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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第七章 再会

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第95話 客人の多い一日

 打って変わって和やかな空気がパティオを包んでいた。

 兄弟たちと囲むテーブルにはお茶と点心が並べられ、食欲を誘う湯気を立ち昇らせている。


「客人たちには悪いことをしたね。年寄りの戯れに付き合ってくれた礼だ。さ、好きなだけお食べ」


 ユェンの勧めに従い、(みお)はホクホクの笑顔で胡麻団子にパクつく。


「いただきま~す……もぁぐ」

「(許された……)それで、()翠兵(スイヘイ)の件は貴方が依頼人だったんですね」

「ああ。弟子どもの修行の一環さ。イムガイ(むこう)じゃアンタたちと行き違いがあったらしいが、その後は平気かい?」


 殊のほか親身な対応に、(けん)()はつい相手の身分も忘れ気を許してしまう。


「はい。仲間の探していた剣は結局別物でしたから。ただ……」

「遠慮せず話しな。海まで渡って来るからには訳ありなんだろう?」


 献慈はユェンに事のあらましを述べた。混乱を避けるため、マレビトやユードナシアについては伏せたうえで、馨のことも昔の恩人であるとだけ伝える。


「……なるほどね。お目当てのホテルなら海沿いの区画だ。すぐに馬車を用意してやるよ」

「あ、いえ、そこまでしていただかなくても」

「そうはいかないよ。マシャド家――というか、美名子(ミナコ)とはビジネスパートナーなんだ。その客人なら丁重にもてなさないとね」

「ビジネスパートナー……」

「〝警備関連〟さ」

「……あ、はい」


 献慈は相手の職業を思い出し、無理矢理自分を納得させた。




 黒塗りの馬車は街道を進む。

 御者を務めるユェンの部下を除いた乗客は三人――献慈と澪は隣り合わせに、そしてもう一人が対面に座っていた。


「何であなたまでついて来るの?」


 毒づく澪の視線を、(ヨン)(ニェン)が軽く受け流す。


「べつにええやん。ワシも近くに用があんねん」


 「現地妻に会いに行くねやろ」――出発前、永和(ヨンホァ)が呆れたようにつぶやいていたのを、献慈は聞かなかったふりをする。


(沈黙は金なり……だな)

「……私たちをユェンさんに会わせたのは、妹の仕返しのためってわけじゃないんでしょ?」

「それもあるで」


 永年はきっぱりと言い放ったうえで言葉を継いだ。


「こっからはワシの独り言やさかい、聞き流してくれ。老師はむかぁし旦那さん亡くされたはってな、生まれたばっかしの娘も行方知れずで……今生きとったら澪ちゃんと同い年やったはずやねん」

「……そうだったんだ」


 澪が見やるのを、永年はばつが悪そうに顔を逸らす。


「……ちぃと喋りすぎたな」

「べつに。今さらでしょ?」

「ほいじゃ話ついでにもういっこ……キミら、これからも烈士続けていくつもりやんな?」

「もちろん」

「この先つるむ機会あったら、妹と弟(あいつら)とは仲良うしたってや」


 レンガ造りの建物が並ぶ裏通りに、馬車が緩やかに停止した。人通りはないが、標識を見る限り滞在先のホテルとは目と鼻の先のはずだ。


「着きましたよ」と、御者の声。


 外からドアが開き、先に永年が馬車を降りる。

 次に澪が――刀の柄に手をかけた。


「その必要はあらへん」


 永年が言い終えると同時、路地からふらふらと迷い出て来た男が地面にへたり込む。

 歩み寄って行く永年を、男の目が恨みがましく見据えていた。


「ぐ……ユ、ァンの、弟子……か……」

「まだ喋れるんか。永和みたいに上手くはいかんなぁ」


 男の胸には髪の毛ほどの極細い針が突き刺さり揺れていた。その手から永年は遠眼鏡を奪い取り、素早く猿ぐつわを噛ませる。


「いえ、見事なお手並みですよ」御者は男を軽々と担ぎ上げる。「あとは我々一家にお任せを……フフッ、今日は何かと客人の多い一日ですね」


 何事もなかったように走り去る馬車を、献慈は呆然と見送った。


「今連れてかれた人は……一体……?」

「近いうち新聞載るんちゃうかな。記事の内容は――」

「やっぱ言わなくていいです」


 〝知らぬが仏〟が、別の意味での仏にならないことを祈るばかりであった。

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