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マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第五章 しるし

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第76話 ずっと、ずっと……

 沈黙が流れていく。お互いに、お互いが発言するのを待ち、それを察し合っているかのような沈黙が。


「……ごめん、(みお)姉」

「……な、何が?」


 澪らしからぬ、素っ気ない返答だった。

 だがその口元を通り過ぎた微笑みは、密かに匂わせていた。先に言葉を発したのが自分ではなく、(けん)()であったという安堵を。


「俺が眠ってる間のこと、今まで黙ってたから。……正直言うと怖かったんだ。俺がユードナシアからコピーされた人間だって、そんな得体の知れない存在だって知られて、澪姉に拒絶されるんじゃないかって」

「私がそんなことするわけない!」


 澪はいきり立ち、献慈へ迫った。

 この顔は本気だ。はっきりとわかる。半年近くもの間ずっと同じ時を過ごしてきたのだから。


「……だよね。リヴァーサイドでキルロイさんと出会って、いろいろ話して、俺は自分の心をしっかりと定めたつもりでいたのに……今になってまたこんなつまらないことで悩んだりして、本当バカみたいだ」

「そ、そんなこと言ったら……私はもっと……バカみたいじゃない」

「澪姉……」


 合わせようとした視線がついと逸らされる。


「キ、キルロイさん? っていうのは、その……」

「むこうで俺を助けてくれた人だよ。俺が澪姉の所まで戻って来られるよう力を貸してくれて……だから、澪姉が心配するようなことは何もないよ」

「そっかぁ……あ、べつに心配とか! そういうのは……」

「……俺が心に決めた人は澪姉だけだよ。これからもずっと、それは変わらない」


 身体が、心が、熱に浮かされているかのようだ。自分を止められない。今まで生きてきた短い時間、ぜんぶ使って、はるか未来の永遠の果てまで、愛しい人の心の奥まで届くよう、全力でこの想いをぶつけたい。


「献慈……それって……」

御子(みこ)(ほう)じの旅が終わったっていうなら、もう(もり)()とか役割とか関係ないはずだろ? だから……一人の男として言わせてもらうよ」


 今、伝えたい。


「俺は澪姉が好きだ」

「……ぇ…………」

「……好きだ」

「…………」

「…………」

「……ぅ…………わあああぁぁぁァァァ――――ッ!!」


 鏡獅子よろしく振り乱した澪の髪の毛が、献慈の顔にぴしゃりとぶち当たる。


「いで……っ!?(歌舞伎でよく見るやつ!)」


 へたり込んだ澪の後ろ髪全部が前方へ垂れ下がり、顔を覆い隠してしまっていた。


「だっ、大丈夫!? 澪姉、どうしたの?」

「……だ、だ、だだだっ、だってぇ……こ、こ、ここここ、こんなの、はっ、恥ずかしくて! かっ、顔とか、みみ、見れないしひぃ!!」

「そっか……ごめん、びっくりさせて。澪姉が嫌なら……」

「嫌じゃない!!」


 澪は、屈み込んだ献慈の両手首を掴んで押しとどめる。


「(い、痛い……)えっと……」

「嬉しいから! 嬉しいの!! 嬉しくて……し、死にそう」

「わ、わかったよ……でも死なないでね」

「……うん。死ななぁい…………すぅっ……ふ――ぅ……」


 澪は大きく深呼吸した後、献慈を解放しゆっくりと立ち上がった。ふらふらと後ずさりして、ベッドに大きなお尻でドスンと着地する。

 わしゃわしゃとかき分ける髪の向こうから、耳まで真っ赤になった顔が覗いていた。


「みっ、見ないで! 恥ずかしいからっ!」

「でも、可愛いよ。澪姉」

「そういうのっ! 今、ほん……っとダメだから!」

「わかった、見ないようにするよ……なるべく」


 答えつつ、献慈はさり気なく澪の隣へ腰を下ろす。


「うぅ………………はっ!?」

「なっ、何?」

「嘘じゃ……ないよね? 今、献慈が言ったこと」

「えっ? 俺……俺、好きだよ。澪姉のこと」

「ん……んん~……?」

「好きなんだ。最初に会った時から、ずっと。素敵な女性だと思ってた。綺麗で、格好良くて、それで時々可愛いらしくて……」

「……え、えへへへ~……」


 澪は顔の下半分を両手で覆うも、全身でニヤついてる感を醸し出していたため、あまり意味を成していなかった。


「(可愛い……)全部……憶えてる。行き場を失った俺にずっと寄り添ってくれたこと、いつも優しく接してくれたこと。澪姉が今までしてくれたことがどれだけ俺の力になったか、とても言い尽くせないよ。だから今度は俺が澪姉をしっかり支えてあげたい、力になってあげたいって、心から思ってる」

「……は……はい……」

「それでさ……俺、これでも結構勇気振り絞って告白したんだけど……できれば、改めて澪姉の返事が聞きたいっていうか……」

「へっ……返事……?」

「そう。正直に答えてほしいんだ」

「……私……」

「澪姉は、どうしたいの?」

「私…………したい。献慈と」

「……えっ?」

「えっ?」

「あ……あの、ごめん。言い方が悪かった。討伐隊に志願するかどうかってのを確認したくて……」

「はっ――あ、あーっ! とと討伐ぅい、い、行くって話ねっ! も、もちろん!! 私、行くぅ!」

「…………」

「わ、わかってたから! 最初からそのつもりで言ったからぁ!!」


 澪の動転ぶりを受けて、献慈は話の流れが独りよがりすぎたことを反省した。


「(さっきのは聞かなかったことにしよう……)えっと……それじゃ俺、二人に知らせに行って来ようかな」


 献慈が腰を上げた直後、


「待って! 私も……一緒に、行く」

「……わかった。行こう」


 上目遣いに見つめる澪の手を取って立ち上がらせる。あわや抱き寄せんばかりの距離感、献慈は確実に気が大きくなっていた。

 にわか仕立てな男の威厳など実に儚きもの。


「なぁんてね……えいっ!」

「ふあぁっ!?」


 気がつけば澪に抱え上げられる献慈がそこにいた。


「そう簡単にリードなんてさせないもんっ」


 悪戯っぽく笑う澪の頬には――油断大敵――と書かれている気がした。


「ごめんね。怒った?」

「ううん……(おかえり、澪姉)」


 献慈の微笑み返しは決して強がりなどではなかった。


「よかった。私……これからも献慈の好きな澪姉でいたいから、だから――」


 ドアを開けたふたりの姿を、橙色の夕陽が染め上げる。


「――ずっと、ずっと……よろしくね」

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