007. 姉ちゃんが勤めている会社
姉ちゃんと軽く昼食を済ませ、姉ちゃんが勤務している会社・五十嵐クリエイティブ株式会社に到着した。
何時も姉ちゃんの出張に同行しているのを見ている会社の社員たちは俺が姉ちゃんと一緒に会社に入っていっても変な顔をする人はいなかった。
「お帰り~、叶羽くん高校入学おめでとう!」
会社に入るなり、入り口エントランスの受付係をしている女性に笑顔で迎えられた。
「えっ!?どうして?」
「そりゃぁ美桜さんがニッコニコで喜んで…」
「あっ、あぁぁぁー」
受付係:結城瑠奈さんが俺に会社での姉ちゃんの話をしようとしたら姉ちゃんが瑠奈さんの前で手を振って邪魔をしてきた。
「姉ちゃん…ちょっと邪魔」
「叶羽…あんた、姉さんに対して辛辣すぎ」
唇を尖らせながら不満を口にした。
「あー、姉ちゃん。そんな事より仕事!」
「そんな事ってそんなじゃない!」
怒りそうな顔をしていた姉が今度は泣きそうな顔をして俺を見てきた。
「そんな百面相している暇なんかないだろ?退社時間までに間に合わなかったら今日の夕食のお祝いはなしで」
「えっ何?!叶羽くんのお祝い今日するの?何?二人きりで食事?!ずるいっ、ずるすぎる!」
瑠奈さんは笑顔で受付席から飛び出して来た。
「ちょ、ちょっと待ってよ~。せっかく叶羽と二人で楽しもうと思っていたのに~」
困った顔をして姉ちゃんは瑠奈さんの動きを止めた。
「叶羽くんの高校入学祝をしたい社員は他にもいるのよ。だから参加する人募集しよ!」
「えぇ~、なんでこうなるの~?」
更に困り顔になりながらも姉ちゃんは嬉しそうにしていた。
「あっ、美桜さん。社長のこと誘ってくださいね~」
「うん~、わかった~」
「美桜さんってなんで仕事じゃないと間の抜けた話し方になるかなぁ?」
「えっ?姉ちゃんっていつもこんな話し方しかしないですよ。ただ真面目な話になると仕事モードみたいですけど」
俺は表情を変えずに瑠奈さんに話した。
「そっかー。それはまぁいいとして…美桜さん!叶羽くんのお祝いはさせてもらいますので皆でお食事会ね」
瑠奈さんは姉ちゃんと仲の良い社員に声をかけていた。
「はぁ、まぁいっか~。みんなで食事するのもそれはそれで瑠奈ちゃんからも社長を誘えって言われたからいいか~」
小さく溜息を吐いてブツブツ呟いていた。
呟きながら秘書室へと向かった。
部屋の中に入ると姉ちゃんが使用している机に俺の荷物を置いた。
姉ちゃんは荷物を置くよりも先に秘書室の先にある社長室の扉を叩いていた。
「社長、失礼します」
「ああ」
社長の返事を確認すると姉ちゃんは社長室へと入っていった。
「さてと…。実力テストがあるから勉強もしないとな。今日は入学式だったから教科書類は鞄に入れて来なかったな…。暇つぶしができない」
俺は今できることを考えていると姉ちゃんが社長室から出てきた。
「あっ、瑠奈ちゃん?美桜よ。O.K.だよ、社長」
それだけ話すと机の上にスマホを置きながら席に座りパソコンの電源を入れた。
マウスを手にして画面を見ながら操作をしていた。
スケジュール管理を見ているようだ。
「叶羽~、来週末だけど叶羽のスケジュールは空けておいてね~。姉さんの仕事、出張が入ったの~。よろしく~」
俺は姉ちゃんの言葉でスマホのスケジュール画面を見た。
「あー、まだ空いているから大丈夫だよ。姉ちゃん、五月の連休はどうするの?」
「連休ね~。スケジュール決定は中旬になっちゃうと思う。たぶんこれまでの考えて、社長のスケジュールで出張になるかな~」
姉ちゃんが仕事の話でも俺との会話だと緊張感がやっぱりない話し方だった。
「わかった…、いつも通り姉ちゃんとのスケジュール以外は断ることにする」
スマホを見てスケジュール表にチェックを入れながら姉ちゃんに答えた。
「…よしっ、と。叶羽~、これから姉さんは社長と系列会社の会議に行ってくる~。定時退社の十八時までには戻ってくる予定だけど姉さんがここに帰って来なかったら瑠奈ちゃんが準備してくれていると思うから一緒にお店行っててね~」
「了解。退社時間まで姉ちゃんの机、借りるね」
「うん、わかった~」
姉ちゃんとそんな会話をしていると社長室から社長が出てきた。
社長は姉ちゃんにアイコンタクトを取り軽く頷きあっていた。
「それじゃ、出掛けてくる」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
社長はその言葉に左手を挙げて部屋を出た。
姉ちゃんは社長に差し出された書類の入ったファイルを手に持ち社長の後について部屋を出た。