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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第七章 再会

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第93話 受け継がれるもの

 ジオゴが戻ったのはその日の午後だった。


「あとでお話があります」

「すぐにでも構わんが」


 ラウンジへ移動する。(けん)()(みお)、ジオゴが円卓に着くのと前後して、ジェスロが手際よく人数分のお茶と生八ツ橋を用意してくれた。


「ど、どうぞ……」

「うわぁ~、美味しそう!」


 澪が歓喜の声を上げた瞬間、


「ひぇ……っ!」


 ジェスロがびくりと肩を震わせ、遠ざかっていく。まるで捕食者に狙われた小動物のようだ。


「(かわいそう……)大丈夫、怖くないよ。このお姉さん、ちょっと食いしんぼうなだけだから」

「えっ?」


 澪の鋭い眼光が一転、献慈に向けられる。


「ごめん! 今は抑えて」小声でたしなめ、「ジェスロくんもおいでよ。一緒にお菓子食べよう」


 献慈は少年をテーブルへ呼ばわった。


「いいん……ですか……?」


 ピンと張っていた狐の尻尾が次第に垂れてゆくのを見て、献慈は初めて自分の人畜無害ぶりに感謝をした。


「わしも構わんけ、こっち来んちゃい」

「し、失礼……します」


 ジオゴが置いた椅子へジェスロがちょこんと座る。

 気を利かせた澪がお茶を淹れ、ふうふうと冷ましてジェスロに寄越した。献慈も手持ちのチョコレートを二つ三つ分け与える。


(怖がってたのは……俺のほうかもな)


 遠慮がちにチョコを口にしたジェスロが目を輝かせる様を見て、献慈はわずかながら気が晴れた思いがした。


「ところで」ジオゴが口を開く。「組合で聞いたんじゃが、カデノコウジさんの娘ゆうなぁ澪さん、あんたのことかいの?」


 その名前を耳にした途端、澪の顔色が変わった。

 勘解由(かでの)小路(こうじ)とは澪の母親・()(のり)の旧姓、現役の烈士だった頃の名だ。


「母のこと知っているんですか?」

「その昔、一度だけ同じ仕事での。地方貴族の護衛じゃった。不正の片棒担がされかけて大暴れしちょったん、ほんま忘れられんわい」

「あー……」


 澪が、納得とも諦めともつかぬ嘆息を漏らす。

 ジオゴの話はそこで終わりではなかった。


「実はその場にヨハネスもおっての。あれがきっかけで仲良うなったんかは知らんが、まさか二人ともこがぁな道をたどるとは思いもせんかった」


 一度きりの仕事仲間。その名を聞いたのは実に二十五年ぶりだという。


「それじゃ……討伐の相手がヨハネスだと知ったのも……」

「ほうよ。わしゃあパタグレアから別件で『眷属』を追って来たんじゃが、どうやらヨハネスに〝消された〟らしい。この落とし前はつけんにゃいけん」

「…………」

「……と言いたいところじゃが、先鋒はあんたらに任すんが筋じゃろうの。そん時までしっかり準備しときんさい」

「格別のご配慮、痛み入ります」


 澪はジオゴに深々と一礼した。つられて献慈も頭を下げるが、本来切り出すべき話題を忘れたわけではない。


「その……準備というか、心の準備の話になるんですが……」

「気兼ねせんと言いんさい」

「ジオゴさん、マレビトについてはどの程度ご存知でしょうか?」




 献慈は自身の身の上とこれまでの道のりを、馨との関係を含めてジオゴへ語った。


「真田さんからすれば俺は知人の一人にすぎないのかもしれません。でも俺にとっては大切な友人ですから、有耶無耶なままではいられなくて……」

「カヲル・サナダ・マシャド――嫁の母親の名前に違いなぁです」


 この時点で馨にまつわる諸々の事実は確定的となった。


「それから献慈さん、剣道言うちゃったでしょう? パタグレアの巳九尼(みくに)流にゃ馨さんが伝えた剣道の技術が取り入れられようてですよ」


 イムガイ剣術の二大流派。

 一つは、対人戦闘に特化した緻密な剣捌きを旨とする、新月(しんげつ)流。

 もう一つは、対魔物に特化した荒々しい太刀筋を持つ、巳九尼流だ。


「私、聞いたことがある。巳九尼流が海の向こうで形を変えて伝わってる話。それに馨さんも関わってたなんて……」

「わしも娘婿としてえっとしごかれましたけぇ、あん人の魂は今でもしっかりと息づいちょる思うてます」


 澪は胸元で揺れるつくしの根付に視線を落とす。知っているのだ。想いや教えはその人が去った後も残り続け、受け継がれるものだということを。


「(澪姉……)貴重なお話ありがとうございました」


 謝辞を述べ、腰を上げようとする献慈をとどめたのは、


「ジオゴさん」澪だった。「奥さんなら馨さんのこと詳しく知ってらっしゃるんですよね?」

「ほうじゃのぅ、美名子さんは実の娘じゃけ。あんたがたさえよけりゃあ、いっぺんうちかた来てみるんがええよ。ちぃと()いぃかもしれんが、歓迎するけぇ」

「そうですね。事が落ち着いたらそのうち――」


 言いかけた献慈を、またしても澪が不意討ちする。


「行こ。今から」

「うん、今か――らぇっ!? 今からぁっ!?」

「ダメなの?」

「いや、ダメというか……大事な戦いが控えてるのに……」


 言い訳だ。その重要な戦いを無事に終えられる保証などどこにもないのだ。

 むしろ、敵の居場所が判明していない今こそ絶好の機会とさえ言える。


「献慈は今、馨さんがどんな人生を歩んだのか知らないまま、モヤモヤした気持ちでいるんでしょ? 私はそんな献慈を、自分の復讐のために連れて行くなんてできない」

「気持ちは嬉しいよ。けど、外国に行くには準備とか手続きだって必要――」


 献慈の声は、ドアを開け放つ音にかき消された。


「話は聞かせてもらったァ――ッ!」


 突入して来た騒音の主はほかでもない。


「カミーユ!? 『聞かせてもらった』って……まさか!」

「床下からお邪魔いたします」


 緑風と化したシルフィードが床板の隙間から滑り出る。

 向き直れば、カミーユの後ろにはライナーや天狗たちまでもが揃い踏みであった。


「行き先はパタグレアでしたね? 渡航券ならば福引きの景品がここに」

「港まではわたしたちの翼でひとっ飛び運んで差し上げますが?」

「某も入れて二人乗り、おあつらえ向きでござるな」


 外堀は知らぬ間に埋まっていた。

次話へのつなぎ


【番外編】第93.5話 揺れるブランコ

https://ncode.syosetu.com/n0952hz/28/

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