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12.班と問題

イオリの言葉はキリを元気にしてくれた。

るんるんと街を歩いていたらぐぃと後ろから腕を掴まれて少しバランスを崩したが後ろから抱きとめられた。


「ちんちくりん、おせぇんだよ」


ムッとした様子でキリを掴んだのはザッカだった。

遅いとは?と不思議に思うのは仕方がないこと。

キリに向かって俺は行かねぇと言ったのはザッカで、なら1人で出かけると伝えてあった。

もしや、もっとしつこく誘えという事だろうか?

だとすればそれは分かりにくいと思うのだ。


(俺悪くねぇよな???)


「ザッカもどっか見るの?」


体勢を直し聞いたのは当たり障りのない事だった。

キリは自分の大人の対応に満足していた。


「⋯⋯べつに」


ザッカは子供だった。

キリは眉を下げて首を傾げた。


(どうしろと?)


声に出さなかったのは偉いと思って欲しいほどだ。



「じゃあ、何でも屋見るけど一緒に行くか?」

「行く」

「おーけー!じゃあ行こうぜ」


何でも屋には薬草や研磨剤、ノートなどの色んなものが売っている。

よく怪我をするキリは学園からの補助金を薬草購入に回すことが多い。


ザッカは所謂ツンデレらしい。情報源はマリアである。

書物で物語を楽しむマリアはその辺の知識にも明るい。

曰く、ザッカはツンデレで、ツンデレとは普段はつれない態度なのに、急に優しくなってくる、らしい。

よく分からない。

よく分からないがマリアはデレてくれないからもういいらしい。

本当に全くもってよく分からない。



ザッカは不思議な男だ。キリが天涯孤独と知ってからキリに優しくなった。それは同情かと思ったがどうにも違う。

ザッカは中々懐かない野良犬のようなものだとキリは思った

多分これは仲間意識だろう。

ザッカの生い立ちは知らないがキリの何かがザッカにとって仲間だと思う要因があったのだろう。


クレイとも仲のいいザッカだがそれを指摘するとむくれる

ちょっと可愛い弟キャラになる。


キリにとってザッカは友達だが、ザッカから見たキリはなんだろう?

今度聞いてみよう。



2人でぶらぶらと街を歩いて宿に戻った時は夕刻だった。ザッカと戻ったキリをみてクレイが少し不思議そうにしたがきっと気の所為だ。




行きの騒動が嘘のように帰りはあっさりと学園に着いた。

宿の割り当てにザッカは不満を顕にしたが、クレイは譲らなかった。

少しクレイの様子はおかしい気がするがキリには何がおかしいのか、どうすればいいのかが分からなかった。




護衛訓練から2週間、マリアとミヤとは会う機会が無かったがザッカとクレイとはしょっちゅう会った。

この班で来年からはギルド依頼も受けるらしいから当然と言えば当然だった。

しかし、クレイは少し元気ないし、ザッカは協調性がない。


クレイのことはどうしようもない。

だって理由も分からなければ解決策も分からない。


(とりあえずザッカの方かな)


ザッカは本当に1人でなんでも出来てしまう。

だから協調性が育まれなかったんだろう。

ならば、ひとりじゃどうしようもないことをすればマシになるのではないだろうか、とキリは考えた。



「ザッカ、ちょっといいか?」


解散後、ザッカとカフェに行く。ここまでは計画通り、ここからが問題だった。



そもそも問題が起きていない。

なのにザッカでも手に負えない問題提起しなくてはならない。


(考えずに誘っちまった)


とりあえず気になること、問題っぽいこと、手に負えなさそうで、考えては見るが正解は分からない。

ザッカの方を見ると相変わらずムスッとしていた。

最近の様子がおかしいのはクレイの方かと思いふと口に出した。


「最近せんせー元気ないよな」


最近はよく姿を見せるけれど相変わらず掴みどころのない人だ。

だけどふとした瞬間目があったと思ったらふいっと逸らされ少し元気がなさそうに見えた。


「あいつが?そうか?」


ザッカは気がついてなかったらしく自分の気のせいかとも思ったが少し気になった。

あのスカイブルーの瞳が揺れるのは胸が痛かった。


「なんか目が、そうスラムの人に似てるって言うか、その、諦め?って言うか」


その言葉にザッカは少し考える仕草を見せた。


「つまり、お前にとってあいつはそうじゃなかったってことか?」


言われた意味が分からず首を傾げた。


「あー⋯⋯つまりな、俺はそう言うのには敏感で、1番そんな目をしてたのはあいつ⋯⋯クレイだった」


言いにくそうなのはクレイがザッカに勝手に過去を語るなと言っていたからだろう。


「あいつも色々あったから、だから、俺は、あいつと不仲にはならなかった」


ぽつぽつと言葉を選びながらザッカは言葉を続けた。







ザッカとクレイはザッカの生まれてすぐの頃からの付き合いだ。

死んだような目が印象的だと思ったのは自分もそうだったからだろうか。

幼いザッカはクレイが一緒だと思った。


ザッカは生まれが普通では無かった。

出産時に母が亡くなった、12歳上の兄はザッカを酷く恨んだらしい。

よく知らないのはその兄も馬車の事故で父と共にザッカが生まれて3ヶ月で亡くなったからだ。

その翌月に荒れていた国内が大きく揺れた。

王妃様崩御の知らせとそのお子様が行方知れずになったらしい。

その混乱で祖父母も亡くなり、父の後を思わぬ形で継ぐことになった叔父はさらに翌月に落馬で命を落とした。

そうやって不幸が続いたためザッカは怖がられた。

同情の目を向けるものも居たが表立って動くものは皆無だった。

母方の兄に10歳までの約束で引き取られた。

10歳という異例の若さでザッカは爵位を継ぐことになるのだが、さらにそれがザッカを苦しめた。

まだ幼いザッカに子を成すようにと色んな女が群がるようになった。

時には強行するような者もいて、心身共に疲れ果てた。

見目も悪くないザッカは優良物件だったのだろう。

だが、まだ10歳の子に子作りをするようにと色仕掛けや強硬な手段でベッドに潜り込んでくる女性に苦手意識が芽生えるのは自然な事だった。

そこで従兄弟であり優秀な魔術師が助言した。


「学園に入ればその間はゆっくり出来ると思うぞ」


すでに爵位をもつザッカには必要のないものだったが学園の卒業というのが目標となった。


この従兄弟も高位貴族の次男であるが跡取りとして有力視されていたため似た経験があった。

兄のような存在ではあるがどこか壁を感じていて、こちらも壁を作って、似ているけれど違うなと思っていた。

けれども見かねて声をかけてくれたのだと受け入れて学園に入学することにした。



爵位を持っているとか呪われたと言われたとは言わず、家族は既におらず、孤独の中で見てきたのだが、そこで1番近い境遇だったのがクレイだと告げた。






「でもせんせーは、すごく優しい目してた」


今度はキリが言葉を繋げた。


スラムにいる人達は基本的に生きることを諦めている。

キリより幼い子が死ぬこともあった。次は我が身と思うものも多く、けれど怯える訳でもない。ただそこに生きているだけだった。

生きたいと願うことすら諦めている人が多かった。


そんな中にいたキリは人の目に敏感だった。

クレイの瞳に影が落ちることがあるのはわかったが、それ以上にクレイの目には優しさがあった。

暖かい気持ちになれる瞳だった。




不器用にそう告げるとザッカは眉をひそめた。


「あいつが⋯⋯?」



話題を気にする仕草を見て、この話をするつもりではなかったが、間違えた話題では無かったと思った。


「うん、それに怪我した時も優しかったよ」

「そういえばお前ら同室だったもんな、俺はひとりだったけどな」


拗ねたように言うザッカに申し訳なく思う。

案外根に持っているようだ。


「ひとりでゆっくり出来て良かったじゃん」


そういうとジト目で見られて口を噤んだ。


「しかし、元気がねぇとは、あいつは大概なんでも解決出来る、それが、おかしいのはおかしいな」


ブツブツとザッカが思考に耽りながら独り言を呟いた。


「どうしたんだろうと思ったけど、俺じゃなんにもできねぇし、ザッカとなら解決出来るかなって」


実は問題提起に困って話題に出しましたとは言えず、初めからこの話がしたかったと言えばザッカは頷いてくれた。


翌日からザッカはクレイに話しかけるようになった。

無碍にはしないもののまともに取り合うという感じでもない

傍から見ればいつも通りのクレイだった。



「確かにいつもより目が死んでるな」


毎日カフェに行く余裕はキリにはなく、今日は騎士学園での合同練習だったため近くにあった騎士学園の宿舎の一室、キリの部屋で2人は会話していた。


「なんでだろ?俺としてはせんせーが嫌な思いしてるなら少しは和らげたいんだよな、まぁザッカがそうだったとしても同じように思うけどさ」


ここに来てザッカの性格が少しわかってきたキリがザッカも気にしてますよと言う。

ちょっと面倒だがこれも仲良くなるためには必要なことである。


「嫌な、ねぇ。そんなの今更だと思うが、ここに来て急にってのは気になるな」


真剣な目をしているザッカにも俯いたキリにも答えは出ない。


「調査とかしたらわかるかな?」

「調査?あとつけるとかか??無理だろ」


いつも神出鬼没でいつの間にか居て、いつの間にか消える

確かに調査は無理そうだとキリが唸る。


「お前気に入られてるし次の休みにカフェでも誘えよ」


ザッカのいきなりの発言にキリは瞬いた。


「別に誘うのはいいけど、それからどうすればいいんだ?」

「悩みあれば聞くとか言えばいいんじゃねーか?」


それで上手くいく気がしない、そもそも人を慮ることの無いザッカの意見は粗が多い。

しかし、何もしないというのも嫌だ。

少し悩んだ後、キリはそうすると頷いた。



翌日、訓練の後にさっさと姿を消そうとしたクレイにキリは緊張した面持ちで声をかけた。


「せんせー!おれとデートして!」


(あ、言葉間違えた)




なんにでも飄々とした態度を崩さないクレイが目を瞬かせ驚いたように口をぽかんとあけた。


「あ、いや、えっと、お茶でも飲みながら話そうかなって、そういうのデートって言うってマリア嬢に聞いて」


慌てて言い訳をするがなにか色々間違えたと思い今日は諦めようかと口を開きかけた時にクレイが声を出した。


「いいよ、カフェでいいのか?」


少し遠くでザッカの呆れたような表情を見て力なく笑いつつクレイの言葉を肯定した。


読んで下さりありがとうございました

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