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第2.5-1話 桜木美桜の心境(1)

 一体誰がこんな事になると予想出来ただろう。


 今、私の頭の中は簡単に修復出来ないくらいぐちゃぐちゃだ。


 きっと、今日は私にとって最高の一日になるんだろうなって思ってた。


 大河とはほとんど毎日会って、毎日お喋りしていたけど今日は彼と恋人になって初めて登校した日。


 大河は昨日10年私を想い続けてくれてたって言ってくれたよね?


 私だってそうだよ?まだ恥ずかしくて直接伝えられてないけど同じくらいずっと想ってたよ?


 だから昨日は突然で驚いたけど、本当に‥本当に大河の言葉が嬉しかった。家に帰って自分の部屋で1人きりになると、想いが溢れて嬉しくて泣いてしまった程だ。


 それだけに私にとって今日はどれだけ特別な日だったか。


 だって大好きな人と恋人になって‥初めて新鮮な気持ちで会う日なのだから。


 教室に来るまでは最高に幸せな気分だったんだよ?


 いつもより甘い雰囲気で、少しでも可愛く見られたくて私も精一杯ぶりっ子してみたり。隣で上の空でニヤついてる大河をからかってみたり。


 子供の頃は当たり前のように手を繋いでいたけれど、大人に近づいてから彼の手を握ったのなんて久しぶりで‥。登校中はドキドキしっぱなしだった。


 学校についた後は、いつ皆に私達の事を話そうって考えてたらドアを開いた瞬間、仲良しの凛人が出迎えてくれて‥。


 クラスの皆もなんやかんやで私達を祝福してれて‥。


 それがとっても何だか嬉しくて‥。


 ああ、私達の幸せはこれから始まるんだなあ‥って。


 10年もお互い待ってたんだから少しくらい有頂天になっても神様は許してくれるよね?そんな事を思いながら幸せを噛み締めてた。


 なのに‥


『「昨日、私を襲おうとした癖に!!!友達だと思ってたのに‥この性犯罪者っ!!!!」』


 麗奈ちゃん?何を言ってるの?性犯罪者って誰?まさか大河じゃないよね?


 大河はそんな事しない。私がそんな事1番良く知ってる。ずっと誰よりも近くで彼の事を見ていたんだから。


『「とぼけないでよ!!昨日の放課後私を襲おうとした癖に!!スマフォの動画で撮って脅して私に逆らえないようにした癖に」』


 何言ってるの麗奈ちゃん?昨日の放課後、大河は私とずっと一緒だったよ?? 隣で部活して、一緒に教室に戻って、一緒に帰ったんだよ??


 それに彼がそんな酷い事が出来る訳ないじゃない!!


 私が何か言わなくちゃ‥。言って大河を守ってあげないといけないのに‥っ!!怖くて声が掠れて出ないよ‥


 クラス中から一斉に視線を向けられて、何だかとてつもない悪意を大河と私にぶつけられてる気がして‥。


 心の弱い私はただ震えて大河の後ろに隠れて制服を握る事しか出来なかった。


『「‥スマフォで動画を撮ったんならまだ動画残ってるんじゃないか??」』


 その時だった。凛人が大河に助け舟を出してくれたのは。本当は私が大好きな彼を助けてあげなくちゃならないのに‥。自分自身の弱さが情けなくて仕方ないけれど、今は凛人の優しさに感謝しなければ。


 そうだ‥!大河は昨日鞄を教室に忘れて帰ったんだ。ずっと私と一緒だった。だから麗奈ちゃんの言うような動画を取れる筈はない。これは最初から分かってた。


 そして‥もしそんな動画が入っていたとしたら‥大河を誰かが罠に嵌めたんだ‥。


 あまりに突然に色々な事が起きすぎて混乱している私でも流石にそれくらいは分かる。


 だとすれば麗奈ちゃんは大河にどんな恨みがあるの?それに動画を撮ってる人も間違いなく大河を恨んでる。


 どちらにしても、私だけは大河の味方であろう。


 そしてもしそんな動画があったとしたら、今度こそ私が「大河は昨日ずっと私と一緒にいた」と声を挙げよう。


 なんとも言えない異様な空気がクラスが包む中、動画の確認を任された委員長の立花さんがスマフォを開く。


 いきなりこんな大役を任された彼女は正直気の毒だ。小柄ながら真面目でしっかり者の彼女でさえ手が震えてしまっている。


 当たり前だ‥。私なら逃げ出してしまうような状況。


 息を呑んで彼女を見守る私。でも大丈夫。


 今度こそ、何を言われても大河を守るから‥っ!


『「服がはだけて泣いている斎藤さんを‥その‥押し倒そうとして斎藤さんが逃げて‥。その他にもたくさんの斎藤さんとえ、えっちな事をしている動画が保存されています‥‥。斎藤さんの言葉から催促すると2人は元々付き合っていたみたいです‥‥。」』


 え?


 え??


 『2人は元々付き合っていた』???

 

 『えっちな事をしている動画がたくさん』????


 その言葉を聞いた瞬間頭がふわっとなって全身の力が抜けていったのがわかる。まるで自分の体じゃないみたいに力が全く入らない。


 なのにその言葉だけは私の脳内を一瞬で支配する。


 え?大河はずっと私の事想ってくれてたんだよね?10年の片思いって嘘だったの?私達10年間お互いに片思いだと勘違いしてたんじゃないの?

 

 待ってやばいやばいやばい今はそんな所じゃない。落ち着け私。


 麗奈ちゃんを襲ったという動画もあるって立花さんは言ってた。という事は大河を誰かが罠に嵌めてるのは確実。


 まずはその事はここではっきりと言わないと‥っ!


 さっき誓ったじゃないか‥っ。私が今度こそ大河を守るって‥。ここで私が守らなければどうするんだ‥っ!!


 早く何か動かないと‥なのに‥なのに‥。


 麗奈ちゃんと付き合ってたという嘘か本当かも分からない言葉が酷くショックで‥‥その場で泣き崩れる事しかできない。


 昨日の言葉は嘘だったの?


 私とはまだ手しか繋いでないのに麗奈ちゃんとはあんな事やこんな事までしたの?


 ああ‥ほんと最低‥私。こんな時でもそんなくだらない「嫉妬」で動けなくなっちゃうんだ‥。


 動画の内容を聞いて大河こそが悪だと確信したクラスの皆が一斉に彼に帰れとまくしたてる。


 おぼつかない足取りで近づいてきた大河は、いつもの優しい顔を悲しげに歪めて縋るように私を見た。


 そんな彼を前にして‥私はただ嗚咽しながら泣く事しかできなかった。


 泣いている私を見た彼の顔を、私は一生忘れる事ができないだろう。


 大好きな人を、私は大事な場面で守ってあげられなかった‥。


 本当は今すぐ震える身体を抱きしめてあげたい。なのに‥なのに今の弱い私にはそれができない。


 大河がふらつきながら教室を出ていく。


 その姿を見てとうとう立てなくなった私は、そのまま教室にしゃがみ込んだ。

 

 

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