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009. 美桜、感慨に耽ける

 叶羽の高校受験も終わり、やっと少し落ち着いた気がした。

 父さんと母さんが突然交通事故で亡くなったのがちょうど私が高校生になった時だった。


 いつも叶羽のことで父さんと母さんに心配と迷惑ばかりかけていたから偶々、結婚記念日に二人で休みが取れたことを知って私は父さんと母さんに二人だけで楽しんで欲しいと思った。

 だからその日は学校がテスト期間だったこともあり午前中だった。

 すぐに家に帰り叶羽を預かった。

 私が叶羽を抱いて実家の玄関で二人を見送った。

 父さんと母さんと笑顔で別れた。

 これが父さんと母さんの()()()()()()顔を見た最期だった。

 もうその後は何をしていたか覚えていない。

 私自身もまだ十六歳、高校一年生になったばかりでどうしたらいいのかさえ解らなかった。

 その所為(せい)で本来、叶羽の保護者となるべき人と一緒になることができなかった。


 ただ父さんと母さんの教育方針は小さい頃から料理・掃除・洗濯などの家事全てを一人でできるようにと教え込まれていた。父さんと母さんがもし一週間、家に居なくても生活ができるようにはなっていた。

 ただ一歳になったばかりの叶羽の世話だけは私にとって初めてのことだったから母さんに細かく教えてもらいながらの育児だった。

 父さんと母さんが亡くなって少しずつ現実に戻された。

 まだ高校生の私には叶羽を育てることもできなくなることが更に不安にさせた。

 叶羽の保護者となる人と連絡していれば運命は変わっていたのかも知れない。

 でも父さんと母さんがいない現実に戻ることにかなり時間がかかってしまったことと自分が高校生で生活を安定させること、叶羽を守っていく人間は私以外にはいないんだと思ったことで母さんの兄であった武田(たけだ)樹生(みきお)という人に引き取られることしか道がなかった。

 でも母さんからは兄だけど考え方は全く違くて話をしても自分の主張ばかりを押し通す感じで信用はできないと言われていた。

 お金にもうるさいというか、欲張りなところがあって気を抜くと私たちが受け取れるものまで奪っていくような人だと言われていた。

 絶対に伯父家族の手に渡せないので面倒だけれど毎月電気代・ガス代・水道代・食事代として十万円を払っていた。

 けれど、食事は作ってもらったことはないのでただ無駄に払っている。

 叶羽に対して何もしてくれなかったので市役所に行って相談した。

 本当ならば育児をしてくれる人がいるので保育園に入園させることはできないのだが話を聞いてくれた職員さんが手を尽くしてくれて保育園に入れることが決定した。

 そこから私の生活も落ち着いて仕事に出掛けるのと同じように朝は私が高校へ行く準備、叶羽は保育園に行く準備をして家を出た。

 叶羽を保育園に迎えに行くには十六時半ごろまでに学校を出れば十分、間に合う。

 学校行事などで遅くなる時は延長保育をお願いすれば延長してもらえる。

 上手に周りから親切にしてもらって叶羽を育て十五年。

 なかなか核心の部分を叶羽にはまだ話せていない。

 何かきっかけがあれば話せるのかもしれないけれどと思いながら回りくどく理解できるだろうと思って話したことに少し後悔していた。


 そうは言っても私も三十歳。

 一番、叶羽に話すことを躊躇(ためら)うことが彼氏の話。

 いつもきっちりと叶羽に話そうと思って家に帰る。

 私が今までしていたみたいに学校から帰った叶羽は私が帰ると夕食が準備されていた。

 叶羽は反抗することもなく毎日食事も作ってくれる。

 そんな叶羽を目の前にすると何も話せなくなってしまっていた。

 叶羽だって高校生。

 叶羽にも恋人はいるだろうと思う。姉の欲目だけではなく叶羽はあの人に似ていい男だ。

 それだけではない。

 周りの人間が叶羽の出生の秘密を知ったら絶対に煽てたり媚びてくる者が増えるだろうと思っている。

 そんな人間を目にするだろう。

 でも今はまだそういうことは気にせずに子どもらしい生活をして欲しいと思ったから叶羽本人にもこのことだけは話せなかった。


 武田の家の娘:帆夏(ほのか)が今度は高校受験だし、何もなければいいけどあの武田の家族のことだからそれで済むわけがないと思っている。

 あの家からも出たいからそろそろ私の彼氏のこともちゃんと話したい。

 そう思っていたのはどうやら私だけではなかったようだ。

 先日、瑠奈ちゃんがどさくさ…いえいえ、ちゃっかりと会社の皆を巻き込んで飲み会を開いてくれた。

 その時にあの人も参加していたけれど、なかなか話すこともできなくて結局はお祝いの一言だけだった。

 もう少し時間をかけて会話がスムーズにできるといいなぁと思った。


 けれど連休明けの学校でまさかあんなことになるなんて私というよりもあの人の方が動揺していたみたいだ。

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