第12話 どうする大河!?カツアゲに遭遇‥‥
等々力が転入してきてから三日目の放課後、何故か俺は彼女と二人っきりで買い物に付き合わされていた。しかも学校とは正反対の、美羽さんの店がある方のあまり治安がよろしくない地域の店まで来ている。
目を輝かせて頻りに話しかけてくる等々力とは対照的に、俺はげんなりしながら適当に相槌を打つ。何でも好きなアニメの限定フィギュアが、ここら辺ではこの店しか売っていないらしく物凄いご機嫌な様子。ただでさえアレなのに、今日はいつにも増して子供っぽさが際立っている。休日に娘を店に連れて来た父親な気分になりながら、等々力が目当ての物を早く購入するのを待つ。
もう他人と関わらないようにした筈のお前がどうして一緒に店までって?頼みの美桜は、部活で一緒に買い物に行く事が出来ない。等々力にはまだ他に友達がいないからと、恋人である美桜に頼まれたら断れる訳がないだろ?
それに一瞬断ろうとした雰囲気を出したら、等々力も涙目になるし‥。なんとなく、子供を泣かせるみたいな罪悪感が生まれて今に至る。
‥‥我ながら情けない。根本的なお人よしな性格は中々簡単には治らないようだ。まあ、善人に対してだけなんだが。
支払いを済ませた等々力が笑顔で駆け寄って来たので、用事も済んだし帰る事にした。
「ほら!見て見て?烈火ちゃんの限定フィギュア!ほんま可愛いくてかっこよくて私の憧れやねん!!第7話でヤンキーにいじめられてた男の子を助けた時なんかさあ--」
「あーはいはい、さいですか‥‥。まあ、嬉しそうで何よりです‥‥。」
話によると、烈火ちゃんというのは「弱きを助け強きを挫く」のお手本のようなキャラのようで、漢女を目指す等々力にとっての憧れの女性のようだ。
俺もアニメは好きなのだが、烈火ちゃんというキャラに聞き覚えはなく、タイトルを聞いても全くピンとこない。おそらく大分昔に放送されたマイナーなアニメなのだろう。
「反応薄っ!?聞いてる!?てかなんでそんな面倒くさそうやねん!!話していて生気が微塵も感じられへんねんけど!?」
「いやいや聞いてるぞー。うん、聞いてる聞いてる。なんていうか、凄いんだよな。うん、烈火ちゃんはそこはかとなく凄いと思うぞ?よくわからんけど、うん」
「この上なく適当!!!」
そんな事言われても仕方がない。結構自宅から遠い所まで来てしまった為帰るのにまあまあ時間がかかる。等々力のテンションにいちいち付き合っていると身体が持ちそうにないのだ。
不満そうに頬をふくらませながら文句を言う等々力を連れて、少し歩いた所で何やら恫喝するような物騒な声が聞こえてきた。困ったな。帰るにはこの道しかないんだが‥‥。
「なあ?なんかやばそうちゃう?八神、行くで!」
「な、ちょ、待てって‥!」
走る等々力を追いかけていくと、三人のいかにも素行の悪そうなヤンキー風の三人が一人の気弱そうな男子を囲んでいる最中だった。
「おいテメエ?俺にぶつかっといて謝るだけで済むと思ってんのか?誠意見せろや、誠意をよ?」
「ご、ごめんなさい!ぼ、僕お金もってなくて‥勘弁してください!」
「馬鹿野郎!持ってなかったらテメエの親にでも誰でも頼んで金作ってこいや!!」
‥‥非常に面倒臭い場面に出くわしてしまったようだ。
リーダー格と思わしき金髪オールバックのガタイのいい男が、泣きそうな男子の胸ぐらを掴む。取り巻きの2人は手出しこそしないもののヘラヘラと笑って男子が怯えるのを愉しんでいるようだった。通行人も非常に少なく、僅かな通行人も皆関わりたくないとばかりに足早に過ぎ去っていく。警察に通報する素振りもない。
穏やかじゃないな。だが生憎俺は生まれてこの方喧嘩なんかした事もなく、そもそも見ず知らずの他人を助けようなどとの善性ももう持ち合わせてはいない。流石に警察を呼ぶくらいはしてやるか、と携帯を取り出した時ふと等々力が側にいない事に気づいた。まさか‥‥。
「おい、その手をはよ離せ!嫌がってるやろ!カツアゲなんてお天道様が許してもこの等々力茜が許さへんで!!」
あんの馬鹿野郎‥‥!
「おい、等々力!!」
「大丈夫や!八神!私はお兄ちゃんの妹やで?手は出さん。警察が来るまで時間稼ぐだけや!」
「あぁん?何だお前ら‥‥。ん?お前凄え可愛い顔してんじゃねえか。しかも凄えイイ身体だな。なあ、お前俺の女にならねえか?そんな彼氏なんかさっさと捨てちまってよ」
「あ、ずるいっすよ兄貴!俺にも貸して下さい」
「何言ってんだテメエ!俺だよ!ですよね兄貴?」
反吐が出るような会話だ。等々力とは何の関係でもないが、それを置いても同じ男として気分が悪い。
等々力は全く怯む様子を見せない。会った時から俺の目が怖いだの何だのいつもビビリな印象があった彼女の意外な姿に俺は少し驚いてしまう。
「へへっ、こりゃあ愉しめそうだ。今日はツいてるなあ?こんな糞雑魚なカモはもうどうでもいい。‥おい、お前俺の女になる気になったか?」
「アホ、誰がお前なんかの女になるか!男子!今のうちに早う逃げて警察呼んでや!八神も!!私は大丈夫やから早うこっから逃げて!!」
ヤンキーから解放された男子が一目散に逃げていく。
「あ、ありがとうございます!ぼ、僕すぐに警察を呼んできますね!絶対に戻るので、待ってて下さい」
余程怖い思いをしたのだろう。男子は携帯を取り出し、全速力で逃げるように走っていった。
‥‥俺は、どうする?
‥‥そんなもの決まってる。どうでもいい筈だ。逃げていい筈だ。こんなもん勝手に等々力が面倒事に突っ込んでいっただけ。警察を呼ぶだけでよかった筈なんだ。
あの男子は警察を呼んでくると言っていた。かなり必死だったし、窮地を助けて貰った恩もある。言葉に嘘はないだろう。
‥‥ならば、俺に今出来る事はない。下手に正義感を持って首を突っ込んだ所でサンドバッグにされて終わりだ。
俺は等々力の言う通り、起こっている事に目を背け歩き始めた。ヤンキー達は等々力に夢中だ。誰も俺なんかを追ってこようとする奴ら等いない。重い足取りの中、少し歩いた所で、後ろから鈍い音がした。
「兄貴、この女めちゃくちゃ強いですよ!全然捕まりません!」
「あ、兄貴!俺達だけじゃ無理そうです!手を貸して下さい!」
よかった‥‥。等々力は本当に強いみたいだ。悔しいがアイツが無事な事に安堵している自分がいる。
等々力なら大丈夫だろうと安心して俺もこの場から離れようと進み出したその時、後ろから等々力の焦る声が聞こえてきた。
「い、嫌や!離せええ!汚い手で触んな!!」
「ふっ、強えは強えが所詮は女ぁ!この俺から逃げ切ろうなんざ百年早いんだよ!」
俺の足が止まる。等々力とは知り合ってまだ一週間も経ってない。友達ももう要らないと決めた。だが先程のヤンキー共の下品な笑みを思い出し、その先の最悪の事態を想像してしまう。
もし何もしないで等々力が酷い事をされたら‥‥俺は、自分を許せるのか?
「へへへっ、諦めろ。助けは来ないぜ?ここら辺の住民は腑抜けた奴らばかりだ。頼みのお前の彼氏もあの通り逃げる気まんまんだしよ?ハッ、情けない野郎だ。俺らと愉しいコトしようぜ?おい、お前ら。サツが来る前にこの女拉致んぞ」
「ふざけんな!離せ!それに八神は情けなくないわアホぉ!!八神はなあ、私の友達や!!」
馬鹿野郎が‥‥っ。友達じゃねえって言ってるだろ‥‥っ!
その瞬間、何かが俺の中で吹っ切れ全力で来た道を走る。
全くもう、本当に鬱陶しい奴だ。等々力がクズだったなら、何の迷いもなく見捨てられたものを。だが自分がこんなに危ないのに、逃げようとした俺をここまで庇おうとしてくれた奴を誰が見捨てられるというのか。
もうどうにでもなれ‥‥!!
「その馬鹿から手を離せ!!ゲス野郎!!!」
俺は等々力を掴んでいるヤンキーに思いっきりタックルした。




