表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マレビト来たりてヘヴィメタる!〈鋼鉄レトロモダン活劇〉  作者: 真野魚尾
第五章 しるし

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/124

第74話 思惑どおり

 (けん)()が部屋に戻って間もなく、


「……は……入っても……いい……?」

(みお)姉でしょ? いいよ」


 澪がすごすごと入室して来た。


「おかえり」

「う、うん。ただいま……」


 相変わらずあからさまに距離を取っているのが気にかかる。


「(ちゃんと汗拭いたんだけどな……)俺、昼メシまだなんだ。澪姉は外で食べて来ちゃった?」

「ううん、まだ。それで献慈のこと誘いに来たんだけど」

「そっか。じゃあ今からどっかに食べ行こうよ」


 献慈はベッドを降りて歩み寄るも、澪は頑なに目線を合わそうとはしない。


「澪姉……さっき言ったこと気にしてるんなら……」

「わ、わかってるから! け、献慈は……その……す、スッキリした……?」

「まぁ、久々に思いっきりぶっ放したからね。カミーユにも手伝ってもらってさ」

「そうだったんだー………………えっ?」

「ああ、もちろんライナーさんもね」

「…………ええっ!?」

「最後はシグヴァルドさんがデカいのを一発……」

「ちょ、ちょっと献慈、ちょっと待ってええぇぇ!? じょ、情報が……情報が追いつかないからああぁぁ!!」


 息も荒く眼を血走らせる澪に、献慈は速やかな説明を迫られるのだった。




 その日の午後、すでに夕方と言ってもいい時刻となっていた。

 部屋に集まった三人の顔を献慈は見渡した。


「……もう一度説明する?」

「いいって。ちゃんと聞こえてる」


 真っ先に答えたカミーユが最も落ち着いた面持ちを見せている。

 次いで口を開いたのは澪だ。


「倒しに……行くの? ヨハネスを?」

「それは僕たちも戦力として期待されていると考えていいのですね?」


 ライナーにすら若干の動揺が窺える。たしかに、献慈の行動は他人から見れば急な印象を与えたに違いない。


「頼みがあると言ったのはそういうことです」

「すでに一度完膚無きまでに敗れた相手だというのは承知の上でですか?」


 ライナーが念を押す、その対角線上でカミーユが冷ややかに笑う。


「白々しいなぁ、ライナー。アンタの思惑どおりに転がってるじゃないの」

「……どういうことです?」

「思惑云々は心外ですが……ここで口をつぐむのはフェアではありませんね。率直に言えば僕らにとって渡りに船という意味ですよ、ドナーシュタール奪還のための」


 これは午前中の話の続きだと、献慈は瞬時に理解した。


「烈士界隈で義理や恩讐(おんしゅう)は何よりも重んじられます。ミオさんの仇討ちという名目があれば多くの者の同情を集められるでしょう。ヨハネス討伐隊への選考理由として有利に働くのは間違いありません」

「理屈は……わかります」

「ええ、極めて合理的かつ打算的です。だからこそ尻込みもする。……ですよね? カミーユ」


 ライナーが返答を求めた相手は、極めて不快そうに頬を歪める。


「見くびらないでくれる? あたしは……ケンジみたいなヘタレを連れてくのが不安なだけ。ミオ姉だってこのところすっかり腑抜けちゃってさ、正直当てにならなそうだし」

「澪姉……」


 話題の中心へ躍り出た澪を見つめながら、献慈は次に紡ぐべき言葉を必死に探った。


「俺は……澪姉の力になりたくて旅に出たんだ。なのに……俺がしたことっていったら、死にかけてみんなに迷惑かけたことだけだ。何も……してこなかった。できなかった」


 傷つけたいわけじゃない。


「澪姉に、立ち止まったままでいてほしくないんだ。明るく前を向いて、ひたむきに生きてほしくて、どうしたらいいか、いろいろ考えて……」


 拙くて、愚かで、子どもじみた情熱。


「結局こんなことしか思いつかなかった。ごめん、自分勝手で。でも、まだ少しでも前に進みたい気持ちが残ってるなら、俺と一緒に来てほしいんだ。一緒に……乗り越えよう、過去を」


 それでも、伝わってくれと願った。

 だから返事を、待った。


「……私は……」

「…………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ