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第1話 

自分でも何でこんな内容の物語を書こうと思いついたのかは謎ですが、始めたもんはきちんと終わらせます。

「あの世界の勇者は敗れてしまったのですね・・・。死力を尽くして戦ったのにも関わらず心苦しい・・・」


透き通るような青空が広がっている天界にいる女神は肩を落とし、水晶玉に写っている世界をイスに座りながら見つめていた。


「しかし落ち込んだままではいけませんわ。何としてもあの魔王は倒さなければ・・・。天界から飛び出し、神の座を捨てた魔王のことを・・・」


絶世の美女とも言える女神は気持ちを切り替えて立ち上がると、自身の足元に落ちていた、水晶玉とはまた異なる小さな赤い球体を撫でながらこう口にした。


「次なる転生者となるのはこの魂。生前の姿は分かりませんが、死後この天界に辿り着き、わたくしの傍にずっといるということは運命を背負った者なのでしょう」


そして女神は「それでは死者の魂よ・・・新たなる姿を手に入れ、あの魔王のことを止めてください!!!」と叫んで、その赤い球体を両手に包んで呪文を唱える。すると眩いほどの光がそれを包み込み、その死者の魂は魔王と魔物が跋扈している世界へと送られた。


のだが。


パオォォォン。パオォォォン。


パオォォ・・・。パオ?


パ、パ、パ・・・。


パオォォォン!!!


「・・・あ、あれ?わたくしが転生したさっきの魂って・・・。え、え?」


光が落ち着き、手の中が空っぽになった女神は呆然とした表情を浮かべている。


そう。今回、彼女が転生させた魂の前世というのは。


「嘘でしょ・・・?あの魂って・・・。ゾ、ゾウですか・・・?」





「本日、とうとうこのバン王国に別の世界から転生してきた二代目勇者が出現するじゃろう」


「ほ、本当ですか?ズイファ国王陛下?」


「ああ。昨夜、夢の中に女神が出てきた。『明日、其方が暮らしている宮殿の前に赤子が訪れますわ。そして幼いながらも自分の足で歩き、言葉を話すその子が新たな勇者となるのです。・・・ちょっと特殊だと思うけど・・・』とな」


「特殊・・・?」


激しい嵐が吹き溢れている中、バン王国における巨大な宮殿の会議室では、大臣達による会議が行われていた。


「今から40年近く前、突如として“魔王”と自称する人知を超えた存在が出現し、魔物という生命体をその手で生み出した。そしてそれを用いて人間との争いを始めたことで世界は地獄と化した・・・。ここ以外の他の国の人々は、魔物に支配されて理不尽な圧政に苦しんでいる現状じゃ」


周囲から国王陛下と呼ばれている老人・ズイファ。彼は人一倍豪華なイズに座りながら、綺麗に整えられた真っ白の口髭をさすりながら話を続ける。


「この国のことを救ってくれた初代勇者も、別の世界から転生したというのだが・・・。彼女は魔王に敗れてしまった。死力を尽くしたと女神は言っておったのじゃが残念じゃ」


そしてズイファが話を進めている中でも、なお強い雨風の音は宮殿内部に響く。しかし彼が過去の勇者について言及にしたことよって、大臣達はその音をかき消すように一斉に口を開いた。


「今回の勇者は大丈夫なのだろうか・・・?魔王率いる魔物集団はあまりにも強大過ぎる・・・」


「た、倒すなんて無理ですよ・・・。どうせ魔王どもはこの国に手出しはできないのですから大人しくしましょうよ!」


「でも今のままで良いのか?この国に張られている結界だっていつ破壊されるか分からないのだろう!?絶対に安全とは言えないじゃないか!」


「お前らうるさいぞ!前の勇者だってダメだっただろ!もうここで穏便に生きていけばいいんだよ!」


「こ、こら君達!国王陛下の前で醜い論争は控えなさい!」


「むぅ・・・」


国の中枢にいる者達が言い合いのようになってしまう光景を見て、これまで長きにわたり王国を統治していたズイファでさえ言葉を失う。すると突然、会議室の扉が勢いよく開かれて見慣れた顔の役人が中に入ってきた。


「こ、国王陛下!宮殿の前に見知らぬ男の子の赤ん坊が突然現れ、門番から保護されたとの報告が!どうやら自分の足で立って喋っているそうです!」


するとその報告を聞いたズイファは「よし、それでは顔を拝もうではないか!その赤子こそが我々が求めていた勇者に違いない!」と勢いよくその場に立ち上がる。


「早速じゃがワシがその子の下へと赴き、彼に話を聞こう!そして魔法を使えるこのワシが直々に彼のことを育てると誓おう!」


こう宣言して会議室を飛び出した国王・ズイファは、役人の先導によって、赤ん坊が保護されているという部屋へと向かった。


そして彼の前にその姿を見せたのは、すでにその足で立ち上がって言葉を発している、真新しい服を身につけた男の子の赤ん坊。


その体とは不釣り合いな大きさなの剣を抱えているこの子こそが魔王と戦う、転生された勇者のはずなのだが・・・。


「・・・は?」


「だから僕は動物園で暮らしていた天才ゾウだったです。名前はパオゴローです。小さい時から僕のことを世話してくれてた飼育員の奈嘉見多(なかみた)カナさんが仲良しだったです」


「・・・は?」


「僕は病気で死んじゃったです。でも生まれ変わったです。分かってるです。今は人間です」


「・・・は?」


「お爺さんと会話ができて僕は嬉しいです。でもゾウの時は奈嘉見多さんとはこんな感じでお喋りできなかったです。もう一度で良いので奈嘉見多さんに会いたいです。奈嘉見多さんは僕が死ぬより前にいなくなってしまいました」


「・・・は?」


「でも仕方がないのでとりあえず魔王を倒すです。そのためには成長しないといけないです。だからこの宮殿で暮らすです」


「え?あ・・・。うん・・・。よろしくね・・・」


「さあ早く僕のことを育てるです。ここまで言わないといけないなんて人間は面倒です」


こうしてこの世界には、前世がゾウの勇者が生まれた。





こうしてバン王国の国王であるズイファから育てられることになった勇者・パオゴローだが、彼は前世がゾウでありながらも自身の置かれた状況についてしっかり理解していた。


極めて稀だと思われる、人間以外の生命体による勇者への転生。繰り返すがしかも前世は動物園で飼われていたゾウだ。


そして時間はパオゴローが異世界で新たな生を受けて目を覚ます直前、彼の深層心理下には物凄く申し訳なさそうな顔した女神が現れたところまで遡る。


「あ、あの・・・。こんばんは」


「ん?君は誰ですか」


「わ、わたくしは女神でございます。あの、この度、前世がゾウだった其方を転生させたのはわたくしでして・・・。今から詳しいお話をさせていただきますわ・・・」


こうしてぺこぺこと頭を下げながら彼女は、以下のような説明を始めた。


パオゴローは人間から『ゾウ』と呼ばれていた動物だったこと。

パオゴローが生まれ育った場所は動物園という施設でその外にはもっと広大な世界が広がっていたこと。

パオゴローは10歳の頃に病気で死んでしまったこと。


そして異世界で生まれ変わることも説明された。・・・しかも人間の姿に。おまけに勇者として。


どうやらパオゴローが生きていた世界の人間は死後、その中から一定の人物が転生という現象の対象に選ばれ、異世界に存在する悪を倒すという手助けをさせられるらしい。


そして何を隠そうパオゴローが今回、魔王を倒す対象に選ばれてしまった。


「どうして僕が今回、その転生とやらに選ばれたですか?」


「それが・・・その、わたくしもよく分からなくて・・・。そ、其方の魂がわたくしの傍から離れなかったものですから・・・。ついつい転生の運命を背負った者かと思いまして・・・」


「そんなあやふやじゃ困りますよ」


「す、すみません・・・」


新たな姿で目を覚ます前、パオゴローはペコペコと頭を下げ続ける女神と会話をしたものの明確な答えは得られなかった。


加えて女神からは「一応のご報告となりますが、もし転生を拒否したり魔王討伐を途中で放棄したりした場合には、地獄に堕とされるというペナルティが待っているので・・・。その、よろしくお願いします・・・」と理不尽かつ強烈な事実までも告げられてしまった。


「で、ですが!魔王を倒してくださった暁には報酬を差し上げる予定となっていますわ。こちらの魔王は多くの魔物を生み出し、人間達を支配し傷つけておりまして。力が強大な分、それ相応のものをご準備いたします」


女神は胸の前で両手を握りしめ、うるうるした瞳をパオゴローに向けながらこう話す。さすがに迷惑さを感じているパオゴローだが、ペナルティもある上にそもそも既にこの状況まで来ている以上、もう仕方がないので・・・。


「人間のために何かをするのは癪ですが、その魔王とやらを倒すしかないですね。僕は天才ゾウだったので何とかなります。飼育員の奈嘉村さんもいつも『パオゴローは賢いね』って言ってました」


パオゴローが決意の言葉を口にしてその意思を確認できたということで、女神は天界を彷徨っている人間達の魂から抽出した様々な知識を追加で彼に授けた。


これによって異世界の社会であっても、パオゴローは人間としての最低限の常識や教養を持って生きていける。


こうして前世がゾウのパオゴローは勇者となる人間の赤ん坊となって異世界へと転生し、ズイファ国王の前に現れたのであった。

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