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第11話 茜宅でのアホな日常

「やっほーたっだいまー!!!お兄ちゃんいるー??お兄ちゃーん??お兄ちゃんどっこにいるのかな?かな??」


 今日は何やかんやで楽しかった。嫉妬しちゃうくらい可愛い美桜と友達になれたし、ちょいちょい馬鹿にしてきて腹立つけど可愛いらしい柚希とも仲良くなれたし、ついでに久しぶりに喋った男子の八神とも私としては仲良くなれたと思ってる。


 ‥やけど!思ってるんやけど!!友達じゃないってアイツ何やねん!ツンデレなんかな?絶対これからアイツの口から私と友達になりたいって言わせたんねん!腹立つわあ!


 まあ今はええわ。そんなん今はどうでもええねん。帰ってきた私にはまずやらなあかん事がある。


「お兄ちゃーん?どこー?可愛い妹が帰ってきたよー?」


 目を血走らせながら兄を探している私は、我ながら側から見たらヤバい人にしか映ってないと思う。手を洗う事すら今は後回しだ。


 お兄ちゃんは現在絶賛無職なので、この時間は大体家にいる筈だ。いつもなら私が帰ってきたら「おかえりッ!」とむさ苦しく迎えてくれるのだが‥‥。


 周りをキョロキョロしながらリビングに近づくにつれ、大きめのいびきが聞こえてきた。私は獲物を狙う獰猛な肉食動物の如く素早い動きでドアを開ける。


 この男‥!!!


 お兄ちゃんはリビングに大の字で呑気に寝ていた。ポテチの残骸を散らばらせて、テレビにはアニメを付けっぱなしで。当たり前のようにパンツ一丁のおまけ付きだ。


 私はそんな我が兄にありったけの憎しみを込めて、助走に入る。狙うは男子の急所。そう、◯玉だ。筋肉の鎧を纏ったかの如く身体にに確実にダメージを入れるにはここしかない。


 気配を察したのか兄が起きて私に気づいた。だが、今更気づいたとてもう遅い。


「おお、妹か‥。すまん寝ていた‥‥ところでお前はどうしてそんな殺意に塗れた目をして助走を!?」

「死ねえええええええええええええ!!糞兄貴いいい!!」

「なっ!?ぐふぉぉぉぉぉぉ◇▽▼□〒∠∇∝ΠδεЖЙсэшю@§☆??!?!」


 流石のお兄ちゃんも不意打ちの◯玉蹴り上げには到底敵うまい。気持ちいいくらいに、私の力の限りを込めた一撃は見事クリーンヒットした。


 声にならない声を上げ、目の前ではパンツ一丁の筋肉ダルマが芋虫のようにうごめいている。当然絵面は最悪の一言に尽きる。


「ぐあああああ‥‥!あかね!?!?一体何を!?!?」

「お兄ちゃんのアホ!お兄ちゃんのせいで、私今日だけで一生分スベッたわ!!頭真っ白になって‥私このまま死ぬんかなって本気で思ったわ!!」

「なんとッ‥!!アレがそんなに駄目だっただとッ!?」


 まさか、と言った顔をするお兄ちゃんに私は息を切らしながら続けて物申す。


「駄目とかちゃうねんもはや!転校早々に自己紹介で辱めを受けたわ!てかそもそもよー考えたらなんでアレで行けると思ったん!?そして何で私はお兄ちゃんの言った事信じたん!?アホなん!?」


 そうや。お兄ちゃんもお兄ちゃんやけど、何にも疑わずにそのまま言われたようにした私もどうかしてた。


「ん?そら茜はアホだぞッ?まあそういう所がお兄ちゃん的には効ポイント--ってんぎゃああ▽◇◎$£※⊆〒^^」

「アホ!!そう言う事言ってるんとちゃうねん!!」


 皆目検討違いな事を言う兄にもう一度金的を叩き込んでしまう。


 のたうち回る姿に少し満足した私は、お兄ちゃんが回復するまで待ってあげる事にする。


「す、すまん妹よッ!これ以上はやめてくれ‥。流石に使い物にならなくなったら困る‥」

「彼女なんて今までもこれからも出来る気配ないのに?」

「ぐ‥。茜ッ‥お兄ちゃんを殺す気かッ!?!?」


 お兄ちゃんは男にはモテるけど、女には一切モテない。てか女性に全くと言っていい程耐性がない。


 ひとしきりお互いに言い合った後、ふたりでどちらからともなく笑い会う。正直に言うと‥てか当然やけど、別に本気で怒ってた訳じゃない。私とお兄ちゃんはいつもこんな感じ。


 ほぼ全回復した様子のお兄ちゃんは、急にいつものキリッとした顔付きになって真剣な眼差しで私を見た。


「それで茜‥。友達はできたのか?」


 真面目にしてたら、こんなふうに普通の優しいお兄ちゃんやのになあ。私も真面目に美桜や柚希、八神という友達が出来た事を話す。


「ふむ、そうかそうか。我としてはその八神と言う奴が気になってしょうがない。お前を漢女に導く事が出来るかどうか‥さて、どんな漢なのか」

「いやいや、まだ会って一日目やから!普通に私は仲良くしたいだけやから!それに目も死んでるし、漢ではないと思う!」

「成る程な‥。『哀しみを背負った者』という訳か。ますます漢としての素質が垣間見えるな。我も一度会ってみねばならん‥‥。」


 自分今カッコいい事言いました感を出しながらどこか遠い目をするお兄ちゃんを私は冷めた目で見る。


 今現在進行形で、さっきからずっと付けっぱなしのアニメの格闘家主人公キャラが同じ事言ってるんやもん。清々しい程に丸パクリやねん。変な影響すぐ受けるやん。


 私がげんなりしていると、いきなりドンドンと玄関のドアを強く叩く音が聞こえてきた。


 ヤバい、また大きい声を出しすぎた。音聞くだけで誰かはもう分かる。絶対お隣のおばちゃんや。チクチク長く説教するタイプで私苦手やねんなあ‥。いや、私らが悪いねんけどな?


「等々力さん!!いつもいつも騒いで良い加減にしてくれませんか!!煩くて私が楽しみにしてるドラマの再放送が聞こえないのよ!!ねえ?いるんでしょ??わかってるのよ!」


 ほらおばちゃんやん!めっちゃ怒ってる‥‥。こんな時は兄に助けを求めようと目配せしたものの、喧嘩最強で漢の筈のお兄ちゃんは気づけば部屋の隅で三角座りしていた。


「え!?お兄ちゃん!?!?」

「すまんッ!!我はあのおばちゃんがどうにも苦手でな‥。この前あまりにもしつこいもんだから、一言言ってやろうと意気込んで見たものの精神をへし折られたのだ‥‥。奴は強い。やれそんなんだから無職だの、子供や動物に嫌われるなど我の心を砕いてくるのだ‥‥。茜ッ!後は頼んだぞッ!」

「え、えええええええええ!?ダサすぎるううう!!」


 そうやった‥!お兄ちゃん腕っぷしは強いけど、口喧嘩めっちゃ弱いんやった‥‥。


 仕方がないので、私がおばちゃんのサンドバッグになるとするか。部屋の隅で縮こまってる自分の兄を見てると、友達に合わせて恥ずかしい思いせんかどうか不安になってきたわ。


 2時間程おばちゃんの嫌味を受け続けて部屋に戻った私は、よくやったと抱擁しようとしてきた兄にもう一度笑顔で金的をしておいた。


 「2時間も嫌味言ってたら、ドラマ終わってしまいますよ?」の一言が余計だったのかもしれない‥‥。

 

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