10.無邪気な笑顔
夜会の翌日、クレイはどこかに出かけて行った。
キリは1人で街を見ていた。ザッカは一人部屋にされたことを根に持ってキリの誘いには乗らず、マリアとミヤは淑女の行くお店に行くらしくキリの見たいものとはかけ離れていたため1人で出かけることになった。
店先に並ぶ剣を眺める。
学園ではある程度の剣が配布されるがどこまで行ってもある程度であるし、個人に合わせたものでは無い。
雑貨等の買い物には補助金もあるがこちらも良い品が買えるほどでは無い。
「いつかおれも」
そうお金のないキリにはいつかと願うことしかできない。
「あれ、キリやないか?」
「え?あっ、イオリ」
武器屋で偶然に出会ったのは弓術トップのイオリだった。
「チームに誘えんで悪かったと思ってたやんけど、あちらさんのトップと組んでるしキリは運もあるんやないか?」
そう言いながら紅茶を飲み込んだ。
イオリとキリは近くのカフェに入って会話をしていた。
カフェを指定したのはイオリだ。
「そう、なのかも」
言われてみればそうなのだ。
事実キリには運気の才もある。
「困ったことあったら相談に乗るさかいいつでも言いや?」
なにか心配そうに言われ言葉に詰まった。
盗賊とのことは誰にも言ってないしザッカやマリア、ミヤも言ってはいないだろう。
だから知らないはずのイオリの言葉の真意が分からずに不安げにキリは見上げた。
「そないに警戒せんといてーな、別に困らせたいわけとちゃうしな、そうやな、懸命に頑張る兄弟がほっとけないっていう感じ、伝わらんかな」
そういうとイオリは少し笑みを浮かべた。
「ただ、キリは頑張りすぎるから、心配っちゅー話や」
顔を上げるとイオリと目が合った。
「俺も気の利いたこと言えるわけとちゃうし、ゆっくりと茶飲みながら話す位しか出来へんけどな」
困ったようにカップを持ち上げるイオリにキリは微笑んだ。
「ありがとう」
そんな言葉と共に。
キリが心配で急いで仕事を終わらせたが宿に姿が見えず、慌てて魔術の痕跡を辿ってその姿を見つけたクレイの存在には気がつくことなく、キリは無邪気な笑みを返した。
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