15.任務※クレイ目線
王家からの依頼で娼館を調べていた。
魔術師の仕事じゃないだろうと思わなくはないが、若い未婚男性がいいと言われ断れなかった。
腕にもたれかかる女に内心舌打ちをする。
この女はある貴族から情報を聞いているとみなされている。
情報漏洩が本当ならば内容にもよるが重罪だ。
女に気取られないよう優しく微笑む。コツはキリを思い出すことだ。
(明日の朝はキリに会える、休みの日だから憂鬱だったけど、こんな褒美があるなら任務も頑張れるな)
王家からの依頼をクレイは任務として時折請け負う。
それが爵位とある事を認めさせるのに必要な条件だった。
だが、面倒な任務だとクレイは思う。今のクレイは過度な魔力不足にはなっていないため、女性に対し欲がない。
そもそも後腐れのない相手以外は正直に言うと苦手である。
キリのように素直な女なら違うと思うと首を横に振った。
比較するにはキリに失礼すぎる。
そもそもキリを欲の対象と比べるのは狂っているとさえ考えて自己嫌悪にもなった。
そんな事を思いつつ任務を進める。体を重ねる必要がないのは救いだ。連れ出して宝石でも買うと女は上機嫌になった。
お洒落な酒場で軽く飲んで女の働く娼館に送れば今日は任務完了である。
気が遠くなるような任務だ。
これをどのくらい続ければいいのかと頭を抱える。
(サクッと口を滑らせてくれないかな)
ため息を吐くと用は終わったと職員用の寮に戻る。
郊外に屋敷があるが学園に毎日通うには寮が都合がいい。
キリとの距離も近い、これはかなり重要だ。
キリの部屋の明かりが消えて居るのを見てクレイは自分も眠りについた。
明日はキリに会える。
ならば昼からの謁見も頑張れる。
王との謁見は1ヶ月に1回ある。
英雄の義務らしい、面倒くさい。
それでもキリと一緒に過ごすためなら頑張れる。
王への忠誠心は無いに等しい。それでも敬意ある行動はキリの為だ。
続くであろう任務や義務に嫌気はさしているが、キリがいれば頑張れる。
翌朝、キリの部屋の前でとんでもなく緊張するのは今のクレイには想像の余地すらなかった。
起きてすぐに用意を済ませ、何時に行くか決めてなかったことに気がつく。
魔眼を発動させキリの魔力を確認すると起きてはいるようだがクレイは少々混乱した。
(魔術の気配がない・・??つまり女の姿でいるってことか?)
扉をノックしていいのか、魔術の行使まで待機すべきか、ぐるぐると考える。時間は8時50分、まだ早かったかとキリの部屋の前で冷や汗をかく。
いつまでも銅像のように立ちすくむわけにいかず控えめにノックをした。
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