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第15話 漢の熱い抱擁。いじらしくなった茜

 俺達二人を守ってくれた漢は展開していた筋肉を収縮し、笑顔でこちらまで歩いてきた。


 向こうを見渡せるようになった事で分かったが、ヤンキー達はもう可哀想な程にボロボロだ。対してお兄さんはかすり傷一つ負っていない。


「お兄ちゃん‥!!ごめんなあ‥!!でも、なんで私らがピンチって分かったん??」


 等々力がお兄さんに駆け寄ると、とても優しい表情でお兄さんは頭を軽く撫でた。


「もう大丈夫だ。遅くなってすまん。いや、こっちで出来た友から弟が輩に絡まれたとの連絡があってな。警察は呼んだそうだが、話を聞いていたら、その弟を助けてくれたという女子の特徴がお前と一致してもしやと思い飛んできたという訳だ。万が一の事があっては遅いからな」


 どうやら、偶然にも助けた男子の兄と等々力のお兄さんが知り合いだったようだ。相当等々力のお兄さんは頼られているみたいだな。


 凄い偶然だが‥本当に大事にならなくてよかった。等々力がお兄さんに何が起こったのかを説明する。兄妹でほのぼのとした雰囲気の中で話しかける事に若干尻込みしてしまうが、まずはちゃんと助けて貰った事にお礼を言う事にする。


「あの‥助けてくれてありがとうございます!!等々力のお兄さんでいいんですよね?本当に助かりました‥!でも奴ら本当に死んだりはしてないですよね‥?」

「お前も無事で何よりッ!勿論だッ。死んで『は』いない。起きた時には激痛が走るが誰に何をやられたかの記憶もない。しかしもう悪さが出来なくなる程度の本能的なトラウマを奴らに植え付けておいた。これでもう奴らから誰も被害を受ける事はないだろう」


 よく分からんが、お兄さんなりの解決をしたみたいで安心‥していいのか?何にせよ、等々力が酷い目に遭わないで、もうあの連中から誰も被害に遭わないのならそれでいいんだが。


「それはそうと‥お前、名は?」

「や、八神‥大河です。等々力とは、その‥クラスメイトです」

「そうか‥お前が‥」


 名前を言った瞬間お兄さんが両手を広げた。凄く真剣な顔だ。やばい、俺何かマズイ事でも言ったか?


 一瞬何をされるかと身構えたものの、気づけば俺はお兄さんにガッシリと抱擁されていた。筋肉がゴツゴツしているが全く痛みはない。むしろその抱擁には優しさが感じられた。


「等々力龍二郎だ‥。我が妹を助けてくれた事、最大限感謝するッ!!これからも茜の事をよろしく頼むぞッ!!我が心の友よッ!!」


 凄えむさ苦しい‥いや、今はそんな野暮な事は言わないでおくか。それにしても、等々力家は兄妹もろともやけに距離が近いな。すぐに友達になりたがろうとするし。


 きっと本当に二人とも真っ直ぐで情に厚くて、信頼できる人たちなんだろう。二人とも裏切りとは無縁のように思う。この二人なら信頼しても大丈夫なんだろうな、と正直に言えば感じるのは事実だ。


 それでもまだ、自分の中の裏切りに対する恐怖だけは簡単に拭えるもんではない。今日こんな事があってもまだ大切な人は美桜や柚希‥そして母さんだけで十分だと思っている薄情な自分がいる。


 一人や二人心から信用する人が増えたとて、何の問題もないと他人からすればきっと思うだろう。その意見には俺も同意する。だがもう少し見極める時間が欲しい。


 今ですら確かに自分が狂い始めているのに、次に大切な人に裏切られて今以上に歪んでしまわない自信がないから。


 龍二郎さんの抱擁が終わり、今度はおそるおそると言った表情で妹の方が俺の方へ来た。凄く言いにくそうに等々力が言葉を紡ぐ。


「八神ぃ‥‥ほんまにごめんな‥‥?私のせいで八神まで危険な目に遭わせて‥‥ほんまにごめんな‥‥?」


 涙をポロポロと流して、いつものおふざけ一切無しの謝罪に俺は言葉を失う。こういう時、なんて言ったらいいのか俺にはわからない。だから無言で脳天に少し強めのチョップをしておいた。


「あいだっ‥!」

「本当にごめんだよ。勝手に危ない行動しやがって‥。でも俺もさっきはすまん。少し言いすぎた」

「ぐす‥‥。じゃあ友達じゃないっていうのは?」

「友達ではねえよ」


 反射的に言ってはみたが、いつものノリでツッコミが帰ってこない。今回ばかりは本気で応えているようだ。まあこれで、少しはおとなしくなってくれたらそれでいいか。


 そんな俺達の様子を、龍次郎さんが微笑ましげに見ている。


「茜‥。早くも漢を見つけたなッ」

「うん‥‥。お兄ちゃん‥‥」


 男?俺は確かに男だけど。龍次郎さんは一体何を言ってるんだ?等々力も泣きながらも少し微笑んでる気がするし、全く意味がわからない。


「お前たち二人は先に行けッ!そこで寝ている漢の風上にも置けぬ奴らは我が責任を待ってゴミ箱に捨ててくる。後は全て我に任せておけッ!!」


 色々大丈夫なのか?警察とか諸々‥。まあ存在がフィクションみたいな人だから、龍次郎さんが大丈夫と言えば大丈夫なのだろう。まあ呼び出しを食らったとしても、俺と等々力は手も出していないし完全に被害者だ。何もやましい事はない。


 お言葉に甘えて龍次郎さんに全てを任せ、等々力と二人で歩く。いつもうるさい奴がやけに静かなので、何だか調子が狂う。


 チラチラとコチラを伺うように見る等々力に気付いてはいるものの、あんな事があった後なので二人とも無言で歩く時間が長時間続く。


 かなり歩いてきた所で、等々力が立ち止まった。


「ここ、私の家‥‥」

「そうか‥‥んじゃあまた明日」

「うん‥‥。また明日‥‥。あの、今日はめっちゃかっこよかったわ。その‥‥ありがとう」


 何だ気持ち悪い。鳥肌が立った。


「何だ気持ち悪い。鳥肌が立った」

「!?!?!?」

「ああ、すまんすまん。思った事口に出てたわ」

「酷ない!?私としては、めっちゃしおらしく可愛らしく言ったつもりなんやけど!?」

「ん?どういうつもりだ?俺彼女いるぞ?」

「天然か!別にそういうつもりちゃうわ!感謝の気持ち伝えたかっただけや!色々迷惑かけたから、ちょっと遠慮しただけやわ!!」


 ハアハアと息を切らす等々力に思わずプッと吹き出してしまうが、すぐに俺は表情を引き締める。


「あー!今初めて私の前で笑った!!」

「笑ってない」


 笑った笑ったとうるさい等々力を、また軽めのチョップで黙らせておいた。


 まあ、うん。アレだ。元気そうでよかった。


「じゃあ‥そういうことで。あまり気に病むなよ?色々と。そんな顔されたらこっちの調子が狂う」


 俺は適当に手を振って歩き出す。後ろからは小声で「そんなんずるいわ‥‥」と聞こえた。


 今日は本当に散々な目に遭ったな。


 帰る途中、ふと等々力に触れても美桜と手を繋いだ時やハグした時に顕れた震えや発作が出ない事に気づいた。それに、よく思い出してみたら柚希に腕を組まれた時もだ。


 俺が好きなのは美桜。これだけは間違いない。心から愛している。なのに何故美桜と触れ合う時だけに発作が?


 帰る途中、ずっと考えたが答えは見つからなかった。


 


 

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[一言] 結局裏でいじめとかあったの知らないしどうすんだろうなぁ恋人
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