ザッカは生まれが特殊だから軽い人間不信なんだよな、そういう話なら人間不信から解消しないとダメかな」
クレイは当然というように答えをくれた。
「少し腹立たしくはあるけど、ザッカはキリを気に入ってるから時間はそうかからないだろうけどな」
小声でクレイが呟く。
腹立たしいと聞こえた気がするがきっと気の所為だと思ってキリも椅子を引いて座る。
「来季からギルドの依頼受けるならその前にって思ったんだけど、無理かな?」
「んーー、少しきついかもしれないな。ギルド依頼は俺も手伝うし機を待った方がいいだろうな」
「そっかぁ。ザッカは俺を班員として受け入れてくれたから俺もできること頑張りてぇのに」
しゅんとすると対面に座っていたクレイの手が伸びる。
ふわりと頭を撫でられる。
「キリは頑張ってるでしょうよ、ゆっくりで良いんだよ。お前なら大丈夫だ、誰より努力のできる人間なんだから、な?」
撫でられたのが嬉しかった、
暖かい気持ちになった、
嬉しいから笑顔になる。
「わかった、せんせーを信じる」
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