第5話 子犬みたいな変な奴
授業もひと段落し、昼休みの時間になった。
さあ昼食の時間だ!といきたい所だが、俺は机でぐったりとしていた。
「ふわぁ、お腹空いたー!!」
そんな俺の気も知らないで、呑気に大きなあくびをしてお腹を空かせている横の転入生に目をやる。
そう、全ての原因は今日転入してきたコイツである。
休み時間になる度にやたら話しかけられ、俺は話しかけられる度に面倒くさいから一言で返すのだが、それでも全くめげる様子を見せない。
授業中も‥‥まあ今日が初めてだから仕方ないのかも知れないが、やたらと色々聞いてくるのだ。おかげでつまらんだけだった授業がつまらなくて且つ面倒な物になった。
うるさいとか絡むなと言うと一時的にシュンとした様子を見せるが、厄介な事に数分経つともう忘れたのかケロッとしているのだ。ポジティブなのか、ただのアホなのか分からんがとにかく鬱陶しい。
さらに困った事に、コイツは美桜とは既に打ち解けてしまっていた。
休み時間に俺に話しかけに来た美桜を見るや否や、「負けた!!私の完全敗北や!!東京の美少女可愛いすぎ!!」と勝手に感動して、そこからは美桜の事を凄く気に入っているようだ。
美桜の方も人見知り故なのか、元気いっぱいに話しかけてくれる彼女を大変気に入ったようでこの短時間とは思えないほどお互い打ち解け合っていた。
転入生‥‥全く末恐ろしい奴だ。どうしてこうなった。
まあ、昼飯くらい美桜とゆっくり食べよう。
この如月学園では学食か弁当かは選択制であり、俺と美桜は母が作ってくれた弁当をいつも屋上で食べている。
いつも通り俺の席にやってきた美桜に屋上に行こうと誘った時、転入生が俺の手を掴んだ。
目で訴えている。私も連れて行ってくれ、寂しいと。昔の某消費者金融cmを思い出す子犬のように目をうるうるさせながら。
無駄だ。そんな目をしても俺には通用しない。
「もちろん、最初からそのつもりだよ?ふふ、茜ちゃんって本当に表情豊かで可愛い」
「よかったあああ!美桜は優しいからめっちゃ好き!冷たい八神と違って!」
まあこうなるわな‥‥。俺が断ろうとしても、それを優しい美桜が許す訳ない。
諦めた俺は二人と一緒に屋上へ向かう。道中、他の生徒が俺を見てヒソヒソ話しているのが分かるが、睨むと気まずそうにどこかへ行く。
相当避けられているなこれは。まるで腫れ物扱いだ。
冤罪は証明されたものの、今や俺は超有名人だ。俺を避けたり陰口を叩いていた奴は後ろめたくて話しかけてこない。
一方で特に何もしなかった極一部の生徒も、元々他人に興味を示さない性格か本当に優しい人達だろう。優しい人達は俺が今どうして欲しいかわかってくれている。
だから誰にも話しかけられない。俺としては楽で助かる。
「八神ってもしかして凄い奴!?人睨みしただけで皆めっちゃ逃げてく‥‥。嫌われてるって感じでもなさそうだし‥‥」
「まあな」
説明するのが面倒だ。それに今日この学校に来たばかりの彼女に話すような明るい内容ではない。ましてやコイツはこの学校で友達が沢山出来る事を楽しみにしているようだし、尚更だ。
何故か尊敬の眼差しで見られている気がする中適当に返事をして歩いていると、屋上についた。
いつも通りの光景。割合としてはカップルの使用率が高いが、数人の友人グループもチラホラ見えた。
いつも美桜と二人で食べている場所が空いていたので、そこに三人で腰掛ける。
俺と美桜が普通サイズの弁当箱を鞄から出す中、転入生が女子高生の食べる量だとは思えない特大のお弁当箱を笑顔で取り出した。
「凄いね茜ちゃん‥‥。毎日お昼その量食べてるの?」
「そうだよ!私は女の中の女、漢女を目指しているからいっぱい食べてエネルギーを補給しないといけないんだよ!自己紹介では信じられないくらい滑ったけど、その気持ちは本物だよ!!」
漢女って何なんだよ。太らないのか?色々疑問に思うが、聞いた所で特に興味はないので俺は無言で食べる。
美桜も同じ事を思ったのか、俺の代わりに聞いた所どんだけ食べても太らない体質だとの事だ。あと、漢女というのは簡単に言えば誰もが憧れる心身共にかっこいい女性らしい。
自分の事を守る為に漢の中の漢になった自分の兄が目標だそうだ。
うん、聞けば聞くほど意味が分からない。
「茜ちゃんとっても可愛いから前の学校で相当モテたでしょー??
「いや、前は女子高だったから女の子の友達は多かったけど、男の子とは一切喋らなかったよ。中学の時はモテてたって友達からは聞いたけど、お兄ちゃんがアレだから誰も近寄ってこなくて‥‥」
一通り転入生と美桜の話が終わった所で、俺は言おうと思っていた事を切り出す。自分から話しかけたくはないが、これだけは言わないといけない気がした。
「転入生、一ついいか?」
「どうしたの?あれ?てか、やっと八神から話しかけてくれたね!!もう、転入生じゃなくて茜でいいよ、あか--」
「その気持ち悪い標準語を今すぐ辞めてくれ」
「ぐふっ!!」
我慢できなくてそう言った瞬間、転入生が米粒を吐き出し俺の顔にかかった。無言で手でそれを払い、続けて言わせて貰う。
「別に関西弁でいいんじゃないか?ハッキリ言ってずっと変だったぞ?」
「ぐはあっ!
「何でそれでいけると思った?」
「もうやめたげて大河!私もずっと何か変だなあって違和感凄かったけど言わないようにしてたんだから」
「ぶへあっ!美桜まで!頑張ってたんだけど、そんなに変だった‥‥?」
「「うん、変。てか気持ち悪かった」」
俺と美桜の声がハモる。それに合わせて転入生が大袈裟にリアクションを取る。何故か、「お兄ちゃん、帰ったら殺す‥」と言っていたが気にしないでおこう。
それ以降、転入生は俺と美桜の前では気軽に関西弁で話すという事にしたみたいだ。どうやら標準語も練習しておきたいようで、初めて会話する相手には標準語を使うんだと。
「てか八神ー!いつまで転入生って呼ぶん?私らってもう友達やろ?一緒にご飯食べてんからもう友達やん!な?」
子犬みたいにはしゃぎながら、人たらしな笑顔でそう言うコイツはきっといい奴なんだと思う。美桜と、こんないい奴が仲良くなってくれるのは正直嬉しい。
でもそれとこれとは別の話だ。
「等々力‥‥悪いけどそれはない。」
「なんっでやねん!!!この流れでようそんな無表情で断れんなあ!?あっ、でも初めて苗字よんでくれた!やったあああ!美桜!今の聞いてた??」
美桜に抱きついて喜ぶ無邪気な等々力を見て、不思議と会話するくらいならいいかな、と思ってしまった。
別に友達じゃなくてもちゃんと会話は出来るのだから。
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