14.クレイのデート
「ところで、俺なんかが初デートの相手で良かったの?」
優しいせんせーの目に戻ってる。
そんなことを思っていたらクレイが楽しそうに聞いてきた。
「いや、デートってよく分からないし、これデートであってんの?」
「さてね?なんだかんだで俺もデートらしいデートはしたことないからね」
「え?うそだろ??せんせーってモテ」
「違うよ、そうしたい女が居なかっただけ、デートに誘われても断ってたからね、キリの誘いは断れないけど」
モテないの?と聞くつもりが食い気味に否定された。
「せんせーいい加減なこと言ってる」
ジト目で言うとクレイは笑っていた。
何がきっかけか分からないがクレイの気持ちが上向いたのは確実でキリは嬉しくなった。
笑顔で「まぁいいけど」と言うとクレイは目を細めて微笑んだ。
その後、クレイがいつの間にか会計を済ませていて払うと言っても子供に出させれないと言われ、むくれて見せたら珍しく声を上げて笑われた。
「という感じでよく分からないけどせんせーは元気になった」
お茶飲んで元気だして欲しいと伝えただけだと言うとザッカは興味無さそうにふーんと告げた。
「まぁいいんじゃねーか、結局原因も分からず終いだったけどな」
今日もキリの部屋でザッカと会話を続ける。
問題が解決してしまったのでザッカの協調性の問題が片付いてないのにこういう機会は終わりを告げるだろう。
(なんか順番としてザッカの問題からって思ってたのに上手くいかないなぁ)
カランとカップの中で氷が溶けた。
そのタイミングでため息が漏れた。
この日は冷たいお茶を飲み終えたところで解散となった。
休みを翌日に控えた訓練中に精彩をかいたザッカにクレイが指導していた。
少し、否、かなり珍しい光景だった。
それを見てハッとする。
(せんせーにザッカのこと相談すれば解決策教えてくれるかも)
その日はザッカとの約束もなかったからクレイに話しかけた。
「せんせー、ちょっと話聞いて欲しいんだけどいいかな?」
クレイは少し困った顔をした。
「今日は、いやでも、困ったな、ちょっと用事入ってるんだ、断ってくるから少し待っててくれるか?」
いや、用事を断ってまで?!と思ったがクレイは本気っぽくて急いで首を横に振った。
「いやいやいや、そこまでしなくていいよ、あ、明日は?明日も忙しい?」
「明日は午後から少し用事あるが、お前がそう言ってくるって事は相談があるんだろう?なら用事を空けるが」
「ちょっと、大袈裟だって。明日の朝、午前中だけ、俺の部屋で話そーよ」
「キリの部屋・・・?え、いいの?」
「何が??」
「いや、わかった、お前がそれでいいならそうするよ」
今日のクレイはよく分からない。
何が分からないってキリに対してすごく丁寧なのだ。
前からその要素はあったけど、デートの後から明らかにおかしい。
だけど気分屋のクレイだからきっとそのうち落ち着くと楽観視していた。
その日の夕方、薬草を切らしたキリは何でも屋に入った。
いつものように薬草を手にして会計を済ませると店を出た、そこで驚くようなものを見た。
クレイの腕にまとわりつくように女性が歩いていた。
クレイの表情からも嫌だという雰囲気は見て取れなかった。
・・・彼女とデート??
そう思った時にクレイの言葉を思い出した。
(デートはしたことないって言ったくせに、嘘つき)
何故か裏切られたような気がしてムッとしたが、キリが口出しできることでは無い。
何よりキリはクレイを大事な仲間だとは思っていても、それに口出す権利は無いし、クレイは大人だ。
自分には分からない何かがあるのだろう。
だけど、すこしだけそれが悔しかった。
見たくないものを見せられた気がして寮に急いで戻った。
(あれが大人の男ってこと?)
男として暮らすのはあと数ヶ月だ。
ならば知る必要はないか、と考えてピタリと動きを止めた。
(あれ???俺はどうやって女に戻るの?)
現時点でキリの性別を知ってるのはクレイだけ、このことも相談させてもらおう。
そんなふうに思っているうちに苛立ちは治まっていた。
元々キリの苛立ちなんて、友達が別の友達と遊んでてずるい、程度の苛立ちだった。
いつの間にか夜になっていて、苛立ちも治まったキリは茶葉や茶請けを用意し終えて息をつく。
クレイが女性と会っていたなんて、大人なんだから仕方ないよなと、自分を納得させると明日に備えてゆっくりと眠りについた。
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