第17話 狂気の波紋
元気にしてたかだと?コイツは何故こんなに平気な顔をして俺に話しかけてこられるんだ?
反省していたどころか、こちらの神経を逆撫でするような凛人の言葉で、握る拳にまた力が入る。
勿論今日まで凛人と麗奈に対する憎しみを忘れていた訳ではない。忘れられる訳がない。
だがこの一週間美桜や柚希、等々力や美羽さん達‥色々な人達と会話をした事で考える時間が減っていた事が事実だ。
それなのに今、再び二人が前に現れた事で憎しみが沸々と蘇る。
「大河!とりあえず暴力はダメだよ!!ね?私も我慢するから!!!」
美桜に抱き抱えられ、俺は凛人にもう一度掴みかかろうとしていた手を止めた。抱き抱えられた腕には、女子の物とは思えない程の力が込められており少し我に帰る。
自分が情けない。美桜だって我慢してるんだ。ここで俺が怒りに我を忘れて殴ったりでもしたら全部凛人の思うツボじゃないか‥。
「ちょ‥待って!?八神、いきなりどうしたん!?美桜も!みんなもや!!」
何も事情を知らない等々力は目を白黒させている。今は誰にも彼女の言葉は耳に届かない。この場にいる二人を除く全員が凛人の次の一挙一同に注目していた。
「なんだ?つまらん。もっと何も考えずに殴りかかってくると思ったんだがな。麗奈、お前も突っ立ってないで早く席に座れ。そんなに怯えなくても大丈夫だ。どうせコイツらはいい子ちゃんだから何にも出来ない」
「う、うん。」
コイツの言葉一つ一つが俺の神経を逆撫でしていく。コレが‥こんなのが親友だと思っていた男の本性なのか?
俺の知っている頼れる誰にでも優しい凛人等もういない。こんなの最低のクソ野郎だ‥!
凛人は悪びれもせず、堂々と歩き自分の席に座った。
その瞬間後ろの席の男子が凛人の席を思いっきり蹴り込み髪の毛を勢いよく掴み上げた。
そしてそのまま凛人の頭を机の上に勢いよく叩き込む。
同じクラスにいながら、名前もすぐには思い出せないその男子の顔は狂気に満ちていた。その男子はいつも決して目立とうとせず、クラスの誰とも決して関わろうとしない大人しい性格だった筈。
「おいおい!!流石にやべえって!!」
「きゃあああああ‥!!須藤くん!?
須藤という男子の思いがけない行動にクラス中がどよめく。
「ああ、やっと登校してくれた。待っていた‥待ち侘びていたよ。このまま退学なんかされたら僕はもう自分の事が許せないでいた‥。今度は君たちが裁きを受ける番なのに退学なんてつまらないよ。‥皆もそう思うだろ?最初から僕はおかしいと思っていたんだよ。だって桜木さんという崇高な存在
がいながら、僕の知る優しい八神くんがあんな事するわけない。でもあの時は言えなかった。僕の言う事なんて誰も聞いてくれないと思ったから‥‥!」
美桜が崇高な存在?僕の知る優しい八神くん??
この男は一体何を言ってるんだろう。よく俺と美桜を知っているような口ぶりだが特に今まで関わりなんてなかったハズ。
須藤‥といったか?記憶を辿ってみても聞き覚えがない。
「でも僕はもう逃げない!!優しい八神くん達の代わりにコイツと斎藤を陰湿に、執拗にジワジワと追い詰めてあげるよ。ふふっ、僕はそういうのには詳しいんだ。どうせ優しい八神くんたちは復讐なんて考えてなかっただろうからね‥」
復讐‥当然考えた事もある。だが詩音の事で警察に話せない以上‥校長をどうにかできない以上俺一人で出来る事など何もないと諦めていた。
凛人と麗奈はどうしても許す事が出来ない存在だ。‥正直に話せば、須藤の口から復讐の言葉を聞いて身体が歓喜に震えている。
だがそれでもこれだけは言える。コレは俺の問題だ。他人にそんな事してもらうのは絶対に間違ってる。
「正直コイツらの事は今すぐぶん殴りたいくらい憎いよ‥。だけどよく知りもしないお前にそんな事してもらう義理はないとし、代わりに誰かに復讐してもらおうなんて俺は考えてない。俺の為にそんな事しなくていい!」
「‥やっぱり僕のことを覚えてないみたいだね‥。でも君がどう思おうがもう関係ないんだ。ねえ?ここにいる皆はどうなんだ?このままこの罪人二人を調子に乗らせたまま、クラスにいさせて本当にいいの??」
苦悶の表情で顔を上げた凛人の顔には珍しく汗が流れており、教室の隅で震える麗奈の顔がより一層絶望の色に染まる。
「‥麗奈は俺が利用していただけだ。全部俺が--」
珍しく焦った顔で凛人が麗奈を庇う。もしかしたら、今日の凛人の態度も憎悪を自分だけに向けさせようとしていたのかもしれない。
「知るもんかそんな事!!実行した時点で同罪なんだよ!!王子様気取りも大概にしてくれないかな?どうせあの小ちゃな女の子の証言がなければ君らは真実を言う気もなかったのだろう?平然と何の罪もない八神くんを嵌めて自分達はのほほんと‥許せないよ‥許してなるものか!!」
須東がそう言った後、俺は彼の目から涙が溢れ落ちるのを見た。
何で俺の為に怒ってくれているんだろう。
俺が言いたかった事を代わりに言わせてしまっているんだろう。
どうして知らない筈の彼が俺の為に泣いてくれてるんだろう。
状況は全くわからない。頭は混乱するばかりだ。だが彼が俺の為に必死になっている事だけは分かる。
そこまで俺を想ってくれているのに、俺は彼の事をいまだに思い出せない。
須藤の言葉に俺も‥皆も息を呑んで異様な空気になる中、真田が誰よりも先に興奮気味に話し出した。
「‥そうだっ、そうだよな!みんなで徹底的追い出そうぜ!俺はコイツらのせいでダチ一人失ったんだ‥っ!その権利がある!」
「そ、そうよ!私だって八神くんにも美桜にも辛く当たっちゃったしっ‥。この二人さえあんな事しなければ皆仲良くできていたのに!私も毎日こんなに罪悪感を抱かなくて済んだのに!」
一人、また一人と俺や美桜と親交の深かったクラスメイトがまるで思いの丈をぶちまけるかのように発言していく。
雰囲気に呑まれたのか、正義感に目覚めたのか分からないが大して親交のなかった者までもが須藤の意見に賛同し始める。
気づけば藍沢と彼女の友達以外の全員が参加していた。
教室はもはや混沌と化している。俺や美桜、等々力が落ち着いてくれと叫ぶが、誰も聞く耳を持たない。
そんな中誰か一人が帰れと言ったのを皮切りに、教室は帰れコールの大合唱となった。
何だよこれ‥‥。
俺一人なんかクラスの連中にとっちゃどうでもいい筈だろ?話もろくに聞かず簡単に切り捨てられる存在だった筈だ。
何でこんな事になってんだ?
初めに浮かんだ感情は‥『恐怖』だ。ざまあみろ、という感情でもなく、ましてや感謝でもない。
人がここまで見事に手のひらを返していく様を見て、強い恐怖を感じていた。美桜も俺と同じなのか、俺を抱き止めていた身体は微かに震えている。
「何やねんこれ‥うちのクラス一体どうなってんねん‥っ!!何で誰も止めへんの!?こんなん絶対おかしいって!なあ八神!美桜!何か知ってるんやろ!?」
等々力が俺と美桜の身体を激しく揺さぶった事で、現実に引き戻される。
そうだな‥。この状況で等々力に何も説明しないというのは無理だ。
その後帰れコールは一限目が始まる頃まで続いたが、凛人と麗奈は顔を歪めるだけで帰る事はなかった。
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