1 はじまりと入学式
僕は目が覚めて、ああ、今日は入学式だったなと、体を起こす。顔を洗って、朝食を食べて、着替えて。準備が終わって、通学路を歩く。なんてことのないまま、学校へ着き、教えられるがまま、教室へと行く。先生はとても優しそうで僕の本心なんか絶対わかってくれなさそうな雰囲気だった。
入学式は何事もなく終わった。ほんの少し、この場所から逃げてやろうかと考えて、でもそんな勇気なんてないまま教室に戻ってきた。
ホームルームの自己紹介と挨拶を聞き流しながら周りを見る。赤や青や緑の色が目立つ。何かがおかしいような、でもこれが普通だった気もしてた。
「私の名前はアイです。よろしくお願いします。」
目の前の金髪の女の人。紫色と黄色のオッドアイでこちらを見渡し頭を下げる。僕は彼女を見たことがある気がした。強かで優しくて、そして気付いたときには僕の手を離れてしまいそうな儚さを、感じた。
「次、君の番だよ。」
座った彼女にそう言われて始めて気がついた。
「ぼっ、僕の名前はユウです。よろしくお願いします。」
慌てて立ち、そう告げる。早くこの時間が終わってくれと思いながら、席に着く。幸いにも誰も僕のことを気にしていなかったようで、すでに次の人の自己紹介が始まっていた。
その日は学校が終わるとすぐに帰っていた。帰って、鏡を見て、あの人のことを思い出した。
そこに映っていたのは光の反射で紫にも見える黒髪を携えた黄色と紫色のオッドアイの少年だった。
そこで僕は始めて、ああここは夢の中だったんだとそう思った。
それからは早かった。夜ご飯を食べてお風呂に入ってベットの上のお布団に潜り込んで、僕は何かを恐れるような心持ちで眠りについた。