第21話 ワンニャン楽園へ(1)
今日は美桜との二人きりのデート日。昨日はしゃぎすぎた為心配だったが、楽しみすぎて一睡も出来ないとかいうヘマはやらかさなかったので体調も万全だ。
美桜の家はほぼ隣なので、初めから一緒に行くんだろうなあと思ってたんだが、昨日帰る時駅前に集合する事に決まった。美桜が言うには「デート気分を味わいたいから」だそうだ。
冤罪で二人でデートっていう状況でもなかったし、等々力の転入とか色々あったからなあ。何気に恋人になって2ヶ月以上経ってからの初デートである。特に恋人らしい事を何もしたいなかったので気持ちは分かる。
といっても美桜は幼馴染だし普段からよく色々な所で遊んでいた。凛人と美桜、美桜の友達の四人の時が多かったが、それでも美桜と二人だけで遊ぶ事も勿論あった。
だけどやっぱ恋人ってなると全然気持ち的に違うな。お互いずっと前から両想いだって分かって‥。
駅前まで歩いている途中気持ち悪いニヤニヤが止まらない。美桜は可愛いし、スタイルもいいし笑顔とか見てるだけで胸が熱くなるし、誰に対しても優しいし、俺に対してだけ嫉妬してくれてそれもまた嬉しいし‥本当に可愛いが溢れてる。
「そんな子の彼氏って俺どこのラブコメ主人公だよ!!」
「見て〜!お母さん!あのお兄ちゃん一人で笑ってるよ!」
あ、やべっ。思わずニヤけながら一人で叫んでいたら小さい男の子が俺を指差していた。手を引いてたお母さんがその子を連れて足早に離れていく。
完全に不審者だった事に今更気付いてももう遅い。気づけば俺の周りを誰もが避けて歩いていた。
少しだけ悲しい気持ちになりながらも歩いていると駅前についた。驚いた事に、30分以上前に着いたにも関わらず見知った女の子がいた。
「え、美桜?」
「大河!?てか大河の周りだけ人が避けて歩いてるのは気のせい!?」
「これはその‥まあ、アレだ。俺が不審者っていうか‥気持ち悪くて避けられてるっていうか‥」
「どういうことなの!?」
俺は事情を説明すると美桜は苦笑いした。どうやら美桜も俺と同じで、今日をとても楽しみにしていてくれたようで随分と早く来てしまったようだ。美桜は少しだけ頬を赤く染めながら右手を差し出す。
「ふふっ。ちょっと早いけど、行こっか!」
「ああ!」
俺も当たり前のように左手を差し出して恋人繋ぎをする。ほぼ毎日手を繋いで投稿しているので、手を繋ぐくらいではかつて出た身体の拒否反応は最近出なくなっていた。
デートの行き先は最近出来た神奈川県の犬猫と触れ合える「ワンニャン楽園」。かつて滋賀県に存在した「琵琶湖わんわん王国」の犬猫版と言ったら分かりやすいだろうか。場所の候補は他にもあったが、美桜は犬猫といった小動物が大好き(特に猫)なのでここにした。
電車で約50分。幸いにも人が思ったより少なく二人共席に座る事ができた。10分くらいは着いたらまず何をしようかと話し合っていたが、どうにも美桜が眠そうな目をしている事に気づく。
「まだ30分以上あるし寝てていいぞ?」
「ふわあ‥ごめんね。昨日楽しみすぎてあんまり眠れなくて‥」
「可愛いなとしか言いようがないわ」
「‥‥バカ」
そう言うと、美桜は俺の肩に寄りかかってスヤスヤと眠りについた。途端に俺の心臓の鼓動が早くなり、動悸がしてくる。好きな子に寄りかかられてドキドキしているという事も勿論あるが、それにしては痛みもあり例の拒否症状が出てきてしまったようだ。
美桜が寝始めてまだ数分しか経っていないが、その間にも俺の身体はどんどん苦しくなっていった。だが俺はそんな自分の身体に構わず、美桜の肩に手を回して抱き寄せる。
「んっ‥大河、大丈夫‥?苦しそうだよ?」
「‥大丈夫」
まだ眠りが浅かったようで、美桜が起きてしまった。
‥ふざけるな。俺は美桜が好きだ。これからもっと触れたい。この手できつく抱きしめたいしキスだってしたい。それなのにこんな訳の分からない理不尽な症状に負けてたまるか。
そう強く念じて美桜を力強く肩を抱くと、だんだんと痛みは引いていった。美桜が心配そうに俺を見つめる。
「た、大河大丈夫?あう‥その‥人が見てるよ?」
「ごめん。もう大丈夫になった。俺、絶対離さないから」
美桜が驚いたように見つめたが、すぐに幸せそうに微笑んだ後「‥‥あったかい」と言ってまた目を閉じた。俺はそんな彼女の肩を今度は優しく抱く。周囲の視線が痛いが、今だけはこのバカップルぶりを許して欲しい。
今後も美桜と触れ合えば今みたいな拒否反応が出るだろう。だけど山場を超えれば何とか抑えられる事に気づく事が出来た事は収穫だった。これくらいの痛みで、美桜と触れ合えるなら安いもんだ。
問題は耐えられないくらいの拒否反応が出た時だが、今はそんな事は考えずにデートを楽しむ事だけ考えようと思う。
目的の駅に着いたので美桜を軽く叩いて起こす。もっとゆっくり寝かせてあげたいが仕方ない。寝ぼけながら上目遣いで俺を見る姿も愛おしい。
「眠気、ちょっとはマシになったか?」
「うん、バッチリ!大河と触れ合うとすごく気持ちよくてすぐに眠れちゃうみたい。‥これから毎晩抱き枕にしていい?」
まだ寝ぼけているのだろうか、電車で周りに人がいる中で、それなりに大きな声でイタズラっぽく言う美桜。
「ちょ‥こんな所で何言って‥」
周りが、特に男性が俺を今にも呪い殺しそうに見ている事に気づき、美桜もようやく自分の言った事を認識したのか顔が真っ赤になって今にも爆発しそうだ。
俺は慌てて美桜の手を引いてホームに降りた。
そのまま駅を離れて、ワンニャン楽園への道を歩く途中で美桜が消え入りそうな声で呟く。両手で顔を隠すもまだ耳まで真っ赤っ赤だ。
「‥‥ごめんね?私ったらはしたない‥‥」
「ぜ、全然!美桜の抱き枕なら俺はいつでも大歓迎だし!可愛かったぞ?ただ、場所は弁えような?」
公共の場で彼女の肩を抱くような奴が何言ってんだと我ながら思う。
「‥もうっ!知らないっ!」
ズンズンと一人で前に言ってしまう彼女を怒らせたかと思い慌てて追いかけるが、振り返った美桜は釘付けになる程の笑顔だった。




