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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第六章 あやかし まぼろし ゆめ うつつ

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第89話 妖怪屋敷

 洛外へ出ると、一帯を覆う黄金色のススキが献慈たちを出迎える。

 大きな湖のほとりに、廃寺を増改築したとおぼしき建物が佇んでいた。


「ここが例の妖怪屋敷? 意外とフツーじゃん」


 敷地を囲む柵には手作り感満載の看板が掲げられ、カラフルなペンキで〝ゆめみかん〟の文字が書きなぐってある。


「中に入ってみましょ」


 (みお)が建物へ足を進めようとした時、(けん)()の〝眼〟が遠く後方に奇妙な出来事を捉える。


「待ってくれ、あれは……何か来る!」


 ススキ野原のはるか向こうから、飛び飛びに瞬間移動して来た小さな人影が、あっという間に目の前まで迫って来ていた。


「何や珍し。お客さんかいな」


 背負(しょ)いカゴに野菜を積んだ鬼人族の少女が、丸眼鏡の向こうでつぶらな眼をぱちくりとさせる。


(子ども!? ……いや、こう見えて四十歳とかなんだろ? 俺知ってるもんね!)

「はわぁ~っ!? ちっちゃくてカワイイ~っ!!」


 案の定というべきか、新たな獲物を見つけた澪は欲望剥き出しで少女に抱擁を迫る。

 ところが、である。


「おわっ!? いきなり何してけつかんねん!」

「――え?」


 澪の両腕は空を切る。少女の体が瞬時に後退していたのだ。


「びっくりさすなや。気色の悪い姉ちゃんやのォ~」

「きっ……気色悪いって言われたぁ……」

「(ショック受けんのそっち!?)いやいや! 全然そんなことないよ? 澪姉、今日も美人だし、可愛いよ!」


 献慈は澪のご機嫌を取って事無きを得る。代わりに少女からは呆れられるというおまけが付いた。


「何やねんな、このバカップルは……」

「申し遅れました。僕たちは依頼を受けて参りました烈士なのですが、貴方は〝ゆめみかん〟の関係者の方でらっしゃいますか?」


 ライナーが尋ねると少女は一転、態度を軟化させた。


「そやで。料理長や。しっかし(にぃ)やんは落ち着いとんなぁ。ワシの〈(しゅく)()〉にも驚きよらへんし」

「いえ、その若さでこれほどの高度な道術を使いこなすとは、相当な修練を積んでこられたとお見受けいたします」

「またまたぁ、こないなオバチャンつかまえて若いとかよう言うわ~。アンタも罪な男やでぇ。アメちゃんあげよか~?」

「それはどうも。いただきます」


 脱線しつつある話をカミーユが軌道修正にかかるが、


「お~い。どうでもいいけど早く行こうよ、妖怪屋敷さぁ」

「誰が妖怪ババアやねん!」

「いや、アンタのこと言ってねーし!」

「ん~……自分ツッコミいまいちやな。まぁええ。ついて()

「……何だよこの敗北感……」


 逆に手玉に取られるのであった。




 献慈たちを引き連れ、料理長を自称する少女は元気よく入り口を跨いだ。


「ただいま~。帰ったで~」


 (すす)けた色合いが年季を感じさせる、落ち着いた宿であった。

 ふと見渡すと、柱の陰からふわふわとした何かが覗いていた。


「こらぁ、ちゃんと出て来て挨拶しぃや。お客さんやで」


 料理長に見咎められ、おずおずと姿を現したのは洋装の少年。それもキツネのような耳と尻尾を持つ、少数種族のフォクストロットであった。


「い、いらっしゃぃや、らっせぇ……」


 消え入りそうな声。獣耳は横向きに伏せ、瞳は定まらず泳ぎ回っている。


「ベルボーイ見習いのジェスロや。ちぃと人見知りやさかい、堪忍な」

「ボ、ボクぅ、ジジェッ、スロって、ててゅ……」

「かっ……可愛すぎるッッ――!!」


 熱情を(たぎ)らせる澪の反応は予想の範疇として、


「これまたイジり甲斐のあるガキんちょじゃのォ~! うっひゃっひゃ……」


 カミーユまでもが嗜虐心を剥き出しにしていた。

 両極端に怖いお姉さんたちの魔の手がいたいけな少年に迫る。


「あ、あぅ……ボ、ボクぅ……」

(こいつぁやべぇえ――っ! ジェスロきゅん早く逃げてぇ――っ!)


 献慈は身を乗り出しかけるも足を止める。宿の奥から小走りに近づく足音に気がついたからだ。

 程なくして、足音の主は廊下の角からひょっこりと顔を出す。


若蘭(ルォラン)? 帰って来たノー?」


 たすき掛けの和服にエプロンを着けた、金髪碧眼のうら若き女性。少女と言っても差し支えない年齢に見えるが、長く尖った両耳の形は、彼女が妖精から進化した長命の森人であることを明示していた。


(エルフ……?)

「女将さぁん、た、助けて……くださいぃ」


 怯えきったジェスロがエルフの少女に駆け寄る。


「ンー? 一体ナニがあったカ?」


 ゆめみかん女将・スピロギュリアとの慌ただしい出会いであった。

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