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 数日後、数件の鑑定を終えたわたしは、ウェイン様がやってくるのを待っていた。彼は近日中にこの店を訪れると言っていたが、本当に姿を現すのだろうか。


 そんな思いが頭をよぎる中、カランカランという鉄製のノッカーの音が店内に響いた。


「お嬢様、いらっしゃいました」


 ヴェールを被ったニーナが鑑定室の布の扉を開けて言った。普段のニーナはヴェールを被っていないけれど、彼女は先日のお茶会でわたしの傍に控えていたから、ウェイン様に正体がバレる可能性がある。そのため、わたしたちの正体がバレないように、最近はヴェールを被ってもらっている。





 鑑定室に現れたウェイン様は、勤務中だろうか、紺色の騎士服を纏っている。先日の正装も素晴らしかったが、騎士服姿もそれに劣らず魅力的だ。



「占いの館へようこそ。モンテクリスト侯爵令嬢からお話は伺っておりますわ。こちらにお掛けになって?」


 わたしがそう言うと、ウェイン様はうんともすんとも言わず、腕を組んで、ドカッと椅子に腰掛けた。



 ん?



「デュスカーナ公爵子息様、両手をテーブルの上に置いてくださいね」


 彼はそのままの姿勢を崩すことなく、わたしに不信感満載な視線を向けて言った。


「悪いが俺は占いなんかに興味はないんだ。占いなんて、出鱈目なことを無責任に言ってるだけだろ。運命の相手を探すだって? そんなもの、占い師の戯言に頼らなくても自分で見つければいい」


 先日とは打って変わって、何という横柄な態度だろうか。 


「結婚相手に選んだ女に婚約を保留にされたんだ。俺が今日ここに来たのは、彼女の機嫌を取るためだ」



 これがウェイン様の素なのかしら? なんかイラッとするわね。とっとと紐を切ってお暇願おう。



「デュスカーナ公爵子息様、両手をテーブルの上に置いてくださるかしら?」


 わたしは笑顔で再びそう言った。彼は軽くため息をつき、馬鹿にしたような表情を浮かべながら、しぶしぶと両手をテーブルの上に置いた。


 ウェイン様の左手の小指には先日と同じように漆黒の紐が結ばれている。


 わたしは水晶の上で手を動かし、彼の紐を掴んではさみで切った。こうすることで紐は跡形もなく消え去る。



「は…………?」



 わたしの口からは思わず戸惑いの声が漏れてしまった。


 なぜなら、切った漆黒の紐は確かに消え去ったのだ。しかし、彼の左手の小指には、新たな漆黒の紐が結ばれていたのだ。



 どういうこと……?



 わたしは再び彼の紐を掴んで、確かめるようにゆっくりと切った。


「…………」


 切った漆黒の紐は消え去った。しかし、彼の左手の小指には、再び新たな漆黒の紐が結ばれていた。


 わたしは同じことをもう一度繰り返したが、やはり結果は同じだった。



 おかしいわ。わたしが彼の漆黒の紐を切ったことで、彼の不慮の死は回避されたはず。なのに、なぜ彼の左手の小指には何度も漆黒の紐が現れるの……!?



 もしかして彼は……。



「あなた……、命を狙われている…………?」



 わたしがそう言うと、彼は一瞬で表情を変えた。


「なぜ、そのように?」


 彼は低い声で冷静に言った。


「このままでは、あなたは運命の相手と結ばれることなく、命を落とす危険があるわ」

「なるほど? お前は何者だ? 何を知っている?」


 ウェイン様は素早く椅子から立ち上がり、わたしに向かって手を伸ばした。わたしの被っているヴェールをはぎ取るつもりだ。


 パシン!


 わたしは素早く左手を上げ、上段受けでウェイン様の右手を払いのけた。彼の手は空を切り、わたしのヴェールには届かない。次の瞬間、わたしは右足を後ろに引き、重心を低くして構えた。



 はっ……! しまった……!



「おほほ、失礼しましたわ。けれど、女性のヴェールをはぎ取ろうとするなんて、少し無粋ではありませんこと?」

「………………」


 ウェイン様は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、鋭い目つきでわたしを見つめた。その目の奥には、わたしへの警戒が浮かんでいる。


 しかし、払われた右手に視線を移した彼は、警戒を解き、椅子に深く腰掛けた。そして、ゆっくりと息を吐きながら言った。



「確かに俺は命を狙われている。それが周りに危険を及ぼす可能性もある。だからこそ、自己防衛できる結婚相手を選んだ。幸いにも彼女は馬鹿ではなさそうだしな」



 なんだとーーーーーーっ!?



 それが理由でわたしに求婚したのか!? 何が「惹かれたから」よ!! 確かにわたしなら、自分の身は自分で守ることができるけれども!!



 わたしは冷静を務めて言った。


「それで? あなたはただ手をこまねいて見ているだけなのかしら?」

「そんなわけないだろ。大事にならないうちに秘密裏に処理している。ただ、黒幕の正体が掴めない以上、終わりは見えないんだ」


 わたしは言葉を失った。彼の物言いからすると、彼は何度も命を狙われたということになる。そしてそれは、黒幕を捕らえるまで続くのだ……。


 わたしは心の中で決意を固めた。


「いいわ。わたしがあなたを守ってあげる!」

「は?」



 このまま死なせるのも寝覚めが悪いしね。紐とはさみは使いようだ!!



 彼の運命の紐が本来の赤い色に戻ったら、運命の相手を教えてあげて、保留にした婚約を無かったことにしてあげよう。



「わたしの占いはすごいのよ? さあ、行くわよ!!」

「は…………?」







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