第11話序章完結 晴らされる冤罪(3) そして大河は‥‥
「すぐに人に騙され、友達を裏切り、そんな自分自身をろくに恥もせず、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと喚き散らかすだけ。根っこの所はお前らは俺と何も変わらないんだよ。お前ら全員正真正銘のクズ野郎だ。ああ‥クズの俺が言うんだから間違いないよ」
凛人は心底見下すように詰め寄る全員を嘲笑う。
そんな凛人の胸ぐらを、先程の体格のいい男子--真田くんが勢いよく掴む。
「テメエ‥ッ!この期に及んで開き直ってんじゃねえぞ‥。お前と斎藤のせいでアイツがどれだけ苦しんだと思ってるんだよ!!」
胸ぐらを掴まれようが全く凛人は怯んだ様子は見せない。それどころか一層可笑しそうに嘲り笑う。
こんな幼馴染の狂気的な笑みを見た事がない私は、戸惑って何も口が出せなくなってしまう。
これがあの凛人? 確かにクールで最初は近寄りがたかったけど、面倒見がよく私と大河が何かあったらいつも助けてくれた‥あの凛人なの??
「アッハハハハ!まさかの自分達は被害者気取りか?自分は悪くないとでも?一度は反省した顔になってた野郎の一言とは思えないな。結局の所それがお前の、お前ら全員の本音だろ!!じゃあ聞くけどよ?お前ら全員俺らが大河を嵌めた後どういう行動をした?一人でもアイツの事を信じたか?違うだろ?アイツを信じてたのは美桜だけだったよなあ?その美桜まで変人扱いしてよ?みんなして大河をボロクソいって無視してズタボロにしたよなあ!!確かに俺と麗奈は大河を嵌めた!でもその後はアイツに何も酷い事はしてねえぞ?アイツをここまで徹底的に追い詰めたのは他でもない、お前らなんだよ!!!」
凛人の凄まじい勢いに気圧されたのか、真田くんの胸ぐらを掴む手が一瞬緩む。
「それは‥‥そうだけど、けど‥‥」
「私達も悪かった事なんてわかってるわよ!でも‥‥」
他の生徒達も同様に凛人の勢いに動揺を隠せない。
確かに凛人の言い分も一理ある。あくまで二人は大河を罠に嵌めた、ただそれだけ。ここまで彼を精神的に追い詰めてきたのは他でもない、クラスメイトや他のクラスの生徒、つまりこの場にいる全員だ。
だけど‥‥こんなの論点のすり替えもいい所だ。
私は深呼吸する。怒りが臨界点を突破し、もうどうにかなりそうなんだ。
ゆっくりと凛人に近づき、真田君の代わりに思いっきり彼の胸ぐらを掴んだ。そして凛人を後ろの壁に押し付けるように思い切り力を込めた。
こんな時に幼馴染の私が正してやらないで‥何もしないでどうするんだッ!
「さっきから黙って聞いていたら‥‥っ!開き直るなああああ!!!そもそもアンタがそこで泣いてる女と共謀して大河を嵌めなきゃ最初からこんな事になってないのよ!!凛人‥‥!!一体どうしてこんな事を??私達三人は小学生の頃から‥ずっと友達だったんじゃないの!?親友だったんじゃないの!?」
「凛人から手を離して‥っ!」
「‥ッ!うるさい!黙れ!!私に触らないで!!!」
肩を掴んできた斎藤麗奈を力の限りに払いのける。そのせいで机に倒れ込む形になるがどうでもいい。
私は凛人の胸ぐらを掴む腕に一層力を込めた。
「何とか言いなさいよッ!!!凛人!!!」
「‥‥‥‥」
「何て瞳‥してんのよ‥‥ッ!!」
私を見る凛人の瞳は、一言で言えば虚無そのものだった。瞳からは全く感情が読み取れず、幼馴染である私の精一杯の呼びかけに彼は何の反応も示そうとしない。
私の言葉に苛立つ訳でもなく、自分の犯した事を反省し後悔の念を見せる訳でももなく、ただ無機質に私を見つめるだけ。
そんな凛人を見て、怒りよりも悲しみが溢れて来るのを感じる。あれだけ頼りなる幼馴染がここまで淀んでしまったという事実に、私は打ちひしがれてしまう。
「いつからそこまで歪んでしまったの?ねえ‥?凛人‥」
私の声は凛人への怒りと悲しみが入り混じり、悲痛な叫びのようなものになる。
その瞬間、今日初めて凛人が私に対して感情を見せた。それは予想していたものとは違う、私に対する、いや私達幼馴染に対する明確な怒りだった。
「‥‥いつから歪んだだと?どうしてこんなことだと!?よくお前がそんな事言えるなあ、美桜!!まさかまだずっと気づかなかったとか言う気か?なあ??俺と大河と美桜、三人で親友なんだろ?」
私が気づかなかった?一体何の事を言ってるの?ずっと3人は一緒だったはずだ。もちろん凛人の事も近くで見てきた。
でも凛人が何に対して怒っているのか、どうしても私にはわからない。
「‥‥まだ分からない‥か。なあ?お前と大河にとって俺は一体‥‥ナンなんだ?」
そう言って凛人は哀しそうに笑った。まるで全てを諦め切ったように力無く笑ってみせた。
いつも頼ってばかりだった幼馴染の、初めて見せた一筋の涙。
私はその光景に動揺してそれ以上何も言えなくなり、掴んでいた手を離してしまう。
その後どこからともなく怒号が聞こえ始め、凛人や斎藤麗奈に掴みかかろうとする者、それを止める者で教室があわや乱闘状態寸前になっていった。
「‥‥美桜先輩。‥‥わたし」
「もっと早く皆に言ってくれれば、ここまで私達がバラバラにならなかったかもしれないのに‥。酷いよ‥ももかちゃん‥‥」
恐る恐る私に話しかけてきたももかちゃんを私は非常にも拒絶した。ももかちゃんにも何か事情はあるのだろう。
だけどそんな事考慮してあげれる余裕は今の私にはない。ももかちゃんが走り去っていくのをただ眺めるだけ。
先輩として失格だ。でも彼女を責める権利も同時に、私にはある筈だ。
先程の凛人の哀しそうな顔が頭から離れない。
たとえどんな事情があろうと、どんな想いがあろうと彼のしでかした事は絶対に許されない事だ。
それでも10年の付き合いがあり、家族みたいな関係を築いてきた友人を簡単に切り捨てられない自分もいる。
凛人‥わからない‥私わからないよ‥‥貴方はどうして歪んでしまったの?
◇ ◇ ◇
担任の結城あおいはその日の放課後、八神大河の家庭に訪問した。無論、「無事に冤罪だと判明した」事を本人に伝える為である。
しかし結城は彼の瞳を見て驚愕する。彼の瞳は全く光を感じさせなくなっているではないか。全てを悟ったような、諦めたような、齢16歳の少年がしていい瞳ではない。
結城は今朝の出来事を彼に伝えた。すると彼は感情の全く篭らない声で
「そうですか」
と一言だけ返した。そこにはもはや、かつてのように自己犠牲の精神で大事な人を守ろうとする優しい彼の面影は、微塵も感じられなかった。
ここまで書いて序章完結、ようやく物語の基盤が出来たという感じです。かなり長編になる予定です。
ここまで付き合ってくれた方々ありがとうございます!先は長いですが是非最後まで見届けてくれたら本当に嬉しいです!
まだブクマや評価されていない方いましたらして頂けると執筆のモチベになりますので良ければお願い致します!




