第8話 独白
主人公不在の為、数話の間美桜視点になります。
眠った気がしない。ここ最近はいつもそう。睡眠不足で毎日のように身体が怠い。その中でも今日は特に酷いものだ。
でもこれは当たり前の報い。私は大河を深く傷つけてしまったんだから。どれだけ言い訳を重ねても、私の行動が彼を傷つけた事は変わらない。
とにかく大河と会って話がしたい。昨日の留守電は聞いてもらえただろうか。昨日は何度もメッセージや電話をかけて見たけど返事はない。いっそ直接会いにいこうかと思ったけど、その勇気も持てなかった。
こういうのは時間が経てば経つほど取り返しのつかなくなるものだ。でも‥会って何を話せばいいのだろう。何を話すのが正解なんだろう。
大河のコトだから本当の事を話すと、一層自分の事を責めてしまう事は分かりきっている。かといって下手に誤魔化そうとすると私をもう信じて貰えなくなるだろう。
それが‥それだけはどうしようもなく怖い。
私が側にいるから、支えるから、大好きだから、もちろんその気持ちは今も変わってない。あの時言った言葉に嘘はない。
(私だって、何も考えないで大事な人を傷つける訳がないよ‥っ。お願いだから学校に来て‥っ!たいがぁ‥。)
登校する時彼の家のインターホンを鳴らしたが、誰からも返事はなかった。
私は泣きそうな顔で、彼がもう学校に来ている事に一縷の望みを賭け学校へ向かう。
◇ ◇ ◇
私には一つ年下の妹がいる。彼もよく知っている子で、高校一年生になってもまだ悪戯好きが治らない生意気な困った子だ。昔から喧嘩というか、揶揄われてばかりだけど私のとっても大事で可愛い妹。
その妹が、私が大河を庇っている事が原因で同級生にいじめられるようになった事が数日前に発覚した。
私の抵抗も虚しく、大河が「性犯罪をしでかした癖にまだ学校に居座るクズ」だと云うのは今や学園にいる生徒の中では共通認識になっている。
そんな大河を庇う私は、今や学校では変人扱いされる有様だ。私を見る人はどこか同情的で、皆は私を「極悪人に未だ利用されてる頭がおかしい可哀想な子」とでも思っているのだろう。
私が標的ならまだ耐えられた。でも私は悲しい事に、自分のクラスだけでなく、学園全体でも人気を集めてきてしまっていたんだ。決して自惚れているわけではないけども、それを自覚できない程馬鹿でもない。
犯罪者を守るなんてありえない、許せない‥だけど私には手を出せない、出したくない。
いきすぎた正義感を翳す皆の、私への怒りの吐口として選ばれたのは‥私の妹だった。
妹はとてもいい子なのだが、子供っぽく生意気で人付き合いがあまり得意ではない。本人は気にしていないようだったが、これまでもあまり友達が多い方ではなかった事は知っていた。
そんな性格もあって妹の柚希が選ばれたのだろう。
数日の間、私は全く妹の異変に気づいてやれなかった。柚希は辛い事があっても我慢してしまう優しい子だから、話しても私に心配をかけるだけだと思ったのだと思う。
いつも明るいクセに少しだけ元気がないような気もしたが、まあそんな時もあるだろうと軽く済ませていた。
私が気づいてやれたのは、柚希の顔に誰かにぶたれたような痣が出来た時。あの子は転んだといってきかなかったが、どう見ても転んで出来る物ではない。
『あはは!ちょっとみんな心配しすぎ!喧嘩しただけだしもう仲直りしたよっ!!』
両親と私が問い詰めて問い詰めてようやく妹はそれだけ言って笑ってみせる。
だけど私は、柚希の顔がその時ほんの一瞬だけ曇った事を見逃さなかった。
そしてその悪い予感は見事に的中する。休み時間に一年生の階にいくと柚希が同級生の女子数人に囲まれているのを見つけた。
一人の意地が悪そうなリーダー格が手を振り上げようとした時、私が声を出した事でその手が止まる。
『お姉ちゃん‥。ごめん‥‥言えなくて。でもお願いだからたいがには言わないでね?アイツは馬鹿だから、絶対もっと自分を責めちゃう。ユズは大丈夫だから。せっかく恋人になったんでしょ?‥ユズを置いてけぼりにして。‥ふふっ嘘だよ?絶対お姉ちゃんはアイツの手を離しちゃダメだよ?』
こんな時でも冗談を言って私の事を気遣う優しい妹を、誰がこのままにしておけるだろう。
もちろん大人に相談しようと言ったが、心配性な両親は学校を辞めさせようとするからダメだ、お姉ちゃんと一緒がいい、先生に言ったら絶対親にも伝わるからそれも辞めて欲しいと頑なに柚希は拒否してしまう。
最後にはこれ以上酷い目に遭うようなら、私は迷わず大人を頼るということで無理矢理妹を納得させた。
大河と柚希、どっちも私の大事な人だ。二人とも手放さない方法を私は誰にも相談せずに必死で考えた。
大河に言えば柚希の言うように、彼はもっと自分を責めてしまう。妹の願いを踏み躙らないようにする為にもそれはできない。
ただでさえ最近の大河はおかしい。話しかけても反応は薄く、ずっと何かを考え込んでしまっている。友達に裏切られ、毎日のように白い目で見られる彼にこれ以上負担はかけれない。
柚希の同級生に話を聞いていると、どうやら妹を囲んでいたリーダー格の女の子、藍沢朱里に姉がいる事が分かった。
姉の名前は瑠璃香で同じ二年生、同じクラスの子で私も一応クラスメイトだから知っている人。気のせいだと思いたいけど、私の事が気に入らないのかと感じる事は今までもあった。
私は人気があるのは自覚しているけど、当然の事だが全員が私を好んでくれているわけじゃない。
たまに目が合うと睨みつけられたり、小さな声で取り巻きの女の子と悪口を言われているような気分にさせられる、正直に言えば私は少し苦手な人。大河の冤罪が生まれた日も、この人は私を嘲笑うように見ていた。
妹の方の瑠璃香ちゃんには相手にされなかった為、私は意を決して同級生の藍沢さんに妹の行為を辞めさせるように頼んだ。
『学園のアイドルの貴方が私に頼み事なんてねえ?‥まあそうね、貴方があのクズを庇うのを辞めるのなら考えてあげてもいいわよ??』
意地悪な笑みで私の出方を伺うこの人は、やはり元々ちやほやされがちな私の事が気に入らななかったみたい。
恋人を裏切るような真似はしたくないけど妹も守りたい。
そう思った私は、大河に悟られないように細心の配慮をしながら、彼がいない所で小さな悪口をわざと人前で言ったりして精一杯アピールする事を試みた。いつも大河の側にいる癖に、本人と離れた途端悪口を言う事で、周りに「とうとう愛想をつかした」と周知させようと思ったんだ。
効果はあったようで段々とクラスの私に対する反応は変わっていっている事が実感出来るようになった。
幸か不幸か今の大河は気も漫ろで、私や周りの小さな変化に気づいている様子はない。
もし何か悟られそうになっても、心からの好きを彼に伝えて周りの言う事なんて気にするなと本人には言おう。
これで妹の事も守れる。そう思ったが藍沢さんはそんな私の甘い考えを許してくれなかった。
それが昨日の事。あの女は私の大事にしていた、大河との思い出の猫のキーホルダーを壊した。
『ねえ?気持ち悪い演技やめてくれない??』
『そうねえ‥‥。それでも本当にアイツの事どうでもよくなったっていうんだったら‥あんたがいつも大事そうにしてるソレ捨ててみせて?』
嫌だ‥絶対嫌‥これは私の宝物なの‥っ。でもやるしかないの‥?
そうだ、ゴミ箱に捨ててからコイツらが一通り満足した後にまた拾えばいい。今はこの女に屈するしかない。
『あれ?どうしたのそんな怖い顔してえ?本当にどうでもいいんだったら笑ってみなさいよ?ふふふ」
戸惑う私を見て取り巻きと笑い始める藍沢瑠璃香。クズ共‥絶対に許さない。でも今は‥
精一杯演技して笑ってみせる。‥そしてゴミ箱に大事な物を投げ捨てた。
この時だった。最悪のタイミングで大河と目が合ったのは。ソレに気づいた私は彼をすぐに追うが、どれだけ必死に走っても私の足では彼に追いつかない。呼び止めても彼は振り向いてくれなかった。
ふらつく足で教室に戻ると、大事にしていた猫のキーホルダーは無情にも床に叩きつけられ割れていた。
間違いない。アイツらの仕業だ。
私はその破片を一つずつ丁寧に拾う。手には大粒の涙が落ちる。
何やってるんだろう私‥。全部守ろうとしたのに、何一つ
守れてない。何をやっても裏目に出ちゃう‥。
『ごめんね‥ごめんね大河‥だけど私にはもう‥一人じゃどうしたらいいか色々分からなくなっちゃって‥。でも大河への気持ちは変わってないよ?言った言葉は本当だよ?お願いだから‥連絡‥ください』
涙で震えた声で留守電を入れた。
大河からその日、返事が来ることはなかった。
◇ ◇ ◇
(大河‥っ!!)
教室には何故か人だかりが出来ていて酷く騒がしい。私はそれを押し除けるように中に入り、彼を探す。
(いない‥やっぱり‥そんな‥え‥?なに?)
大河はいない。代わりに見た光景は思いもよらないものだった。
『私は全て知っている。霧島凛人、斎藤麗奈。お前達の断罪の刻は来た。』
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