第22話 ワンニャン楽園へ(2)
「ふわああああああ‥‥か、かわいいいいい‥‥ど、どうにかなっちゃいそう‥‥」
ワンニャン楽園のゲートに入ってすぐ、犬と猫のマスコットキャラクター達が盛大に出迎えてくれた。中の人は相当訓練されているのだろうか、このクソ暑い中身振り手振りで俺たちを楽しませようとしてくれているのは有り難い事だ。
「見てえ大河!あの猫ちゃんのキャラかわいいよぉ‥」
「写真でも撮って貰おうか?時間はいっぱいあるからさ」
「いいの!?」
言った途端、美桜は物凄い勢いでお目当てのマスコットにかけて行った。俺も急いで美桜の後を追う。
「大河!!早く早く〜」
「わかった、わかったからそんな慌てんなって!」
とは言いつつも、美桜に手を引かれ逃げられなくなった俺は大人しく写真を撮る。てかこの猫キャラ、美桜の腰にちゃっかり手を回してやがる‥。
絶対入ってるのは男だろうな、とかマスコットキャラに邪推してしまってる自分自身に苦笑する。
俺、猫男、美桜のスリーショットを撮った美桜はめちゃくちゃご機嫌だしそれでいいか。
「まずはどこにいこうか?」
「やっぱりアレでしょ!触れ合い広場!まずはワンちゃんから行こうよ!」
文字通り人懐っこい犬と自由に触れ合えるだけのスポットなんだが、ここワンニャン楽園においては一番の人気を誇る。美桜みたいな可愛いもの好きにとっては正に天国と言えるだろう。
俺も勿論犬や猫が好きだし、だからこそワンニャン楽園に来た訳だが‥。俺の不安を払拭するように、美桜が微笑んでくれた。
「ふふっ、大丈夫だよ大河!ここの子達は多分人慣れしてるだろうし、心配しなくても懐いてくれるって!」
「そうだといいんだけどなあ‥」
そう、俺は犬や猫に驚く程モテないのだ。別に嫌われるとかではない。悲しい事に寄ってきてくれない。触ろうとすれば犬には鼻を鳴らされ、猫は興味を無さげにそっぽを向いてしまう。
一方美桜は動物達にもよくモテる。近所の強面の番犬すらいとも簡単に美桜には腹を見せる程である。
まあ不安がっていても楽しめないので、美桜と手を繋ぎ触れ合い広場までやってきた。
外から見てるだけでも小型犬から大型犬までたくさんの犬種がいると分かる。遊んでいる人達は子供から大人までみんな笑顔だ。
中に入った瞬間、ワンコ達が凄い勢いでこちらに向かってきた。そして両手を広げて待つ美桜の元へ、迷いなく飛び込んでいく。
「やっぱり凄えな美桜は‥一瞬でワンコ達が虜になってる」
「大河、これやばい‥!‥可愛すぎ。モフモフ!モフモフだよ大河!ここは天国だよ!あ‥や‥ダメぇ‥そんなとこ舐めちゃ‥‥ぁん‥」
「こらこら!何やってんだこのエロ犬!」
一匹とんだエロ犬がいたので、可哀想だが少し強引に引き離させて貰った。これは色々と不味い。それにしても美桜ってそんな艶めかしい声が出せるんだ‥‥じゃなくて!
「俺も男だしお前の気持ちは分かる‥だけどオメエそれはやりすぎだぞ?」
俺が言って聞かせるが、犬はムスッとした顔で聞こえないフリをしていた。‥のエロ犬!前世ではきっとスケベ爺だったに違いない。
「だ、大丈夫だよ?だからそんなに怒らないであげて?あなたも、ちょっと興奮しちゃっただけだもんね‥ふふっ、いい子いい子‥」
他の犬達に顔を舐められながら、美桜は犬にも頭を撫でてやっている。エロ犬は尻尾をブンブン振りながら喜びを表していた。心なしか俺に勝ち誇った嫌らしい笑みを向けてる気がするのは気のせいか?
コイツめ‥美桜の優しさに感謝するんだな‥。
ワンっ!ワンっ!
悔しさを噛み締めていた時、モフモフのゴールデンレトリバーが俺の足元まで来ていた事に気づく。身体をなすりつけるようにして一向に離れる様子はない。まさか‥慰めてくれているのか?俺はそっと手を伸ばす。抵抗する様子もなく気持ち良さそうに撫でられてくれた。
勇気を出して思いっきり抱きしめると、その犬は怒る事もなく嬉しそうに顔を舐め返してくれる。
「うう‥お前はなんて優しい子なんだ‥」
いつも犬には懐かれず、今回もエロ犬に馬鹿にされていた俺にとってこの子は天使だ。モフモフって凄い。あ、ずっとこうしていたい。
「ふふっ、大河幸せそう‥‥よかったね!」
「ああ‥ああ‥モフモフってこんなに気持ちいいんだな!」
美桜と思いっきりワンコのモフモフ具合を楽しんだ後、昼食を食べようと、猫達と触れ合えるカフェに行く事になった。ここの猫カフェは、猫の数が他と段違いで多いという噂である。
中に入ると、ワンコ達のように駆け寄って来たりはしないが皆にゃあにゃあと鳴いてどうやら歓迎してくれているようだ。
席に座ると、何匹かの猫達が興味深そうに俺たちを見てきた。そのうちの一匹が美桜をクンクンと匂い、安全だと判断したのか膝の上に座る。俺の所にも、膝の上には乗らないものの、何匹か寄ってきてくれていた。
割とすぐに来た食事もなかなか美味い。猫にしか出せない穏やかでほのぼのとした時間を味わう事が出来た。
心底嬉しそうに美桜は猫の頭を撫でならがら言う。
「‥やっぱり元気よく来られるのも嬉しいけど、こういうまったりした空間も最高だね!連れてきてくれてありがとう、大河!」
「ああ、本当にそうだなあ。美桜はどちらかというと猫派だったよな?」
「うーん‥そうだったんだけど、今日色んな子達と過ごしてどっち派とか分かんなくなっちゃった‥。もうみんな可愛くて大好きって感じ!!」
気づいたらたくさんの猫を側に侍らせている美桜は本当に幸せそうである。ついこの間まで、美桜のこんな笑顔を見る事はかなり減っていた。この笑顔を見れただけでも、本当に今日は来てよかったなと思える。
昼食を終えた後は様々なスポットを周り、マスコット達のショーを見てもう夕方過ぎになった。
そろそろ、回る所も無くなってきた為、俺の最大の目的の一つであるグッズ売り場に二人で向かう。
美桜が壊してしまった猫のキーホルダーの代わりを、今日買おうと思っていたのだ。好きなものを選んでいいと言っても、中々選べないらしく俺が良さそうな物を選んであげる事にした。
美桜が好きなモフモフの子猫が描かれたキーホルダー‥せっかくなのでお揃いの物を買ってプレゼントする事にする。
店を出た後、美桜は涙目になりながら大切そうにプレゼントを胸に抱えて上目遣いで俺を見つめた。
「‥ありがとう。‥本当にありがとう!壊さないように‥大切にするね‥!」
「高い物を買ってやれなくてごめんな?でも、そんなに喜んで貰えるならよかったよ」
その後はしばらく美桜は無言だった。壊れてしまった前の物にまだずっと罪悪感を感じているのだろうか。何故あんな事をしたのか、気にならないと言えば嘘になる。何かにもし苦しんでいたのなら俺が助けてやりたいが‥本人が言いたくなさそうなので聞くことをどうしても躊躇ってしまう。
もうそろそろここを出て、夕食でもどこかに食べに行こうかと言おうと思った時、美桜が服の裾をギュッと掴んだ。
「‥大河‥私、もう我慢できないよ。‥幼馴染だし、10年間も我慢してたし‥」
「ど、どうしたんだ?いきなりそんな顔してーー」
「‥ねえ大河‥私の家に来て?今日は皆帰るの遅いの‥」
‥‥‥‥‥え?どういう状況っスか?




