第16話 あの二人の再登校
休み明け、俺はいつも通り美桜と登校していた。少しでも気を緩めると未だ謎の手の震えがおきそうになる為、手は繋いでいない。美桜に余計な心配をかけたくない為、やっぱりみんなに見られて恥ずかしいからという事で、渋々彼女は納得してくれた。
土曜日曜はなるべく家族と顔を合わせないように、自室に引きこもりながら過ごした。詩音と紬も無理に俺に話しかけてこないようになり、ふいに鉢合わせしても目を伏せて気まずそうにするだけになった。
二人からの謝罪を拒絶したのだから当然だろう。問題は母さんだ。俺たちがこうなる事で、かなり気を遣わせてしまっている。空元気させてしまっている事が分かるし、最近ではふざけたりする事もめっきり減ってしまった。毎日仕事で疲れている中で、家の中でまでストレスを貯めさせてしまっている状況で非常に申し訳ない。
母さんの負担を軽くするにはどうするべきか‥‥。バイトでもするか?
そんな事を考えながら、歩いていた時頬をギュッとつねられた。ふと隣を見るといかにもご機嫌斜めな様子の美桜が。
「もうっ。また一人で上の空になってる‥。何か抱えてるなら私に話してみて?何でも聞いてあげるから。やっぱり家庭の事?」
「ああ、ごめんな。まあ‥うん。ちょっとな。でも大丈夫だから。ありがとう美桜」
これ以上美桜に心配をかけたくない。これまで彼女に散々助けてもらった俺はそれ以上言う事を躊躇ってしまう。
「私には心配かけていいのに‥全部話して欲しいのに‥‥」
「ん?ごめんまた聞いてなかった。今なんて?」
「なんでもないよ!バカ!」
少しだけ怒った様子の美桜がどんどん早歩きで先を行ってしまった為俺も急いで後を追う。
結局教室に入るまで口を聞いてもらえなかったが、既に教室にいた等々力を見つけると美桜はさっきまでが嘘のように笑顔になった。
どうやら本気で怒っていた訳じゃないみたいで、俺も安心して軽く挨拶をして席に着く。
冤罪が証明された最初の方こそ、俺が教室に入るとクラスの連中はわざとらしく静まり返っていたが、今はもう俺と目が合うと顔を伏せるだけになっていた。最初に明確に拒絶した事がよかったようだ。
学校に来てそうそう眠そうに船を漕いでいた等々力が、俺たちを見た途端にパァっと明るい顔になる。
「美桜美桜!昨日八神めっちゃかっこよかったんやで!私がヤンキーに襲われそうになった所を助けてくれてな?そんでそんで--」
美桜に昨日の事を嬉しそうに話す等々力を見て、少し安心している自分がいる。
コイツはやっぱり元気一杯の方がしっくり来る。
完全にいつもの調子に戻っており、前の帰り道の時のようなしおらしい態度の等々力はもういないようだ。
「えええ!?そんな事があったの!?よかったああ茜ちゃん無事で!!!てか大河‥何でそんな大事な事朝に言ってくれなかったの!?」
等々力に抱きつく美桜にそう言われて、黙ってしまう。確かに‥。教室に来るまであんな大事件の事を頭から忘れてしまうほど、家族の事で上の空だったみたいだ。
嬉しそうに俺を褒め倒す等々力を見て、さっきまで心底等々力の無事を安堵していた美桜が何故か徐々に怖い顔になっていく。
いや‥一見満面の笑顔なのだが、何故かめちゃめちゃ怖い。そう感じたのは等々力も同じのようだ。
「ひいっ!美桜!?何でそんな顔怖なったん!?」
「べっつにぃ〜‥そんな事ないよ?私はいつも笑顔だよ?でもちょびっとだけ茜ちゃんが大河の事を話す時頬を赤らめるのが気になっちゃって‥」
「いやいや!気のせいやで!?私はそんなチョロい女やないで!」
「そうなの?ならいいんだけどね??ふふふ、冗談だよ。ともかく茜ちゃんが無事で、本当によかった‥」
美桜がもう一度笑顔で抱きつくが、等々力はガタガタと身体を震わせていた。
なんだろう、美桜の怖い一面を見た気がする。まあそれだけ愛されてると感じ嬉しくもあるのだが‥うん、美桜の事はあまり怒らせないでおこう。
と、その時いきなり教室がザワザワし始めた。
「なんや?おお、何かモデルさんみたいな二人やな〜」
‥‥その言葉で俺の心臓が激しく鼓動し始める。
何も知らない為呑気にそんな事を言い始める等々力と違い、クラス中が殺気に包まれた。
「おい‥マジかよ‥。一体どの面下げて学校に来てんだよ‥テメエらっ!!
真田のその一言で教室の入り口を見た。その姿を見た途端身体の底からドス黒い感情が溢れ出し、動悸がまた激しくなっていく。
まるで何事も無かったように涼しい顔をした霧島凛人‥随分げっそりと正気を失ったかのように見える斎藤麗奈が、そこにいた。
「大河、久しぶり!元気だったか?」
「凛人‥‥お前なあっ!!!」
気づけば、俺は怒りのあまりに凛人に駆け寄り拳を振り上げていた。が、寸前の所で理性が働き手を止める。
「おいおい、どうしたんだよいきなり。俺たち親友だろ??まあ落ち着けよ」




